
「3年前に脳梗塞を患い、その後、糖尿病をきっかけに大腸がんが見つかりました。病気が見つかる前の自分に会えるとしたら、『ちゃんと検査や健康診断を受けたほうがいいよ』と言いたいです」
そう話すのは、お笑い芸人でもありアイドルプロデューサーでもあるヲタルさん(54歳)。ヲタルさんが身体に異変を感じたのは40代後半のことだった。
51歳で脳梗塞に
「頭が痛くて毎日、頭痛薬を飲むようになりました。横になると天井がぐるぐると回るような症状もありましたが、“貧血かなぁ、血圧が高いのかもしれないなぁ”と思いながらやり過ごしていました」
その後、芸人仲間のイワイガワの井川さんと一緒にネタを書いているとき、片方の手や口の中がしびれるような感覚を覚えたという。
「脳梗塞に関するテレビ番組の内容を思い出し“もしかしたら脳梗塞なのかもしれない”と思いました。でも、“自分が脳梗塞になるなんてあり得ない”という気持ちもあり、そのまま帰宅しました。次の日、アイドルプロデュースをしている事務所に顔を出して症状のことを話したところ“すぐに病院で診てもらったほうがいい”と言われ、脳神経内科を受診しました」
病院で血圧を測ったところ、なんと最高血圧が240mmHgだった。
「その数値を見て、看護師さんがびっくりしていました。すぐに検査を受けるようにと言われたのですが、その日は生配信の番組MCの仕事が入っており、どうしても休むことができなかったんです。先生に事情を話し、次の日にMRI検査を受けました」
検査の結果、脳梗塞が見つかった。51歳のときのことだった。
「MRI画像から、僕が脳梗塞を患うのは2回目だということがわかりました。1回目の脳梗塞はおそらく、天井がぐるぐる回っていたときに起きていたのだと思います」
糖尿病をきっかけに大腸がんが見つかる
ヲタルさんは入院して点滴治療を受け、3週間ほどで退院した。症状は治まったものの、その後は後遺症に悩まされるようになったという。
「呂律が回りにくくなってしまったんです。しゃべることが仕事だというのに、舌がもつれる感じがして以前のようにはしゃべれなくなってしまったんです。今も呂律が回りにくいので、丁寧に意識して話すように心がけています」
その後、1年ほどがたったころヲタルさんは疲労感や頻尿、のどの異常な渇きが気になるようになったという。
「とにかくのどが渇いて毎日、スポーツドリンクなどを3lは飲んでいました。頻尿や疲労感も気になり、すぐに息切れしてしまうので仕事にも影響が出るように。症状から病気を調べたところ全部の症状が糖尿病に当てはまったんです」

ヲタルさんは自身の病名を明確にしたい一心で、人生初の人間ドックを受けた。
「会社員や公務員の方と違い、芸人には健康診断を受ける義務はありませんから、それまで一度も健診を受けたことがないんです。芸人仲間の猫ひろしの紹介で人間ドックを受けた結果、糖尿病と診断されました」
糖尿病の検査の過程で、さらに深刻な病気を患っていることが判明した。
「検便で血便が見つかったため、大腸内視鏡検査を受けたんです。数人が検査を受ける中、僕のときだけ時間がかかり、いろいろな人が集まってきたので嫌な予感がしました。実は母が大腸がんを患っており、僕が42歳のときに亡くなっているんです。僕も大腸がんなのだろうかと不安ばかりが募りました」
実は、ヲタルさんが“大腸がん”だと知ったのは手術直前のことだったという。
「検査結果を聞きに行ったとき、先生に“病名を聞いてますよね?”と言われ、なんだか怖くて聞いてもいないのに思わず“はい!”と返事をしてしまったんです(笑)。手術の担当医の診察を受けたときも同じ流れで、結局、手術の同意書に『大腸がん』と書かれているのを見て“やっぱり大腸がんだったんだ”と」
食事療法などで糖尿病を克服
手術は2024年9月に行われ、無事に成功した。
「お腹に穴をあけて行う腹腔鏡手術を受けました。手術は怖かったのですが、一番気がかりだったのは“人工肛門になるかもしれません”と言われたことでした。人工肛門になるかどうかは、手術をしてみないとわからないとのことでしたが、幸いにも人工肛門にはならずに済みました」
ヲタルさんにはもうひとつ、心配なことがあった。
「僕の大腸には腫瘍が2つあり、がんの腫瘍は手術前の内視鏡検査で取ってもらったもの。もう1つ大きい腫瘍があり、手術で取り除きました。摘出した腫瘍は病理検査に回すことになり、先生から“これもがんだったら今後の治療法を考えることになります”と言われました。そのため手術が無事に終わっても不安が残り、死が頭をよぎりました。病理検査の結果、がんではないことがわかってようやくホッとできました」
ヲタルさんは糖尿病と診断されて以来、食事療法と運動療法に取り組んだ。
「プロ野球選手だった佐野慈紀さんは糖尿病の合併症で右腕を切断していますし、プロレスラーの谷津嘉章選手は右足を切断しています。こうしたニュースを見聞きしていましたから、糖尿病は怖い病気だと思いました」

それまでは、夜中に脂っこいものを食べたり、お腹がすくとコンビニのお弁当を2個食べたりと暴飲暴食をしていたという。しかし、糖尿病と診断されてからそれまでの食生活を反省し一変させた。
「食事はまいたけや鶏肉をレモンじょうゆにつけたものにかえました。無糖のヨーグルトに冷凍のブルーベリーを入れて食べることもあります。また、移動の時間を利用して、一日1時間は歩くようにしていました」
こうした生活を続けたところ、半年ほどで糖尿病を克服できたという。
「自分が糖尿病だと知ったときはショックでしたが、糖尿病を機に大腸がんが見つかりましたし、健康を意識した生活を送るようになりました。だから、病気になるのも悪いことだけじゃないなぁと思います。人間、いつ寿命が終わるかわかりませんから、まわりの人に感謝をしながら後悔しない毎日を過ごしていきたいです」

取材・文/熊谷あづさ