
幼なじみから生涯の伴侶となる『あんぱん』に、イケメン裁判官夫の『虎に翼』、ひと回り年上夫が妻を支える『あさが来た』─。朝ドラヒロインの夫は魅力的な人が多い。そこで、30代~60代女性500人にアンケート。あなたの理想の朝ドラ夫は誰ですか?(2010年以降の作品対象。『あんぱん』は除外)
NHK朝ドラ、理想の夫ランキング

9位は『おむすび』('24年)の米田翔也(佐野勇斗)。橋本環奈演じるヒロイン・結の夫で、高校球児だった翔也との出会いがきっかけで結は栄養士を目指す。
アンケートには、「何があっても一生添い遂げてくれそう」(広島県・48歳)、「互いの夢のために助け合うのを当たり前と思っている」(神奈川県・53歳)とのコメントが集まり、11票を獲得した。
「朝ドラ夫は大きく分けると2パターンあって、1つは夫がヒロインの夢を応援して支えるパターン。もう1つは夢を追いかける夫をヒロインが支えるパターン。でもこの2人はちょっと特殊で、途中でその関係に逆転現象が起こる。そこが面白い」と言うのは、漫画家でテレビウォッチャーのカトリーヌあやこさん。朝ドラに詳しく、トップテン入りの理由をこう話す。
「翔也は自分の夢が叶わなくなると、妻の夢を支えるべく彼女の実家の家業まで継ぐ。献身的な夫でした。キャラクターとしてもまっすぐ。すごくポジティブで好感度が高かった」
続いて、カトリーヌさんとランキング結果を見てみよう。

同票数の9位は『カムカムエヴリバディ』('21年)の雉真稔(松村北斗)。母・娘・孫三代のヒロインがリレー形式で家族の歴史を紡ぐドラマで、稔は初代ヒロイン・安子(上白石萌音)の夫として登場する。
「キリッとしてカッコよかった」(京都府・63歳)、「誠実さとビジュアルが合っていた」(東京都・53歳)と11票獲得。
「本屋での出会いから始まり、喫茶店で語り合ったり、お祭りでデートをしたり。駅で別れるとき『May I write a letter to you?(あなたに手紙を書いてもいいですか?)』と安子がつたない英語で尋ねると、稔が『Of course.(もちろん)』と答えたりと、すべてが青春なんですよね」とカトリーヌさん。
2人の夫婦生活は短く、稔は学徒出陣で帰らぬ人に。
「ぱっと駆け足で去ってしまっただけに、より印象的でした。松村さんの海軍の軍服姿も美しかった。結局イケメンかって感じだけれど(笑)」
『らんまん』からランクイン

8位は『らんまん』('23年)の槙野万太郎(神木隆之介)。植物学者・牧野富太郎がモデルで、妻・寿恵子を浜辺美波が演じている。
「自分の目標に前向きなところが魅力」(三重県・34歳)、「一途に妻を愛し続ける姿に感動」(神奈川県・55歳)と12票獲得。
「植物に夢中の万太郎だけれど、植物を除けば妻がベストオブベスト。出会ったときから最後まで終始ラブラブで、最終回は若き日の亡き妻が現れ、目と目を合わせてにっこりする。ラブラブ夫婦は最終回が夢物語になる、これも朝ドラのあるある」とカトリーヌさん。夫婦の姿はどこか微笑ましく、キャスティングの妙も光った。
「夢ばかり追ってないで働けよ、なんて部分もあったけど、なんとなく許せちゃうのが神木さんの素晴らしさ。浜辺さんが『夫は私の推しです』とばかりに最後まで支えていくところも良かった。もう今の時代はめったにそんなことはないわけで、美しい一途な夫婦像に憧れる部分もあるのでは」

6位は『マッサン』('14年)の亀山政春(玉山鉄二)。ニッカウヰスキーの創業者・竹鶴政孝がモデル。妻・エリーを米国出身の女優シャーロット・ケイト・フォックスが演じ、朝ドラ史上初の外国人ヒロインとして話題を呼んだ。
「今から100年以上も前に渡英し、外国人女性と恋に落ち、生涯添い遂げて妻を見送った。素敵すぎる夫」(東京都・55歳)、「夢を追いかけている。妻を愛している」(千葉県・69歳)と、13票獲得。
「ウイスキー造りりがうまくいかずに貧しく苦労するけれど、奥さんが絶対的に支えていく。このブレのなさが評価されたのでは」とカトリーヌさん。こちらもラブラブ夫婦の定番で、ラストは夢物語の展開に。
「先に亡くなったエリーさんとマッサンがぱっと若返って、2人で麦畑を駆けていく。とても美しい最終回で、夫婦の理想の形でもありました」
同数の6位は『花子とアン』('14年)の村岡英治(鈴木亮平)。『赤毛のアン』の翻訳者・村岡花子をモデルに描いた物語で、ヒロインの花子を吉高由里子が演じた。
「頼りがいがあってカッコいい」(宮城県・52歳)、「親しみやすさと周囲への気配り、優しさがある」(神奈川県・58歳)と、13票獲得。
「花子が本を取ろうと背伸びをすると、英治がさっと取って渡してくれる。出会いからして王道のラブストーリー。そこで花子が彼を一瞬好きになるものの、そのときはまだ英治は既婚の身。朝ドラで不倫か!?なんて思わせたけれど……」とカトリーヌさん。
英治は前妻の病死後、花子と再婚し、彼女を支えていく。
「夫がヒロインを応援するパターンで、英治は花子の才能を信じ、後押しをして、最後もめでたしめでたしでした。鈴木さんもハマリ役で、この役がきっかけで全国的に知られるようになりました」
幼なじみという王道少女漫画的な結婚

5位は『梅ちゃん先生』('12年)の安岡信郎(松坂桃李)。医師を目指すヒロイン・梅子の奮闘を描いたオリジナルストーリーで、主演を堀北真希が務めた。
「誠実で優しい雰囲気」(長野県・48歳)、「幼なじみという関係に憧れた」(東京都・40歳)と、14票獲得。
「2人は隣に住む幼なじみで、お互い別の人と付き合ったりしながら、最終的に結ばれる。少女漫画的シチュエーションで、ぐっとくるものがありました」とカトリーヌさん。
松坂は本作で本格ブレイク。この後『わろてんか』('17年)でもヒロインの夫・北村藤吉を演じ、こちらはトップテン圏外の27位に。
「ずっと気づかなかったけど、一番そばにいた人が本当に心を許せる相手だった。本当に自分をわかってくれるのはこの人だった……。こんな人がいてくれたら、という女性の願望を具現化した男性でした」

4位は『虎に翼』('24年)の星航一(岡田将生)。日本初の女性弁護士・寅子(伊藤沙莉)の半生を描いた物語で、航一は寅子の再婚相手となる。
「一番カッコよかったし性格も良かった」(岡山県・48歳)、「優しそうで、自分のことより私のことを考えてくれそう」(新潟県・55歳)と、20票獲得。
「航一は非常にミステリアス。彼の口癖は『なるほど』だけど、その『なるほど』は肯定なの? 否定なの? なんてところがありました」とカトリーヌさん。
航一はエリート裁判官で、スーツをぴしりと着こなす岡田のイケメンぶりも当時SNSで話題を呼んだ。
「人の気持ちがわからなそうに見える航一だけど、寅ちゃんが前夜、涙したとき、『ゆうべ、泣きましたか?』と聞くシーンがあって。あれにはみんなキュンキュンしたのでは。ちゃんと私のことを見てくれている。そういうのに女性はやっぱり弱いですよね」
夢を追い続ける天才漫画家が3位に

3位は『ゲゲゲの女房』('10年)の村井茂(向井理)。漫画家・水木しげるさんがモデルで、妻でヒロインの布美枝を松下奈緒が演じている。
「ユニークな対応が飽きさせない」(埼玉県・35歳)、「何があってもやりたいことに自信を持ち続ける姿が誇らしい」(東京都・49歳)と、25票獲得。
「いつまでも夢を追いかけ続ける夫を、妻は信じてついていく。こういう男性をよく支えたなとも思うけど、結果的にモデルになった方は大成功してる。そこで納得できてしまう」とカトリーヌさん。
『あんぱん』や『マッサン』、『らんまん』とも共通するあり方だと話す。
「何より向井さんや玉山さんは彼らのルックスもポイントが高かった。イケメンがそろっていて、もう推さずにはいられない。イヤでも推してしまうのよ、という顔ぶれでした(笑)」

2位は『あさが来た』('15年)の白岡新次郎(玉木宏)。波瑠演じるヒロイン・あさの11歳上の許嫁で、彼女が11歳のときに出会う。
「モテ男で不安になりそうですが、優しくて色気があって素敵でした」(茨城県・43歳)、「奥さんのやりたいことを自由にさせてあげる気持ちの広さと行動が素敵。ヒロインがうらやましかった」(千葉県・47歳)と、28票を獲得した。
「女性起業家のパイオニアをモデルにした物語で、女性が働くという概念がない時代に、新次郎は妻を全肯定して支えていく。そこが魅力」とカトリーヌさん。あさを大らかに見守る新次郎は玉木の当たり役といわれた。
「ディーン・フジオカさん演じる五代(友厚)様も話題になりました。あさはイケメンに囲まれているけれど、素敵な夫がいて、しかもラブラブ。新次郎も三味線の師匠となんだか怪しいぞとにおわせつつ、結局何もなかった。遊び人みたいでふわふわしているけれど、奥さん一筋、というのが最高」
朝ドラ夫は妻一筋で、そこが理想とされる理由の一つ。だが、中には異色の例が。
「まれにブレることもあるのですが『ごちそうさん』('13年)の西門悠太郎(東出昌大)が夫で、幼なじみの女性に心が揺れ、それが妻(杏)にバレてしまう。朝ドラ夫としては超例外な上に、リアルでも東出さんは不倫したという……。何とも恐ろしい展開に」
朝ドラ史上最も感動的な別れといえば!

第1位に輝いたのは、『虎に翼』の佐田優三(仲野太賀)。寅子の初婚相手で、再婚相手の航一と共にランクイン。
「温和で優しく、いつでも温かく見守ってくれそう」(埼玉県・55歳)、「笑顔が浮かんで泣けてくる」(福岡県・51歳)、「まじめで誠実。穏やかで実直。好感しかない」(北海道・68歳)と、31票獲得。
「当初は契約的な結婚だったけれど、お互いどんどん好きになっていく。出征のときの、2人が変顔をし合う場面は忘れがたい。そのまま二度と会えないわけだけど……」とカトリーヌさん。優三は戦死し、遺品にあった手紙が寅子の再婚を後押しする。
「トップテンに選ばれたのは奥さんラブな人たちばかり。中でも自分の死後まで考え、再婚を認めている優三の愛は非常に大きく、ヒロインのすべてを受け止めている。納得の1位です」
現在放送中の『あんぱん』も終盤を迎え、9月29日から新しく朝ドラ『ばけばけ』がスタートする。小泉八雲と妻・セツをモデルにした物語で、ヒロインを高石あかり、夫には英国出身の俳優トミー・バストウがオーディションで選ばれている。彼は世の女性が焦がれる理想の朝ドラ夫になれるのか? カトリーヌさんに聞いた。
「外国人が夫というのは初めてのパターン。夫が夢追い人で妻が支えることになるのだろうけど、そこに支持が集まるかどうか。『マッサン』の情熱、『ゲゲゲの女房』の夢に打ち込む姿、『らんまん』の植物に対する愛だったりと、なぜヒロインが夫を推せるのか、納得させるだけの何かが欲しい。私が支えなきゃって思わせる部分がどう描かれるのか、楽しみにしたいと思います」

<取材・文/小野寺悦子>