Mrs.GREENAPPLE

 7月8日にデビュー10周年の記念日を迎えた人気バンド「Mrs. GREEN APPLE(以下、ミセス)」。今夏は、多くの音楽フェスに出演するなど、10周年イヤーを盛り上げるべく、精力的に活動している。

 '15年に5人組バンドとしてメジャーデビューしたミセスは、'20年7月に活動を休止。2人の脱退を経て'22年3月に活動を再開すると“フェーズ2”をスタートさせた。

Mrs. GREEN APPLE、“国民的バンド”に

「現在は、ボーカル、ギターを担当する大森元貴さんとギターの若井滉斗さん、キーボードの藤澤涼架さんの3人編成となりました。それ以降、快進撃を続けており、'23年に『ケセラセラ』で、'24年に『ライラック』で2年連続の日本レコード大賞を受賞する快挙を達成。7月2日に発表された音楽チャート『ビルボードジャパン』の集計によると、全楽曲の国内でのストリーミング累計再生回数が、100億回を突破した史上初のアーティストとなりました」(音楽ライター、以下同)

 その勢いは音楽活動だけにとどまらず、

「大森さんは、4月に公開された映画『#真相をお話しします』でtimeleszの菊池風磨さんとW主演を務め、俳優デビューを果たしました。現在は、朝ドラ『あんぱん』にも作曲家の役で出演しており、注目を集めています。また、6月にはTBS系で冠バラエティー『テレビ×ミセス』が放送され、トーク力の高さを知らしめました」

 曲は数多くのCMやタイアップにも起用されており、

「最近では、東京ディズニーリゾートのイベントのテーマソングを担当したことも大きな話題を呼びました。着々と“国民的バンド”に近づいているのではないでしょうか」

 メジャーデビュー当初からミセスの取材を続ける音楽テクニカルライターの布施雄一郎さんによると、彼らの最大の魅力は“多様性”だという。

「この“多様性”には多くの側面があります。最もわかりやすいのは、ビジュアル的な部分でしょう。曲やコンセプトに合わせて、派手な衣装を着たり、フォーマルな格好をしたり、いわゆる“バンド”と聞いて想起するようなカッコいい服装をすることもあります」

ロールモデルは『嵐』

 さらに、音楽的にはロックバンドでありながらも、

「大森さんがジャンルとして公言しているわけではありませんが、時にはアイドル的だったり、K-POPやクラシックのような“魅せ方”もしています。“ロック的”な音楽以外とも距離が近いんです」(布施さん、以下同)

 大森が俳優業に取り組んでいることも“多様性”のひとつ。

「従来のミュージシャンは音楽が中心で、人によっては演技や文筆業などを“やることもある”のが一般的でした。ミセスは、こうした活動もすべて同じ熱量でやって“肩書を超える”のではなく“肩書をなくして”います。これまでにいなかったタイプのアーティストだと思います」

 そんな3人の目指すところはというと、

「数字や記録を打ち立てることではなく“エンターテイナー”として国籍や年齢に関係なく、より多くの人を楽しませたいと思っているようです。昨今の活躍ぶりは、それに近い状態にあると思います」

7月8日には『ケセラセラ』や『ライラック』も収録された、10周年記念アルバム『10』をリリース

 また、テレビ局関係者によると、

「同じく“国民的アイドル”として一世を風靡した『嵐』のような活動の仕方を理想としているようです」

 ミセスの進む道を“王”のように導く大森だが、

「'22年に公開された二宮和也さんの主演映画『ラーゲリより愛を込めて』の主題歌を担当したことをきっかけに、二宮さんとの親交を深めたそうです。もちろん、幼いころから嵐の活躍ぶりは目にしていたでしょうし、二宮さんとじかに接することによって、嵐を“ロールモデル”として描くようになったのかもしれませんね」(同・テレビ局関係者)

 長年、嵐を取材しているメディア研究家の衣輪晋一さんに、ミセスと嵐の共通点を聞いた。

「嵐のすごいところは、世代や時代を問わず普遍的に愛される曲がたくさんあることです。ミセスの場合、デビュー当初はどちらかというと若者向けの“青春ソング”が中心でした。“フェーズ2”以降は大人にも響く曲が増えたように感じます。つまり“普遍的”に近づいたということです。また、寄り添ってくれるような親しみやすさや、聴いていてポジティブになる曲だということも、嵐と通じる部分があると思います」

大森がほかの2人を「推そうとしている」

 また、表現においても、

「MVやライブなどで、衣装や演出などのコンセプトを徹底している点も、嵐と近いかもしれません。音楽面だけでなく“エンタメ”としてのよさを追求しているように思います」(衣輪さん、以下同)

 一般的に“フロントマン”としてバンドを牽引するのはボーカルであることが多いが、

「このところミセスは“個”が立ってきており、5人全員が第一線で活躍していた嵐に近づいているのではないでしょうか」

大森元貴は映画『#真相をお話しします』で、菊池風磨とともに主演を務めた(公式HPより)

 前出の布施さんによると、ミセスは「大森さんがほかの2人を推そうとしている」のだという。

「何もしないでいると、どうしても大森さんだけが目立つ形になってしまいます。しかし、2人の才能とキャラを立てたいという思いが強くあり、その後押しをしているようです」(布施さん、以下同)

 実際、ギターの若井は昨年4月から放送されている音楽バラエティー番組『M:ZINE』(テレビ朝日系)でMCに挑戦。キーボードの藤澤も、9月に公開される『ベートーヴェン捏造』で映画に初出演するなど、多岐にわたる才能を発揮している。

「インタビュー中にも、大森さんが“りょうちゃん(藤澤)はどう思う?”などと、ほかの2人にすごく自然に話を振る場面がよくあります。そのおかげで、全員がバランスよく話してくれるんです(笑)。大森さんは“3人でミセス”だという気持ちが強いのだと思います」

 多くの共通点を持つ嵐とミセス。今後、ミセスがより“理想”に近づくためには、

「取材陣や一緒に仕事をするスタッフに好かれることがとても重要だと思います」

 と、衣輪さんは言う。

「嵐は、オフのときでも“カメラ回ってるっけ?”と思うほど仲がよくて、現場が楽しい雰囲気になるんです。それが“普段からこういうキャラなら、こういう企画ができるかも”といったキャスティングにつながることも。

 業界の人に好かれて“この人と仕事がしたい”と思わせたことが、嵐が嵐たる最大の理由です。もちろん、無理をして取り繕う必要はないですが、ミセスのさらなる爆発のカギはそこにあると思います」(衣輪さん)

ふせ・ゆういちろう シンセサイザー開発職を経て、2000年より音楽テクニカルライターとして執筆活動を開始。音響学、楽器、音楽に関する取材記事をはじめ、音楽作品のライナーノーツ、ライブレポートなど、「音」や「音楽」にまつわる活動は多岐にわたる。2022年、『音の正体』(シンコーミュージック)を出版
きぬわ・しんいち メディア研究家。雑誌『TVガイド』やニュースサイト「ORICON NEWS」など多くのメディアで執筆するほか、制作会社でのドラマ企画アドバイザーなど幅広く活動中