
「私は法を犯しておらず、潔白であると思っています」
9月3日、サントリーホールディングス(以下、サントリーHD)の前代表取締役会長・新浪剛史氏は公の場で、自身にかけられている違法サプリメント購入疑惑について法に触れていないと主張した。
プロ経営者にかけられた疑惑
「新浪氏は違法な大麻成分が含まれたサプリメントをアメリカから輸入した疑いがかけられ、8月22日に警察による家宅捜索を受けました。事態を把握したサントリーHDの鳥井信宏社長ら経営陣は“会長の要職に堪えない”と判断。新浪氏は9月1日に会長職を辞任しました」(ワイドショースタッフ、以下同)
新浪氏は会長職の傍ら、政府に対して政策提言を打ち出す団体「経済同友会」の代表幹事を務めるなど、政財界に大きな影響力を持つ人物。
「内閣府機関の経済財政諮問会議の民間議員などの要職も務めています。今回の疑惑を受けて新浪氏は、経済同友会の代表幹事としての活動を自粛すると発表しました」
新浪氏は、どのような人物なのか。経済評論家の鈴木貴博氏に話を聞いてみた。
「日本企業の弱点として、組織のトップが会社の目標を明確に定めず“なあなあ”で事業を進めていると指摘されたりしますが、新浪氏はその対極に位置する経営者。高いコミュニケーション能力を生かして、現場の社員と議論を交わしながら、課題を解決するなど、リーダーシップのある経営者といわれています」
新浪氏は2つの会社の業績を向上させている。
「2002年に“プロ経営者”として、ローソンの社長として招かれてからは『おにぎり屋』など、ローソン独自のプライベートブランドに注力。他コンビニとの差別化を図って業績を伸ばしました。
同じく2014年にサントリーの社長として招かれてからは、海外でのM&A、つまり合併買収を積極的に行ってサントリーのグローバル展開を先導。就任から10年で売り上げを約2倍にしました」(鈴木氏、以下同)
旧ジャニーズの性加害問題には強気に言及
仕事で結果を出しているため、その発言力も強い。
「政府に対して“消費税増税”を進言したり、組織の活性化のため“45歳定年制”なども提唱しています。これらの発言は物議を醸すこともありますが、世の中に一石を投じ、世論を巻き込みながら自分の影響力を行使してさらに強めていくという、彼なりの戦略なのでしょう」
精力的に発信する姿勢から“物言う経営者”として、日本の社会、経済界に大きな影響を与えてきた新浪氏。その力はメディアや芸能界にも及んでいた。
「2023年に故・ジャニー喜多川氏による性加害問題が表面化した際、新浪氏は“ジャニーズ事務所を使うことは児童虐待を認めるということ”と一刀両断。どのメディアもしばらく旧ジャニーズタレントの起用を見合わせることになりました」(前出・ワイドショースタッフ、以下同)

2024年末に取り沙汰された、中居正広とフジテレビの元アナウンサー間で起きた性加害トラブル、いわゆるフジテレビ問題でも存在感を発揮。
「騒動後、各企業がフジテレビへのCMを見送っていましたが、4月に発表された再発防止策を高く評価して、いち早くサントリーのCM再開の検討を表明。これ以降、ほかの企業もフジテレビのCMを再開する流れができました」
ガバナンスを説く立場から一転、疑惑の目を向けられるようになった新浪氏。すでに辞任したとはいえ、今後、サントリーのCMにも影響が出るかもしれない。
「“トップが薬物疑惑をかけられた企業のイメージキャラクター”というネガティブな受け止め方もできますからね。現在、サントリーのCMには蒼井優さんや上白石萌音さんらが出演していますが、今後どうなることやら……」
過去にサントリーとも仕事をしたことがある芸能プロ関係者に話を聞いてみた。
「今回の不祥事でサントリーのような大企業のCMを降板するタレントは、ズバリ皆無でしょう。CMの出演料は人気タレントなら年契約で5000万円、中堅でも3000万円と高額。契約期間中に追加の撮影があれば、契約料の3〜10%の出演料が発生するなど超大口案件なんです」
対してドラマ出演料は、よくて1話200万円という。
「タレントが不祥事を起こしたら違約金が発生しますが、これはスポンサー側にも適用されます。もしサントリーのCMに出演中のタレントが、今回の騒動でイメージが悪化したと主張すれば成立するかもしれませんが、新浪氏にかけられた疑惑の行方次第でしょう。
今回のようなケースであれば、大方の芸能プロはむしろサントリーさんに寄り添って契約更新を希望します」(同・芸能プロ関係者)
新浪氏の今後を予測
もし、新浪氏が“クロ”の場合、どのような罪に問われるのか。「ユニヴィス法律事務所目黒オフィス」に所属する五十嵐良平弁護士に聞いてみた。
「麻薬をみだりに日本に輸入した場合、法定刑は1年以上10年以下の拘禁刑とされています。仮に新浪氏がこれを輸入していたとすれば、この規定に違反していることとなりますので、罪状としては麻薬及び向精神薬取締法違反ということになるでしょう。
刑期はケース・バイ・ケースですが、営利目的でなく初犯であり、捜査にも協力的であるということであれば、仮に有罪となれば執行猶予もあり得るのではないかと思います」

大騒動となったが、サントリー側は新浪氏に対して訴えを起こすことはできるのか。
「株式会社の取締役は、会社に対して損害を与えた場合、その取締役は損害賠償義務を負うことになります。プライベートでの不祥事でも責任を負うかは議論になり得るところだと思いますが、不祥事によって会社のレピュテーション(評判)を毀損するようなことがあれば、サントリーの立場からは損害賠償請求をすることが考えられます」(五十嵐弁護士)
新浪氏に対する法の判断は未知数だが、前出の鈴木氏は新浪氏の今後について、このような予想を語る。
「新浪さんは十分な実績を残しており、年齢的にも引退して相談役といった名誉職についてもいい人。しかし今回でキャリアに傷がついたことで、そのような栄転が難しくなってしまいました。おそらくですが、2年後くらいに名誉回復を兼ねて、どこかの社長に就任して再び手腕を発揮するのではないでしょうか」
新浪氏による反撃が始まるのか、それとも─。