
「歯周病と身体の不調には密接な関係性があると考えています。多くの人は歯周病を単なる口の中の炎症だと考えていますが、実際には全身の健康悪化や重篤な病気の兆候である可能性があります」
と話すのは歯科医師の石川佳和先生。歯周病は、歯周病菌の感染や免疫力を低下させる食生活などが原因で発生する。30歳以上の約8割が歯周病にかかっているといわれており、自覚症状がないまま進行することが多いため注意が必要だ。
歯周病による炎症が病を引き起こす
「歯周病の研究が進んでいます。歯周病の症状出現は身体の免疫力低下のサインであり、なおかつ全身に関わる病気につながっているというメカニズムがわかってきました」(石川先生、以下同)
歯周病菌が全身に広がる主な経路は2つ。1つは、間違った歯磨きや歯石取りで傷ついた血管壁の隙間から歯周病菌が血管内に入り込み、全身に散らばって炎症を引き起こし、病気になるケース。
そしてもう1つは、口の中で増殖した歯周病菌が唾液や食事と一緒に胃を通過し、腸に到達する場合。これにより腸に炎症が起こり、免疫力が低下するとともに、腸の血管から全身に菌が広がり、悪影響を及ぼす。
「本来だと胃酸で歯周病菌は死滅するのですが、現代人は胃酸抑制剤の服用やピロリ菌の感染で、胃酸の分泌が減少していて、菌が腸までダイレクトに到達してしまうんです」
歯周病になると、65歳以上の死因1位であるがんになるリスクが24%高まるほか、糖尿病のリスクが2倍、脳梗塞や心臓病のリスクが3倍、さらにアルツハイマー型認知症になる確率も高まる、と石川先生。
「ほかにも、血中に入った菌が肝臓に流れると、肝臓の役割である脂肪やエネルギーを身体に送る働きを妨げ、肝臓内に脂肪をため込む要因に。つまり脂肪肝とも関係があるといわれています」
歯周病菌を体内に侵入させない
どうすれば歯周病菌の増殖を防げるのか?
「まずは歯石を増やさないこと。歯磨きが不十分だと、歯と歯ぐきの間に口内の菌が固まって歯垢(プラーク)ができ、さらにそれが塊となって歯石になります。たまった歯石は、歯周病菌の増殖を促します。歯石になる前に、歯磨きや歯間ブラシで汚れを残さず取り除くことが大切です」
歯石は自分では取るのが難しいため、歯科医院での歯石取りが必要になる。
「歯ぐきにはみ出して歯ぐきを強くこする歯磨きは歯ぐきの出血や炎症の原因となり、口内から体内への菌の入り口となるためNG。2~3か月に1度のペースで歯科医院での歯磨き指導と歯石取りを推奨しています」

歯周病菌は腸内細菌のアンバランスを引き起こし、腸内環境を悪化させる。そして腸内の歯周病菌がこれまた全身にばらまかれる。
腸内環境を整えて免疫力を高めることも、必要不可欠だという。そこで大切なのが、歯石をつくりやすくする食べ物や、腸内環境を乱す食品を避けること。
「食べかすや口腔内の唾液に含まれているカルシウム、リンなどの成分が結合して時間をかけて硬化し、石灰化すると歯垢が歯石になるため、カルシウムとリンのとりすぎに注意。リンを多く含むのはハム、ソーセージなどの加工食品です。意外にもカルシウム含有量が非常に多い牛乳は同時にリンも多い食品です。
反対に、噛むときに歯の表面をキレイにしてくれる、食物繊維は有効です。ごぼうやにんじん、レタス、セロリなどが代表的で、歯だけでなく口内の粘膜の表面についた汚れを取り除いてくれます。習慣的に食べることで結果的に歯石のできにくい体質になります」
避けるべき食品は?
「歯周病菌のエサになる白砂糖、歯周病菌を増やす小麦は避けてください。身体内に侵入した歯周病菌の働きを抑制するには、食物繊維とタンパク質をとって、乳酸菌を含む植物性食品や納豆などの発酵食品もメニューに取り入れるといいでしょう」
歯周病菌の増殖を抑えるカテキンが豊富な緑茶、抗炎症作用で歯ぐきを強くし、炎症を抑える根生姜、ネギ、ニラ、ニンニクも積極的にとりたい。
「殺菌、抗菌作用のある唾液の分泌も大切。食事の際はよく噛み、口内の唾液の分泌を促しましょう。口呼吸の人は、唾液が乾いて歯周病菌が増えやすくなるため、日頃から鼻呼吸を。
会話のときに、さ行が発音しづらい人も注意。正しい発音には前歯の位置と、上の歯の裏側の歯ぐきの形が大きく関係しているため、歯のぐらつきや歯ぐきが腫れている可能性が。そのまま放置をせず、異変を感じたらすぐに歯科医院で検査をしましょう」
あなたの歯周病進行度をチェック!
歯周病進行度チェックリスト
□朝起きたときに口の中がねばねばする
□口臭を指摘された
□「さ」行が発音しにくい
□下の前歯の裏がザラザラする
□歯と歯の間にものが挟まりやすい
1~2個当てはまる人は軽度。3個以上当てはまる人は中~高度の歯周病のため、歯周病菌が増殖している可能性大。歯科医院で歯石取りや検査をしよう。

歯周病菌を減少させるブラッシング方法
歯の頬側に直角に当て、ブラシの毛先がわずかに動く程度の振動を加え、30回磨く。外からは見えない歯の内側は噛み合わせの面にも当てながら45度の角度を保ち、同様に30回磨く。歯ブラシの毛先が、歯と歯ぐきの間に軽く当たるようにして磨くと歯石予防に有効。だが、力が強すぎると歯ぐきを傷つけるため、適度な強さで。
歯垢を防ぐ歯間ブラシやフロスは、歯ぐきを傷つけないよう丁寧に行う。ブラシはゆっくり歯間に挿入し、歯面に沿って前後に2~3回動かす。フロスは優しく歯間に入れてゆっくり上下左右に動かす。
ケアグッズ選びの基準
・歯ブラシ
ナイロン性で硬さは「普通」のものを。毛の高さは1.2~1.4cm、幅1cm、長さ2~3cmが理想。女性は口腔内が男性と比べて小さいので、前述のサイズ内で小さいものを選ぼう。毛足はストレート型で、毛束は3~4列で適度な間隔があると◎。
歯ブラシの毛が開いてきたら、歯垢を落とせなくなるため、すぐに取り替える。歯間や、歯と歯ぐきの間など細かい部分の磨き残しには、毛束が1つにまとまった小さなヘッドの歯ブラシで対策。
・歯磨き粉
泡立ちが少ないため、時間をかけて磨けるジェルタイプがおすすめ。歯磨き中は、歯磨き粉を飲み込まないこと。歯磨き粉に含まれる薬効成分が腸まで届き、腸内環境の悪化を招く。歯磨きのあとは、歯磨き粉をしっかりすすぐ。口内に歯磨き粉の薬効成分が残ったままだと、口内にいる有用な細菌も死滅してしまうので注意。
取材・文/井上真規子