
いま世界中で大人気となっている中国初のキャラクター「ラブブ」をご存じだろうか。ウサギのような耳を持ち、トゲトゲとした歯、大きくて丸い目に、ふわふわとしたボディが特徴のラブブは、“北欧の森に住む、小さくて遊び好きな妖精”という設定を持っており、おもにZ世代を中心に人気が広がっている。
ラブブの人気は日本の芸能界にも

アメリカの調査会社イーマーケター(EMARKETER)のデータによると、ラブブの販売・製造を手がけるポップマート(POP MART)は、2025年に10億ドル(約1480億円)のラブブを売り上げる見込みだという。
ラブブの人気は日本の芸能界にも広がっており、女優の松田美由紀(63)や、観月ありさ(48)、アイドルグループHey! Say! JUMPの山田涼介(32)など、ラブブを所有している芸能人はかなり多い。
しかし、ネットではラブブについて、以下のようにその人気を疑問視する声も多数みられるのだ。
《てかほんまにラブブってどこが可愛いの?ばり怖いねんけど》
《ラブブ、ネットで最近見るけど全然まったくかわいくないし気持ち悪いまである これ買っている人たちは本当にこれが可愛いと思って原宿のポップマートに並んでるの?》
《最近流行っているらしいラブブってやつ全然かわいくないしなんで流行っているのかわからないんだが》
たしかに、ギザギザと尖った歯や、少々つり上がった目は不気味に見えないこともない。かなり好みの分かれるキャラクターデザインにもかかわらず、なぜラブブはここまでヒットしているのか。
“憧れの人物”に近づくためのキーアイテムとなった「ラブブ」

まずラブブが流行した経緯から追っていこう。ラブブ人気の火付け役となったのがK-POPガールズグループBLACK PINKのタイ人メンバーであるリサ(28)だ。2024年、リサが自身のInstagramのストーリーでラブブを紹介したことをきっかけに、タイや欧米、東アジアなどへ徐々に人気が広がっていったとみられ、世界的歌手のレディーガガ(39)やリアーナ(37)も私物のバッグにラブブをつけている。
こうしてラブブはファッション感度の高い人たちの間で、瞬く間にトレンドアイテムとして認知されていったわけだが、ラブブ人気の裏には、Z世代特有の意識が関連しているとみられている。9月4日付けの東洋経済オンラインの記事で、芝浦工業大学教授の原田曜平氏は、Z世代の意識について次のように語っている。
《Z世代は、かつての若者のように“カリスマ的な存在”に一方的に憧れるのではなく、自分と感覚や立場が近い存在にこそ惹かれる傾向がある。SNS上で少しだけフォロワーが多い同世代のインフルエンサーや、クラスの中でちょっとオシャレなあの子といったような、“自分でもなれそうな”距離感の存在が、憧れの対象になっているのだ。》
カリスマ的存在である著名なアーティストたちから、身近な存在であるインフルエンサーたちへと徐々に広まっていったラブブは、“持っているだけでおしゃれになれる”、“憧れのあの子も持っているから私も身につけたい”といったZ世代の心理を突いたトレンドアイテムとして人気を伸ばしていったと考えられる。
しかも、ラブブは定価だと2000円弱で購入することができ、中高生でも手の届く範囲の値段であるため、簡単に“憧れの人物”に近づくことができる。ラブブを所有することが一種のステータスとなったことが、爆発的に売れた理由の一つではないだろうか。
“デコバッグトレンド”もラブブ人気の追い風に?
そして、ラブブ人気の追い風になったと考えられるのが、ここ数年ファッション業界でトレンドとなっている“デコバッグ”だ。
これは、ミュウミュウやバレンシアガといったハイブランドが、2023年にキーチャームをジャラジャラとバッグに飾りつけるスタイルを発表したことから流行したとみられるトレンド。このような、自分なりにバッグをカスタマイズし、個性を出すというトレンドのなかで、ラブブがバッグチャームとして注目されていったと考えることもできるだろう。
最近では、キャバ嬢やラウンジ嬢といった “港区系女子”たちの間でも、ハイブランドのバッグにラブブをつけたSNSの投稿などが目立っている。男性の場合は、バッグだけでなく、パンツのベルトを通す部分にラブブをぶら下げたコーデの投稿もみられ、男女問わずファッションアイテムとして取り入れやすいという特徴があるといえる。
そのほか、ラブブは色の展開が非常に豊富で、ポップな色合いのものから、落ち着いた色合いのものまで揃っているため、自分好みの“推しラブブ”を見つけやすいという特徴もあるだろう。
また、非公式ではあるが、メルカリなどのフリマサイトでは、クリエイターたちがオリジナルで制作したラブブ専用の衣装なども販売されている。
このように色や衣装で自分のオリジナリティを追求できることも、ラブブが幅広い層にウケている一因ではないだろうか。
SNS時代に即した販売方法で大バズり
もう一つ、ラブブにハマる理由として挙げられるのが、開封するまで中身がわからないブラインドボックス形式の販売になっていることだ。この販売方式では、全7種ほどあるなかから自分の“推しラブブ”を一発で当てることは難しく、パックでまとめて購入する人が多い。
TikTokではラブブのパック開封動画がかなり人気で、海外の動画のなかには2000万回再生を超える投稿もあるほど。シークレット仕様のレアなラブブを当てるまで買い続け、総額50万円を費やしたという投稿者までいる。
ラブブにここまでハマるワケは、開封するまでのドキドキ感、収集する楽しさ、そしてSNSを通じてシェアする楽しさを味わえることにあるのかもしれない。このようにラブブは、買うだけにとどまらないSNS時代ならではの“体験型”のアイテムだからこそ、ヒットしているのではないだろうか。
(文=瑠璃光丸凪/A4studio)