相葉雅紀

 8月最終週、放送中の夏ドラマでちょっとした異変が起こった。相葉雅紀が出演中の『大追跡~警視庁SSBC強行犯係~』が8.2%(8話8月27日)で、松本潤主演の『19番目のカルテ』の7.9%(7話8月31日)を視聴率で上回ったのだ(関東地区、ビデオリサーチ調べ、以下同)。

嵐メンバー出演のドラマ視聴率

2025年の『紅白』で復活が期待される嵐

 筆者は3年くらい前にあるテレビコラムで、嵐が出演したドラマの視聴率比較をしたことがある。

 嵐の結成が1999年。メンバーの中では99年に二宮和也が『危ない放課後』、01年に松本が『金田一少年の事件簿』と、若い2人が先陣を切って主演。櫻井は02年の『木更津キャッツアイ』で知名度を上げて03年に『よい子の味方』で初主演。00年代後半になると嵐が本格的にブレイクし、リーダーの大野智は08年の『魔王』で27歳にして初主演。最後に苦労人のイメージが強い相葉が09年に『マイガール』で主演にたどり着いている。

 視聴率の序列もほぼこの順番だった。

 圧倒的に優位なのは『花より男子2』(21.6%・全回平均、以下同)や『99.9-刑事専門弁護士2』(17.3%)などのヒット作を持つ松本。

 対抗馬は『フリーター、家を買う。』(17.1%)などの他、『拝啓、父上様』(13.2%)や『優しい時間』(14.9%)など、文芸的な名作に出演が多い二宮。

 櫻井翔は『謎解きはディナーのあとで』(15.9%)、『家族ゲーム』(13.0%)などがあり、大野は『怪物くん』(14.0%)などのヒット作はあるものの、出演作自体がさほど多くない。

 相葉も『三毛猫ホームズの推理』(12.8%)などは好成績を収めたが、近年は23時台の作品も多く、芸能界はシビアだと思わされたものだ。

 そして夏クール。松本の『19番目のカルテ』は、TBSの日曜劇場という常勝枠なこともあって、11.4%と好スタート。シリーズ3作目の櫻井翔の『放送局占拠』も6.5%とまずまずのスタート。対して相葉の『大追跡』(大森南朋、松下奈緒とのトリプル主演)は9.7%という上々の滑り出しを見せた。

 櫻井の『占拠』シリーズは、3年で3作と視聴者の期待値以上のハイペースで進んでいる感もあり、ネットでは主人公の口癖を引用して「嘘だろ!」と揶揄されることもある。今期は一時4%台に落ちる回もあったが、終盤持ち直している。

『19番目』は好スタートを切ったものの、5話からは一けた台に転落。多くの作品が10%越えをクリアしている日曜劇場としてはちょっと物足りない数字だ。そして7話では7.9%まで落ち込んだ。

 一方『大追跡』は2話以降も安定して8%台をキープ。8話も8.2%で、同週の『19番目』を上回り、ゴールデン・プライム帯の民放連ドラで首位に立ったのだ(両作が最終回だった翌週は、『大追跡』が8.7%に延ばした一方、『19番目』は11.0%と大幅に持ち直して、再逆転している)。

好感度が高い相葉雅紀

嵐「今後の活動」に関する会見での相葉雅紀('19年11月)

 グループ結成から26年、相葉はそのポジションに決して腐ることなく自分の仕事を続けていて、その姿は男性や年配層からも好感度が高い。もっとも、嵐自体がグループ内での序列などを意識させない稀有なグループなので、筆者も誰のことも批判するつもりはないが、その姿を見てきた視聴者からすると、ほんの1週間であり、トリプル主演でもあったが、今回の相葉の勝利は非常にメモリアルな出来事といえる。

 近年の嵐のメンバーの状況を見てみよう。

 芸能活動休止中の大野は別として、松本は2023年の大河ドラマ『どうする家康』が、思ったほど盛り上がらずに終わった印象が強い。だがその前年の『となりのチカラ』も不発に終わっていた頃から、すでに絶頂期は過ぎたように見えていた。

 櫻井は3年連続で主演している『占拠』シリーズの評判は賛否両論。24年に助演した『笑うマトリョーシカ』の、感情の読めない政治家役は個人的には見応えがあり、今後は年齢と共に助演も務めるようになるのかもしれない。

 二宮は『ブラックペアン』や『VIVANT』などのヒット作に出演。最新映画『8番出口』も話題になっており、作品運も強いといえる。

 ただこれは、嵐全員に言えることだが、あまりに外見が若すぎて、実際に40代になっているのに青年に見えてしまい、父親役や重厚感のある役が似合わないという、アイドルの宿命を背負っている。そもそも以前だったら、嵐の3人が同時に連ドラに主演したら大騒ぎになったはずだが、今回の視聴者の反応からは時代の変化も感じさせられた。

 そんな中、相葉もパンツ一丁のシーンがあった『今日からヒットマン』など、なかなか厳しい作品を振られていたが、今回はテレ朝の人気枠水9で10年ぶりの新作となる『大追跡』に起用。正義感がありつつも、時に内閣官房長官の甥であることをちらつかせたりする警視庁のキャリア刑事を好演。遠藤憲一や大森、松下らとのアンサンブルも良く、今後シリーズ化が期待される。年を上手に重ねていけば、人柄に対するファンが多いだけに、相葉が一番安定して活躍できる可能性もある。

 事務所の問題もあり、松本と二宮は新規事務所を設立。来春には嵐が解散するなど、40代になった彼らが岐路に立たされているのは間違いない。今はイケオジという便利な言葉もあり、誰がそこへスライドしていけるかが、彼らの明暗の鍵になりそうな気がする。

古沢保。フリーライター、コラムニスト。'71年東京生まれ。『3年B組金八先生卒業アルバム』『オフィシャルガイドブック相棒』『ヤンキー母校に帰るノベライズ』『IQサプリシリーズ』など、テレビ関連書籍を多数手がけ、雑誌などにテレビコラムを執筆。テレビ番組制作にも携わる。好きな番組は地味にヒットする堅実派。街歩き関連の執筆も多く、著書に『風景印ミュージアム』など。歴史散歩の会も主宰。