
第113回 志穂美悦子
『週刊文春』が報じた歌手・長渕剛さんの不倫疑惑。同誌によると、長渕さんは2年前から妻の志穂美悦子さんと別居しており、現在は事務所スタッフの20代女性と同棲しているとのこと。志穂美さんは長渕さんの関連会社3社の役員を務めていましたが、役員から引かされたそうで、状況証拠から言うと、志穂美さんが追い出されるような形に見えないこともない。『文春』の直撃を受けた志穂美さんは、会社の取締役を下りたことは認めたものの、退任の理由や不倫については明らかにしませんでした。
数々の女性と噂になった長渕剛
芸能ニュースが盛り上がる要因の一つは、“意外性”があると思います。あの人がまさかそんなことをしているなんてという驚きがあるから、世間はやいのやいの言うわけです。長渕さんの不倫疑惑に関して、意外性があると受け止めた人は少数派で、「まさか」ではなく「またか」というのが多くの人の抱く感想ではないでしょうか。
長渕さんの不倫報道は昔からあり、女優・国生さゆりさん、モデル・冨永愛さんらと不倫関係ではないかと報じられてきました。志穂美さんは不倫報道を聞かされても「ゾクゾクする」と意に介していないことを明かし、「アーティストに出会いは必要」と長渕さんの才能を開花させるのが自分の務めであるかのようにフォローしたのでした。妻がこうやって諫めたこともあり、「デキた女房」とか「正妻の余裕」というふうに変な持ち上げられ方をして終息したと記憶しています。今回もそんな感じなのだろうと思っていました。
が、9月4日配信の『女性自身』の記事を読んで、見方が変わったのでした。同誌によると、昨年からシャンソン歌手として活動をはじめた志穂美さんは、古巣JACの同窓会を企画するなど古希に向けて活動を始めたそう。出産や子育てなどで芸能活動から離れていた女性芸能人が再度活動をはじめることは珍しくありませんが、志穂美さんは再始動を「彼にはこの話を絶対にしないで」と秘密裡に進めてきたそうです。
記事は志穂美さんが加藤登紀子さんと同じ舞台に立つことや、ステージの場所と日程にも触れていました。志穂美さんと言えば今話題の人ですから、彼女に関する記事は数字を取ります。はからずもいい告知となったと言えるでしょう。
『週刊文春』をはじめとした週刊誌は、長渕さんと志穂美さんの関係を“卒婚”とたとえました。卒婚とは何か。「夫婦は一緒に暮らさなければならない」などの「こうあるべき」から自由になり、離婚という形は取らないで、別々に好きなことをする。結婚を卒業するという意味だと思われます。が、私に言わせると、志穂美さんは卒婚ではなく、“ミュート婚”ではないかと思うのです。
夫と“こっそり”距離をとる「ミュート婚」
SNSをやっていると、一度くらいは“ヤバい人”にあったことがあるのではないでしょうか。1度や2度なら「変な人に当たってしまった」くらいで済みますが、ヤバい人になると数年単位で粘着してくるので始末が悪い。X(旧twitter)の場合、こういったケースに備えて、ブロックやミュートという機能が用意されています。変な人にはもう関わりたくない、関係を根こそぎ絶ちたい。そう思ってブロックする人もいるでしょうが、ネットストーキングなどに詳しい専門家によると、ブロックは得策ではないそうです。なぜなら、相手をブロックしたことがバレてしまうから。
ネットストーキングするような人は、独特の被害者意識を持っていることが多く(自分は被害者だと思っていることが多いそうです)、ブロックされたことがわかると、傷ついた、だから、報復してやるというふうに、攻撃を正当化する傾向があるそうです。その点、ミュートは相手にバレる可能性も低いですし、ヤバい人の発言を目に触れないようにできるわけですから、精神的な消耗も防げると言えるでしょう。
見たくないものは見ない、自分から積極的かつ静かに距離を取るミュートという機能は、結婚生活にも利用できるのではないかと思うのです。上述したとおり、長渕さんは結婚してから今日まで、女性との噂が絶えることはありませんでした。女性たちとどんな関係であったのか外野は知る由もありませんが、記者に関係を尋ねられると、“師弟関係”とか“修行”というふうに煙に巻き(何の師弟で、何の修行なのか私にはわかりません)、噂になる女性たちは20代から30歳そこそこという共通点があります。

30年前から同じ言い訳をし、自分のお子さんよりも若い女性と疑わしい行動を繰り返す人に改心を求めるのは無駄というもの。それなら、自分にとってわずらわしい情報は耳に入れず、気持ちを切り替えて、自分のやりたいことに専念したほうがいいのではないかと思うのです。
だから、それを卒婚と言うんじゃないの?という人もいるでしょう。私が思うに、卒婚のポイントというのは、夫婦双方が離れることに合意していることを指すと思うのです。たとえば、ものまねタレントの清水アキラさんは60歳をすぎたら故郷の長野で自然に囲まれた暮らしをしたかったそうですが、妻が東京にいることを望んだだめ、ためしに卒婚をしてみたといいます(筆者注:その後、清水さんが寂しさに耐え切れなくなり、東京の妻のもとに戻ったそうです)。
それに対し、ミュート婚というのは、妻側がこっそり距離を取る(夫は避けられていることに気付かない)ことに意味があると思うのです。なぜなら、距離を取っていることがバレると、自分の自由が侵食されたり、夫から報復される可能性があるから。
女優・三田寛子は典型的なミュート婚
夫の存在を意識的に見えなくするミュート婚というと、女優・三田寛子さんもこのカテゴリに入るのではないでしょうか。8代目・中村芝翫さんは芝翫襲名直前から断続的に女性との不倫が報じられています。当初は芝翫さんの代わりに頭を下げていた三田さんですが、最近は完全にふっきれたと見え、成駒屋の女将さんとしての仕事や3人の息子さんのサポートはしつつも、忙しい合間をぬって韓国やパリに一人旅をしたり、同期のアイドルたちと旧交を温めています。インスタグラムの自己紹介欄にも「歌舞伎一家を支えながら、自分自身の人生も楽しんでいます」と明言し、インスタは“夫以外”で埋め尽くされています。

それでは夫と疎遠かというとそんなことはなく、中村芝翫さんの甥にあたる中村七之助さんの結婚披露宴のような家族としての公式行事には、全員で参列しています。ただ、三田さんと3人のお子さんはきちんとした礼服でバッチリ決めているのに、芝翫さんの礼服はシワシワ、かつサイズが合っていないように見えて話題となりました。
2025年3月11日・18日号『女性自身』によると、不倫相手との同棲を解消し、三田さんら家族の待つ家に帰ったと思われた芝翫さんでしたが、実は不倫相手と完全に切れておらず、芝翫さんの実家でまだ同棲中と報道されただけに、別宅から参加したと見る人もいたようです。
もし本当に不倫相手と切れておらず、同棲が続いているのであれば、こういうときこそ、不愉快な情報を取り込まない、ミュート婚の便利さが活きてきます。家にいない人の礼服の用意を三田さんがする義務はありませんし、シワシワ礼服で恥をかいたとて、三田さんが用意したわけではありませんから、三田さんの責任ではないのです。
ミュート婚の利点は、“あえて戦わない”ことで、かえって自分のスゴさをアピールできることではないでしょうか。たとえば、三田さんのシワシワ礼服のケースで言うと、「今まで芝翫さんがぱりっとしていたのは三田さんのおかげだった。やっぱり三田さんはすばらしい」と印象付けることができ、三田さんを応援する人が増えていくでしょう。
志穂美さんの場合でも同じことです。前述した『週刊文春』では、不倫だけでなく、長渕さんのスタッフへのパワハラや志穂美さんへのモラハラも報じられています。長渕さんは否定していますが、おそらく身内となった人に厳しく当たるタイプの人なのでしょう。志穂美さんは長渕さんのツアー時にスタッフをねぎらうことも忘れなかったそうですが、20代の女性が長渕さんからの仕打ちに耐え、スタッフを気遣いつつ、社長業をこなせるでしょうか。ミュート婚は「やれるもんならやってみな」という“献身妻”からの挑戦状なのかもしれません。
ミュート婚を選ぶ人というのは、もともとがとてもまじめな妻だった人ではないかと思います。夫のため、家族のために自分を二の次三の次にしてきた。それを夫が汲み取ってくれて感謝してくれれば報われるのですが、調子に乗って好き放題を重ねる人がいるのも事実。そうなると、妻はある日突然「私のやってきたことって何だったんだろう」と思ってしまう。妻としてやりきった感がある人ほど、気づいてしまったときの醒めっぷりがすごいのではないでしょうか。
しかし、世の夫は単純と言うか、妻の“覚醒”に気付かないことが多いように思います。最近、妻があまり文句を言わないとか、これやってあれやってと頼まれなくてラクでいいと喜ぶ夫がいますが、もしかすると、それはこっそり“ミュートボタン”を押されたからかもしれません。
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」