毎週月〜土曜、朝8時〜(NHK総合)ほか放送中

「(モデルの)やなせたかしさんが遅咲きだったので物語上、(嵩役の)僕がいつまでも悩んでいたり、立ち止まったり、下向いたりっていうことを60代に至るまでやり続ける中、“とにかく、やなせさんを模倣しよう”と。そこにしか答えが詰まっていなかったので」

本当にこの終わり方がベストだと思う

 放送中の朝ドラ『あんぱん』。柳井嵩(北村匠海)が、妻・のぶ(今田美桜)に支えられ続けながら、世界一弱くてカッコ悪くて温かいヒーロー“アンパンマン”を世に送り出す物語も、いよいよ最終週に突入。

 北村自身、嵩を演じることで非常に気分が沈むようになったと撮影の日々を振り返る。

「長らく、落ち込むということをしてこなかった気もするんですけど(笑)。それほど自分に影響を与えていて。でも振り返れば、僕は学生時代は基本的にネガティブ人間だったので、そこに立ち返る感覚がちょっとあったのかもしれないですね」

 実際のやなせさんはオシャレで、とても明るい人だったといわれている。

「嵩はやなせさんと比べると暗いし、やなせさんは“たっすいがー”(高知の方言で、頼りない)だったのかなと考えたり。でも、やなせさんはこの作品全体を包んでいて。僕はある種、象徴の存在だと行き着きまして。“似て非なるもの”になり、柳井嵩として1年過ごしていました」

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 嵩として“アンパンマン”を見ると、

「愛おしさとともに、ここまでの苦しさ、今まで出会ってきた人たち……いろんな顔が浮かびました。でもやっぱり、のぶちゃんをいちばん感じました。幼少期から今に至るまでを過ごしてきましたから。

 彼女は軍国主義も背負いましたし、ふたりで戦争後に話したシーンや、高知新報での再会……常に尻を叩かれながら僕は前に進んできたけど、時には自分が前に立つ瞬間があったり。

 どうしようもなく落ち込んでいるのぶちゃんを横で見ることもあったし。ふたりで歩むようになった中でもいろんなことが巻き起こった。そんなふたりの日々を、すごくアンパンマンに感じます」

 収録スタジオには前室というものがある。出演者が出番直前に待機する場所で、衣装の最終チェックをしたり、打ち合わせをしたり。おのずとコミュニケーションの場にもなる。

「『あんぱん』の現場に入るとき、ずっと前室にいようと決めました。僕はあんまり楽屋で落ち着くタイプじゃなくて。僕は役者もスタッフのひとりだと考えているので、やっぱり話し合って作っていかないといけないよねと思っているんです」

「『あんぱん』はのぶの物語」

 もちろん、台本や演出によって与えられるものはある。しかしながら、

「それをただやるんじゃなくて。自分の頭でちゃんと考えて、納得したうえでやりたい。しかも『あんぱん』は1年という長い期間ですし。最終的にはたぶん、人間関係。きっと、人との日々の会話の中で生み出していく作業になる気がしていました。

 とにかく、いろんな人と、作品の話じゃなくても、“今日、雨すごいらしいよ”とか、そういう何でもない会話を。距離感を生んではいけないと、ずっと前室にいました」

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 空き時間に楽屋に戻ることは一度もなかったという。前室に行けば北村がいる。自然と今田美桜が加わり、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、妻夫木聡……。キャストたちが前室に和気あいあいと集い始めた。

「僕がやったことはきっと間違いではなかったと最近、思っています。この物語をどうやって終えるかについても、今田さんや監督さんとたくさん話し合いましたし。『あんぱん』は誰が何と言おうと、のぶの物語。

 のぶをずっと見守り続けるのが、柳井嵩の役目だと思っていて。だから、いろんな案を出させていただきました。僕は本当にこの終わり方がベストだと思っています」

 と、とても誇らしげに語った北村。さらに取材に集まった記者たちに向かって、

「本当にみなさんもお疲れさまでした。素敵な記事をたくさんありがとうございます」

 と、労ってくれた。その丁寧さや誠実さが、説得力と愛され力にあふれた嵩をつくり上げた─。

絵が好きでよかった

 嵩による絵や漫画は、監修の指導のもと北村が自ら描いていた。

「小学生のときに絵画教室に通っていて。今回、心底、あのとき絵を好きになってよかったと思いました。撮影期間中は、オールアップ(撮影終了)した方の似顔絵を描いたり。常に、何かを描いていたような気がします。

 今回、改めて絵がすごく好きになりました。一度も苦じゃなかったし、楽しかったです。待ち時間で暇を極めたときには、共演者のみんなを巻き込んで“絵しりとり”をしたり(笑)。本当に楽しかったです、絵を描くということは」