
2005年にパフォーマンスグループ「AAA」としてデビューして以降、ずっと世間に隠し続けていたセクシュアリティ。2023年7月にファンの前で公表したところ、世界的な反響を呼び、『New York Times』で“2023年 世界に影響を与えた人々”12人に選出された與真司郎。彼が今だからこそ語る、カミングアウト後の心境、同性婚についての考え、LGBTQ+の誤解に対する思いとは―。
「ファンの方がいて、こうして活動させてもらっていることが本当にありがたいなと思いながら、毎日生きてます」
2023年7月にファン2000人の前で、ゲイであることをカミングアウトした與真司郎さん。2005年にパフォーマンスグループ「AAA」としてデビューし、『NHK紅白歌合戦』出場やドームツアーなどノンストップでスター街道を突っ走ってきた。だが、本当の自分を隠しながらの活動はつらかったという。
「本当は隠し事をするのが苦手なんですけど、プライベートでも仕事でも毎日、隠し事をしないといけなくて。それがいちばん大変でした。心の中で小さい傷がどんどん増えていくような感じで」
人生を変えたアメリカ旅行
誰にも言えず、たった一人で抱え込んでいた彼を変えたのは、LA(ロサンゼルス)旅行で見たある光景。
「2011年か2012年かな。お金を貯めて初めて行ったのがLAで。そのとき、男性同士のカップルが道端で普通にキスをしていて、“こんなに自由な世界があるんだ”と気づいたんです。当時はLGBTQ+について学べるところがなく、何もわからなかったんですが、“自分にも生きる場所がある”と思えて。そこから英語の習得をすごく頑張るようになりました」
そして2016年に本格的にLAに移住。日本とは真逆のカルチャーで友達もなかなかできず、当初は苦労したが、初めてできたボーイフレンド、カーターさん(仮名)のおかげで與さんの世界は大きく変わっていった。

「最初は、変わりたいと思ってここまで来たのにどうしよう、という感じでした。でも出会えた彼がすごくいい人で、自分のマインドが変わった。それまで“ゲイ=悪いこと。自分は幸せになれない”と思い込んでいたけれど、彼や周りの友達が“シン、ゲイって悪いことじゃないし、自信を持って生きていいんだよ”と言ってくれて。自分らしく生きる素晴らしさを教えてもらいました」
2023年のカミングアウトで、子どものころは「自分が間違っているんだ、自分はおかしいんだと思っていました」と語る場面で涙を流した與さん。
「LGBTQ+の人たちって自己肯定感の低い人が多くて、本当の自分を愛してもらえないと思いがちなんです。僕もまさにそうで、ずっと自分のことが好きではなかった。周りにすごく助けてもらって変われました。今でもみんなに感謝してます」
2人目の恋人は、愛を教えてくれた
カーターさんが人生を変えてくれた人なら、2人目の恋人・ライアンさん(仮名)は、愛を教えてくれた人。
「愛されたり、愛することはとても素敵なことだと、彼との恋愛で知りました。カーターともライアンとも、本当にいい恋をしたなと思います」
2019年、與さんはある夢を実現したいと思いつく。それは、パートナーや家族、友人、仕事仲間たちとのホームパーティー。だがそれは、彼にとっては非常にハードルの高い夢だった。
「ストレートの方だったら当たり前のことだと思うんですけど、僕は一生できないとずっと思ってたんです。でもそのとき、そういう当たり前のことがしたい、できるんじゃないかと」

そこから、2021年のクリスマスに母にカミングアウト。
「超ドキドキしながらLAから電話したのを覚えてます。母は“もっと早く言ってくれたらよかったのに”と言ってくれて。15歳で親元を離れて一緒に過ごした時間があまりなかったので、全然気づいてなかったみたい。そこから母もLGBTQ+のことについて勉強してくれて。すごくいいお母さんだなと思います。子を突き放しちゃう親もけっこういるんですよね。今ではデートの話とか、“最近どうなん?”みたいな話も普通にしてます(笑)」
カミングアウトした後の心境は
そして2023年のカミングアウト。世界中に報道され、與さんのもとにはさまざまな言語で“やってくれてありがとう”とメッセージが届いた。だが、直前の心境は「もう超イヤでしたよ〜(笑)」と。
「ファンの前でカミングアウトするケースって、海外でもあまりないらしくて。ロールモデルがいないので、どういう反応があるか全然わからない。みんなに嫌われてファンもゼロになって、日本にいられなくなるかもしれないと思っていました」
バックラッシュを覚悟しての公表。直後にはニュースやSNSのアプリを全部削除した。
「すごく怖かったんです。前例もあまりないし、特に僕は異性のファンの方が多いので。数日後にスタッフさんが“もう見ても大丈夫”と言ってくれて、再インストールしました」
そこには共感や応援など、ポジティブなコメントが多くあふれていた。だが……。
「それでも、中にはネガティブなコメントもあって。やらないほうがよかったかもと後悔することもありましたね。1年間くらいは、やってよかったと思うときと、やらなければ違う人生を歩めたのかなと思うときと、行ったり来たり。考え込みすぎて、ストレスで帯状疱疹になってしまいました」

「自分はこれでいいんだな」
そう話す現在の與さんは、明るくポジティブなオーラに満ちている。一体どうやってここまで強くなれたのだろう?
「去年6月くらいに、10年近く住んでいたLAの家を引き払ったんです。いろいろな世界を見ようと思って、そこからノマド生活をしてます。引き払った直後には2か月休みをとって、タイやロンドン、アムステルダム、ベルリン、スペインなどを一人旅。今も月に1回はどこかしらに行っています。フットワーク、めちゃくちゃ軽いです(笑)」
さまざまなカルチャーの人々と出会い、話すことで信頼できる仲間がさらに増えていき、「自分はこれでいいんだな」と自信が持てるようになった。今では世界各地に老若男女、たくさんの友達がいる。
時間があるときは、次はどこに行こうかと飛行機やホテルを調べる日々。「最近は仕事か旅のことしか考えてなくて」と苦笑する。先日は台湾へ行き、素敵な光景を目にした。
「普通の街角で、男の子同士や女の子同士で手をつないでいて。さすが、アジアで最初に同性婚がOKになったところだなと感じました。たぶん、法律が変わるだけで一般的な意識も変わるんじゃないかと思うんです。日本でも、少しずつみんなの意識が変わっていって、今苦しんでいる人たちがラクになればいいなと思っています」
同性婚が法制化されていない日本
日本ではLGBTQ+層の割合が9・7%(「電通LGBTQ+調査2023」より)といわれているが、同性婚がまだ認められていない。
「寂しい思いは感じます。本当に愛し合っているカップルが、家族でないということで、例えば事故に遭ってしまったとき意思決定に参加できなかったりする。実際に僕の友人の同性カップルが、コロナ禍に家族を亡くされて。家族ぐるみで仲がよかったのにパートナーは最後、会えなかったんです。本当に、日本でも早く認められたらいいなと思います」

海外では同性カップルが養子をもらって育てている家庭も珍しくないが、
「以前、僕がそのことを話した記事がニュースサイトに載ったんですが、“子どもがかわいそう”というコメントが結構来て残念な気持ちになりました。そのような家庭ですごく幸せそうな家族を僕はたくさん知っているし、逆に、ストレートの家庭で愛情をもらえてなかったら、そのほうがかわいそうだと僕は思うんです。なのに、ゲイ=かわいそうなんて、そこがまず間違っている。僕も今、人生が楽しいし、かわいそうと思われたくもない。その認識が間違っている人が多いなと思う」
またLGBTQ+について多いのが、「趣味・嗜好」という誤解。
「LGBTQ+のことを知らない人は、結構そう思っていて。趣味や嗜好だったら、みんなたぶんストレートの道を選ぶ。生まれつきのもので、変えられないからこそ、みんな苦しんでいるんです。自分のせいでもない、親のせいでもない、誰が悪いわけでもないのに、そこをジャッジするのは、悲しいことだなと思ってしまいます」
合わない人にフォーカス当てない
今でもネガティブなことを言われることはある。
「自分と合わない人にフォーカスを当てるんじゃなく、応援してくれる方や家族、スタッフ、友達、そして今、葛藤している人に夢を与えられるような方向に集中すればいい。そう思ったら、ネガティブな意見も気にならなくなって。というかエゴサもしなくなりました。昔はすごくしてたんですけどね(笑)」
できるだけ嫌われたくないと思って生きてきたが、自分と感覚が合わない人もいると考えられるようになった。そのよりどころが、2:6:2の法則。最新シングル『262』のコンセプトは、ここから来ている。
「世の中には、自分と価値観が合う人が2割。6割はどちらでもない人で、残りの2割はまったく合わない人、という考え方で。これを知ってから、とても生きやすくなったんです」
さまざまなメンタルヘルスの本を読んだり、友人たちと話す中で知ったこの法則。
「自分と意見が合わない人はこの世にたくさんいる。それより前に進もうと。人生は一度きりなので、合わない人のことを考えていたらもったいない。年を取るにつれ、どんどんそう思うようになって。みんなにもシェアできたらいいなと思って作った曲です」

歌詞は「今まででいちばん口が悪くなっちゃった」と笑う。
「僕のソロもAAAも、わりときれいな口調の歌詞だったんです。今回歌っていて、自分でも強いこと言うなあと思ったりしたんですけど(笑)。でも曲調も激しいのでマッチしてるんじゃないかな」
I just keep on coming back
I just keep on coming back(何度でも立ち上がる)というフレーズも印象的だ。
「周りから悪く言われて倒れてそのままだと、負けてしまう。僕も何回も立ち上がりました。ネガティブな人たちに人生をコントロールされるのは、本当にもったいないと思うんです。倒れても立ち上がって、感覚が合う人と助け合って、笑いながら生きられたらいいですよね」
来年春にはフルアルバムがリリースされる。すべてゼロからメロディーや詞を制作し、自分もプロデューサーになって作っただけに「1曲1曲、思い入れがすごく強くて、早く聴いてもらいたい!」と目を輝かせる。
「制作期間は2年半くらい。時間的にはもっと早められたんですけど、カミングアウトで精神的に曲が作れない時期があって。でもその期間があったからこそ、いろいろな曲が書けました。全体的にはメンタルヘルスアルバムのような感じかな。自分を見つめ直したり、前を向けるような曲が詰まってます」
一般人からは特別な存在に見える芸能人。だが「僕の悩みもみなさんと一緒です」と言う。
「人間関係や恋愛、人と自分の比較……悩みってみんな一緒だと思う。なので、共感してもらえたらうれしいですね」

自分が楽しく生きることがいちばん大切
来年4月26日からは愛知、大阪、福岡、東京のZeppを回るライブツアーもスタート。
「Zeppは客席との距離が近いので、みなさんのエネルギーをすごく感じられる。それが今からとても楽しみです」
つらかった日々を乗り越え、元来の明るくポジティブな性格を発揮している與さん。世界各地の仲間とつながり、「今、ノリにノッてます(笑)」と語る表情は、とてつもなくチャーミングでパワフルだ。
「芸能人だからこうしないといけない、みたいなことを、僕は何も考えてないんです。自分が楽しく生きることがいちばん大切で、もう隠すことは何もない。だから次に恋愛したら、全然オープンにしますよ(笑)」
まだ誰も歩いたことのない道を軽やかに進み続ける姿は、これからも多くの人を勇気づけてくれそうだ。

取材・文/今井ひとみ 撮影/山田智絵(インタビュー)