最近、SNS、テレビ等で自身の生活を包み隠さず公開する芸能人が増えている。
特に目立つのが「整形、しくじちゃったんですよね(笑)」と、かつては隠すのが当たり前だった事を、笑いに変える、いわゆるしくじり先生的なのが新しいトレンドになりつつある。
バイオリニスト・高嶋ちさ子のしくじり談
美容タレントのMattが美容体験を赤裸々に語るのは驚きではない。しかし、昨年大きな話題を呼んだのはバイオリニストの高嶋ちさ子だ。韓国で眉間のシワをとるためにボトックスを受けた際、余った薬液をどこかに打たれ、思わぬ顔の変化に。「カラス天狗みたいになっちゃった」と自らテレビで語り、共演者や視聴者を笑わせた“鼻の下事件”は記憶に新しい。
こうした「しくいじり告白ブーム」は、整形が一般化し、美容医療が身近になったことを示している。だが、笑ってすませられるものと、そうでないものがある。今回は東京・渋谷区「R.O.clinic」の美容外科医、呂秀彦院長に、失敗例の特徴やリスク、そして時代の変化について語っていただきました。
― 高嶋さんのような例は典型的といえますか? リカバリー方法も含めて教えてください。
呂院長「ボトックスは筋肉の動きをおさえ。シワの治療に応用する施術なので、たぶん鼻の周囲から口元のエリアに打ったのではないかと思います。ネットに上がっている写真はちょっと悪意のある切り取り方にも見えますが、特に初回のボトックス注射においては控えめにやることをお勧めしています。
足りなければ後から修正できますので、このくらい打つとどれくらい顔の筋肉が動きにくくなるのか、それはドクターの経験値もありますし、患者さんの筋肉の表情をいかに見切れるかにかかっています。
ただ、ボトックスは、時間をおけば治りますし、拮抗薬もありますが、ある程度辛い時期を過ごさなければいけないので、十分気を付けた方がいいですね。」
余ったから打つは危険
―高嶋さんがテレビで言っていた「余ったから打ってあげるよ」的なボトックス注射は危険なんですか?
呂院長「それはやめた方がいいです。高嶋さんのように“余ったから打ってあげるよ”的に、いい加減な感じでやるとおかしくなります。ボトクッス注射の各部位への推奨濃度はある程度決まっていますので決められている量以上は慎重になるべきですね」
―ボトックスはシワ治療の他に何か治療内容として使われていますか?
呂院長 「シワ以外だとエラ治療やガミースマイル治療でしょうか。今、この施術を希望する患者さんが本当に増えています。筋肉の働きを抑制することで、エラを細くしたり、笑ったときに歯ぐきが露出するのを防ぐ効果があります。ただし、先ほども言いましたが、ボトックスの量を慎重に調整しなければいけません。」
―ガミースマイル治療は、若い世代の「写真写りをよくしたい」というニーズから注目されているみたいですね。ほかにも最近はYouTuberやインフルエンサーが「私、整形しくじりました」的な動画で語るのをよく見ます。これは新しい現象でしょうか。
呂院長「SNSがすごく普及して、それぞれが発信できるようになってから、うっかり言っちゃうパターンと、確信犯的に言っちゃうパターンが見受けられます。今は美容に感度が高い人は多く、特に人前に出る仕事をしている人は美容医療をやっていて当たり前の時代です。治療を行う人の分母が増えたと思いますし、芸能人の方は特にそうなっていきますしね。そういったネタで炎上を狙う人もだんだん少なくなっていくと思います」
― 話題作りとしても効果的ですけど、それ以上に「美容は特別なことではない」という価値観が広がってることを感じます。タレントの指原莉乃さんや藤田ニコルさんも、ご自身のSNSで美容施術を「行ってきた!」と明るく話していますし、若い世代には当たり前になっているようです。
日本でも浸透する美容整形
呂院長「美容整形に関しては、欧米では“私は財力がある”という証明ですからね。特にアメリカなんかはそうですし、歯の矯正と同じ。歯がきれいかどうかっていうのは育ちの良さだと言われるほどです。日本でも「きれいに整えることは当たり前」という感覚が少しずつ浸透してきているのではないでしょうか」
― 昔は隠していた整形も、今ではオープンにして大丈夫な時代な気もします。
呂院長「たとえば鼻に関して言えば、一目でバッチリ整形したことがわかるような手術や、むしろ耳とかの耳介軟骨などで、ナチュラルに美しくしたいニーズがあります。はっきりくっきりな鼻が流行っている地域や国はありますが、日本ではまだまだどちらかというとナチュラルな仕上がりを希望される方が多いのではないでしょうか。
でも、ハッキリとした整形が本人の希望があれば、それを叶えてあげたいと思いますし、そこはご本人ともよく相談させて頂き施術を行なっていきたいですね。当院では、他院で行った施術の修正も多いですよ。特に多いのは二重の修正と目頭修正、微調整の人もいます。修正術に関しては形成外科専門医の資格を持ち経験豊富な医師に相談するのがお勧めです」
―整形のしくじり談を笑い話にできる時代になったとはいえ、若々しいい笑顔を取り戻すつもりが、かえって高嶋ちさ子さんみたいな“カラス天狗化“になってしまっては悲しいですからね(笑)
呂院長「芸能人の告白をきっかけに関心を持つ人が増えるのは自然な流れですが、やはり施術を受ける際には経験豊富な医師と相談し、リスクを理解して臨んでください」
美容は自分らしく輝くための手段。その一線を忘れないことが、美しさを求めるうえで大切だ。
今回お話を伺ったのは……
呂 秀彦(ロ ヒデヒコ)先生。美容外科・形成外科 R.O.clinic(アールオークリニック)院長。日本形成外科学会専門医。医学博士。昭和大学形成外科兼任講師。順天堂医学部卒業後、昭和大学形成外科・美容外科、大手美容クリニックを経て2020年R.O.clinic開院。
患者一人ひとりに真心と誠意を持って、丁寧なカウンセリングとオーダーメイドの治療が好評。日本形成外科学会、日本美容外科学会(JSAPS)に所属。

