
大好評のまま最終回を迎えたNHK連続テレビ小説(朝ドラ)『あんぱん』。
どんなドラマでも最終回は話題になるものだが、過去に放送されたドラマ、特に朝ドラで“最終回”がこれほど絶賛され、話題となったドラマはあっただろうか。SNSでも《最高の最終回だった》というコメントが多数上がった。
『あんぱん』最終回の“どんでん返し”
偉人がモデルとなっている朝ドラの場合、最後はヒロインが亡くなってしまう終わり方をすることが多いのだが、『あんぱん』では“のぶ”も“崇”も元気な姿のままだった。
最終週でのぶの病気が発覚したとき、視聴者の誰もが「のぶちゃんは亡くなってしまうのか」と信じて疑わなかった。退院したのぶと崇がソファに並んで座り、「今年の桜は一緒に見れないかもしれんね」というのぶの言葉を聞いて、“死”を確信したのだが、場面が変わると桜の木の下を二人が並んで歩くシーンとなり「奇跡が起きたのでしょうか。それから5年間、のぶは病気がすっかり治ったかのように元気に暮らしました」というナレーションが流れた。
このどんでん返しに、視聴者からは、
《こんなサプライズ、たまるかー。明るいラストでほっとした》
《最高の朝ドラ、最高の最終回。涙がとまらない》
《のぶちゃん、死なないでよかったー。こんな裏切りなら大歓迎》
と、安堵と感動の声が上がっていた。
RADWIMPS主題歌の感動歌詞
そして、さらに視聴者を驚かせたのが、最終回で流れた主題歌だった。毎日聞きなれたはずの主題歌だったが、この日は違っていた。いつも耳にしているロック調の曲ではなく、オーケストラの演奏によるバラード調の曲が流れ、しかも“二番”の歌詞。
『あんぱん』の主題歌は、人気バンド・RADWIMPSが担当した『賜物』。同ドラマで、最初に“物言い”がついたのが、ミュージックビデオのようなオープニング映像とタイトルバックに流れる主題歌だった。「ドラマに合ってない」という声が圧倒的に多かったが、ほかにも年配の視聴者からは、「歌詞が何と言っているのかも、意味も解らない」という声が上がり、視聴者が何か違和感を感じていたのは確かだ。
当時、NHKの関係者は「毎日耳にする曲なので、そのうち馴染んでくると思いますし、字幕が出るテレビも多くなりましたので、歌詞もわかると思いますから、そんなに心配はしておりません」と、語っていたが、視聴者の抱く違和感はすぐには解消されることはなかった。

ところが、ドラマが進むにつれ、歌詞の持つ意味とドラマが徐々に融合していき、そして最終回。曲が流れ出して、最後の1分間ちょっとは音が大きくなり、字幕では《時が来れば お返しする命 この借り物を 我が物顔で僕ら 愛でてみたり 諦めてみだりに》と歌詞が表示された。
ラストシーン、並木の木漏れ日の中を背を向けて嵩とのぶが会話を交わしながら、歩みを進めると、再度、歌詞が表示された。
《あわよくばもう『いらない、あげる』なんて呆れて 笑われるくらいの 命を生きよう 君と生きよう》
視聴者は、感動の渦に巻き込まれたのだった。
野田洋次郎の提案
視聴者の中には、「最初からこっちでいけばよかったのに」と言う声も上がったが……。これは初めから製作者サイドの戦略だったのかと思ったら、そうではなく、
「倉崎憲チーフ・プロデューサーが明らかにしていましたが、これはRADWIMPSのボーカル・野田洋次郎さんからの提案だったそうです。野田さんは台本だけでなく、やなせさん関連の資料も読み漁ったそうで、ドラマが伝えたいテーマの実に深いところまで考えていたことが分かります。改めて感心させられました」(テレビ誌ライター)

“クリエイター”としての野田に感服するが、こんな秀作を作り出すNHKのドラマ制作の力量にも驚かされた、と話すのはベテラン映画ライター。
「これまでは、ドラマといえば民放でした。しかし、NHKのドラマ作りのセンスは昔から定評があり、それに攻めの姿勢が加わったことにより、近年は次から次へと名作品を生んでいます。いまや“ドラマのNHK”の名をほしいままにしていると言ってもいいでしょう」
視聴者の心に深い感動を刻んだ『あんぱん』は、ジャンルを超えてドラマ史に残る名作と誰もが認めるのではないか――。