「アルビノ」を抱えているりっくん

 ひとりの少年が、家族とはしゃいで、おもちゃで遊ぶ。そんな何げない日常を切り取った動画の中で、彼の髪や肌は白く、瞳は透き通るような青色をしている。

 彼の名前は“りっくん”。福岡県に住む小学2年生だ。生まれつきメラニン色素をつくることができない「アルビノ」と呼ばれる遺伝子疾患─眼皮膚白皮症を抱えている。発症は約2万人に1人とされ、国の難病にも指定されている。

2万人に1人の指定難病

 りっくんは8人きょうだいの6番目。出産も子育てもベテランともいえる、母親の憂さんだが、りっくんが生まれたときは「どう育てたらいいのか」「ちゃんと発育できるのか」など、不安でいっぱいだったという。

「アルビノについての知識はまったくなくて、当時は、スマホで検索して調べてばかりでした」(憂さん、以下同)

 アルビノは一部を除き、大半が進行性の病気ではなく、発育にも問題はない。だが、そのぶん専門的に研究している医師は少ない。憂さんが訪れた病院の医師も、知識はあっても実際に患者を担当するのは初めてで、子育てや将来についての悩みはなかなか解消されなかった。

生まれたときにはすでに白髪だった

 さらに、見た目の違いから道端では他人にジロジロと見られたり、振り返られることが大きな苦痛となったそう。

 「アルビノはメラニン色素をつくることができないため、紫外線に弱く、まぶしさを感じやすいのもあって、部屋のカーテンを閉め切って、親子で閉じこもっていた時期もありました」

 そんな憂さんに「ママ、りっくんをSNSにアップしてみたら?」とアドバイスしてくれたのが、悩みの相談相手でもあった長女だ。2人でりっくんの動画を撮り、SNSに投稿すると、驚くほど大きな反響があった。

「かわいい」「天使みたい」といった声が寄せられる一方で、「髪は染めているの?」「どうしてそんなに白いの?」といった疑問の声も少なくなかった。そこで憂さんは、かつての自分と同じように、アルビノについての知識が、まだ広く知られていないことに気がついた。

 普通の子どもと変わらないりっくんの日常を発信しながら、「日焼け止めや長袖、帽子で紫外線を防ぐ必要がある」「弱視で視力が低いため文字を読むために単眼鏡を使う」「まぶしさを避けるために遮光眼鏡が必要」といった、アルビノとしての特性も伝えている。

 それは憂さんの「知ってほしい」という思いからだ。

「最近でも“髪を染めているの?”という質問は届きます。でも、それを見たフォロワーの方が“それはね……”と説明してくれるようになりました。以前は“見世物にしている”“親が利用している”といった、傷つくようなコメントもありましたが、今はほとんどありません。

 確実に知識と理解が広がっていると感じています。街中では“いつも見ています”って声をかけてくれる人もいて、りっくんへの視線も以前とは違うように思いますね」

違いを当たり前と思える社会へ

 同じアルビノの子どもを持つ家族からの反響も多い。

「誰にも相談できずにいた方から、“悩みを話せる人をやっと見つけました”という声をいただくことも。私自身、悩みを抱え込み、いろいろ知りたいと思っていたので、りっくんの姿を通して、少しでも悩みが減り、安心につながればうれしいですね」

 今では、SNSをきっかけに、アルビノの当事者や、その家族同士の交流にもつながっている。

 SNSを始めて約5年。りっくんの成長を、わが子のように見守るフォロワーも少なくない。小さかった男の子は小学生になり、やんちゃ盛りだ。紫外線に弱いため、外に出るときは日焼け止めが欠かせないが、塗らずに半日以上出かけてしまったことも。

「腕から足や膝の裏まで真っ赤に腫れてしまい、ひと晩中、保冷剤で冷やしました。痛みは1日半、赤みは4日間くらい続いてしまって……。でも、面倒くささが勝っちゃうんでしょうね。懲りずに塗らないことが多いので、友達にも状況を伝えて、自然に配慮してもらえるようにしています」

りっくんを中心に撮影した家族との写真。右上が母の憂さん

 私生活で気を使うのは、紫外線だけでなく目も。視力は0.1ほどしかないため、教室では席はいちばん前。視野が狭く、黒板やプリントの見えにくさはあるが、タブレットを使用し、文字を拡大したり、ルーペを活用するなど、学校側も協力し、りっくんの小学校生活を支えてくれている。

 弱視の程度によっては、公的な支援やサービスにつながる、障害者手帳の対象になる。しかし、子どもは成長に伴い状態が変わるため、りっくんの場合は、まだ判定が下せないのが現状だ。

 大家族の中でのびのびと育つ、りっくん。家族が大好きで、なんでも一緒にしたがり、和を大切にする性格。家では、上の兄姉には甘える一方、下の2人の妹には面倒見のよいお兄ちゃんだ。

 りっくん自身は、アルビノであることをどう感じているのだろうか?

「幼稚園のころに、初めて“なんで髪が白いの?”と聞かれました。そのときは“生まれたときから白いんだよ。人はみんな違っていて、当たり前なんだよ”と答えました」

 今は白い髪や、青い目の色が好きだというりっくん。

「見た目に関して、本当に気にしていないみたいです」

 憂さんをはじめ、家族がアルビノをひとつの個性と捉えているため、りっくん自身も他者との違いを自然に受け止めているようだ。

「母として、りっくんは大切な息子で、アルビノであってもなくても、ほかの子どもと同じ、かわいい存在です。アルビノであることも含めて、丸ごと愛おしいです。彼の見た目は強みであり、個性であり、彼そのもの。

 周囲にもひとりの人間として受け止めてもらえればと思います。将来は、好きなことを見つけて、自分らしく生きてほしいです。家族としてそれを応援していきたいと思っています」


取材・文/小林賢恵