
「僕自身は妖怪やオバケを信じていて、SFやファンタジーも好きです。なので、この作品も純粋に面白いと思いました。映画人としては、映画を通じて新しい世界を提示していきたいと思っているし、それができる作品になるんじゃないかと思います」
そう語るのは、10月3日公開の映画『火喰鳥を、喰う』で、主演を務める水上恒司。これが、映画単独初主演となる。
宮舘涼太との“対峙”
「キャリア的にはデビュー作からかなり恵まれていますが、主演かどうかはあまり意識していないです。“主演よかったね!”という評価があるのもわかったうえで、今までと大きくは変わらないと思います。強いて言うと、矢面に立つことが増える分、責任も増える。そういうときの受け止め方や言動をしっかりしていかないといけない」
物語は、水上演じる久喜雄司とその妻・夕里子(山下美月)のもとに戦死した先祖の日記が届くことから始まる。その日を境に、2人の周りで不可解な出来事が。超常現象専門家の北斗総一郎(宮舘涼太)に助けを求めるが、怪奇はじわじわと日常を侵食し、次第に現実世界の輪郭が曖昧になっていく衝撃作だ。
「雄司は現実主義者なんですよね。目の前にあるものしか信じない彼が、愛する者を守るために変わっていく。そのグラデーションをどのように受けていくかが僕の役目だと感じました。野球でたとえると、キャッチャーのポジションです」
受けの演技を心がけたというが、物語のキーマンでもある北斗と対峙する場面では難しさを感じたという。
「北斗は物語を大きく舵取りする操舵手のような存在。そんな彼の言葉の受け方は大変でした。話を聞いてからリアクションに至るまでの間や繊細な感情の波は、特に指示があるわけでもない。そこを自分で感じて考えたうえで、いかに生っぽく魅せられるか。役者としての力を試されている気がしました」
水上の意外な“執着”
役と真摯に向き合う姿が印象的な水上。その一方で、おちゃめな一面ものぞかせる。
「非科学的な事象をありえないと否定する雄司の気持ちもわからなくはないですが、僕だったら最初から面白がります。夕里子に対する守り方もちょっと違うかも。“別の場所に逃げよう”とか、“北斗とは連絡をとるな”とか言うと思います」
本作では今いる現実と別の現実、2つの世界線が交錯する怒涛の展開が見どころだ。そこで、もし他の世界線があったら進んでみたい道を聞いてみた。
「やっぱり野球の道ですよね。高校1年生の時点で、プロにはなれないなと思いました。それでも、大学受験は野球ありきで選んだので、今頃どこかの社会人野球に入れているのか、選手をサポートするスタッフをしていた世界線もあったりするのかなとは思います。体力的に、もうプレーするのは厳しいですけど、野球は今でも好きですね。
今、身体を動かすのは、役作りで必要なときにジムに行くくらい。実は運動はもうあまり好きじゃないです(笑)」
また、映画のテーマでもある“執着”について尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「僕、掃除とか料理とか家事が好きなんです。忙しくてなかなか自炊はできていませんが、サラダうどんが得意でよく作ります。中でも、一番得意な家事が洗濯なんですけど、角ハンガーをいかにシンメトリーに干すかに執着しています(笑)。まるで競技や作品みたいに、うまくいかなかったなというときもあれば、うまくいったなと干された洗濯物を見て浸っているときもあります。これは執着といえるようなこだわりかもしれないです」

映画『火喰鳥を、喰う』
10/3(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
配給:KADOKAWA、ギャガ
撮影/渡邉智裕 スタイリスト/カワサキ タカフミ ヘアメイク/Kohey(HAKU)