結婚生活が続くなか、夫が徐々にモラハラ的な言動をとるようになってつらい─
そんな女性たちの悩みに耳を傾けてきた司拓也氏。
「相手がモラハラ気質だと、何を言っても聞く耳を持たず、一方的に暴言を吐いてきます。そういう人に真正面から対抗しようとしても、さらなる暴言で傷つくだけ。
相手を言い負かそうとするのではなく、攻撃してくる相手をうまくかわし、攻撃しようとする気力をそぐことが大事です」(司氏、以下同)
無用な衝突を避けながら、自分を守る
司氏が提唱する「ポーカーボイス&トークメソッド」は、“声”と“話し方”を変えて、相手の攻撃や圧力に動じてないように見せる技術。
一般的に知られている「ポーカーフェイス」は、感情を表情に表さないようにすることだが、「ポーカーボイス」は声で不安や恐怖を悟らせないようにすること。感情をのせすぎず、冷静に聞こえる声で「威嚇に動じていない」と思わせることが肝要だ。
一方「ポーカートーク」は、相手を刺激しないように承認や質問を繰り返すことで、自分を守る会話術。
ポーカーボイス&トークは、相手を論破するのではなく、威嚇的な態度が怖くて「声が出ない」「言い返せない」と悩む人が使うものだ。
「相手を威圧したり、恫喝したりする人は、その人が萎縮し怖がる姿を見て満足するタイプ。反論しても、さらなる攻撃を受けるだけです。
むしろ“この人を攻撃しても効果がない”と思わせる声と言い返しで、無用な衝突を避けながら、自分を守ることが大事なのです」
相手の言葉を受け止めるテクニック
では、具体的にはどうすればいいのか。威圧的な態度の人を前にすると、どうしても表情がこわばってしまうもの。まず、お客様を迎えるホテルのフロントマンのように、にこやかな表情をつくることがポイントだ。
「口角を上げ、口の形を逆三角形にするのが基本。目を少しにこやかにすると効果大“あ・い・え”は上の歯が見えるイメージ、“う・お”は軽く唇をつき出すように発音します。慣れないうちは鏡の前で練習するといいでしょう」
ポーカートークは、7つのテンプレートが基本となる。なかでも「基本承認」は、相手の言葉を受け止めるテクニックで、言い返しの基本の「き」となる。
「例えば、夫が妻のいたらない部分を攻撃してきたら、“そうね、そのとおりだね”と認めてしまう。そうすると、夫は怒りの矛先が宙に浮いてしまい、攻撃するモチベーションが下がります。フェイントをかけて夫の出ばなをくじく作戦ですね。
あとの6つのテンプレートは、その場に応じて使い分けるといいでしょう」
この7つのテンプレートを使えば、一時的な関係改善や自己防衛はできるが、これで人間関係まで良好になるかというと、そうとは限らない。
「このテンプレートは“相手との関係を改善するための手段”であって、“耐え続けるための道具”ではありません。相手に変化や反省の兆しが見えなかったり、モラハラがエスカレートしたりする場合には、相手と距離をとるなど関係自体を見直すべきです」
人間関係を円滑にする、7つのテンプレート別「言い返し」
パワハラ、モラハラ言動に対して有効な「言い返し」を7つの分類に分けて紹介。「基本承認」は、どんな場面でも使える有効な言い返しなので、何も思い浮かばないときに便利。ほかのテンプレートは状況に応じて使いこなそう。
(1)基本承認
相手の言ったことをそのまま返し、自分の感情を見せないようにすると、相手はそれ以上の追及がむずかしくなる。
(例)
相手「おまえがそんなだから、イライラするんだよ」
自分「うん、そうだね。私がいるとイライラするよね」
相手「何、笑ってんだ。バカにしているのか!」
自分「バカにしてないよ。そのとおりだと思っただけだよ」
(2)説明責任追及
間髪入れずに問いかけることで、感情的な罵倒を論理的な議論にすり替える。感情のぶつけ合いに発展させず、冷静に対応し続けることで、「この相手に感情論は通じない」と思わせる。
(例)
相手「役立たずだな」
自分「それってどういう意味? 具体的に教えてくれる?」
(3)リフレーム
相手の言葉の「枠組み(フレーム)」を都合よく変え、ネガティブな言葉をポジティブな意味に変えて言い返す。相手は「何を言っても動じない、めんどくさい人」と感じるようになる。
(例)
相手「おまえは本当に要領が悪いな」
自分「うん、要領悪いかも。でも、要領が悪いから問題点や改善点を見つけられるよ」
(4)ヘルプ&ティーチミー
相手の攻撃に対して助けや教えを求めることで、相手を「攻撃者」から「アドバイザー」へと転換させる。相手は自分が優位な立場にあると再確認し、気分が良くなり、攻撃する意欲がそがれる。
(例)
相手「なんで、そんなこともできないんだ」
自分「ごめん、本当に困ってるの。どうしたらうまくできるようになるか、教えてくれない?」
(5)比較
相手の言葉の根拠を「誰と比べて?」「いつと比べて?」などと問い詰めることで、無用な非難をかわす。相手は比較の基準を明確にする必要に迫られ、それ以上の追及がむずかしくなる。
(例)
相手「最近、太ったな」
自分「え? いつと比べて?」
(6)ツンデレ
相手の攻撃的な言葉に対して、挑発的な言葉を冷静に投げかけて相手を戸惑わせる。相手は説明する責任が生じるため、めんどうになり、攻撃を控えるようになる。
(例)
相手「この家事のやり方、だらしないな」
自分「うん、だらしないかもね。それが何か?」
(7)再定義
相手の曖昧で抽象的な言葉を具体的に再定義するように要求する。何を求めているか明確でない場合、それ以上、追及しなくなる。相手が逆ギレしても、あくまでも冷静に対応するのがポイント。
(例)
相手「もっと普通にやってくれよ」
自分「“普通”ってどういう意味? どうしたらいいの?」
教えてくれたのは…司 拓也さん モラハラ、パワハラに対抗する話し方に関するセミナーを開催。『「言いにくいこと」をうまく伝える』(フォレスト出版)『信頼される人の話し方、軽く見られる人の話し方』(KADOKAWA)ほか著書16冊。累計21万部。
取材・文/佐久間真弓

