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「脂肪肝は男性がなるもの、自分には無縁だと思い込んでいる女性は少なくありません。しかし実際には、脂肪肝は性別を問わず誰でもなり得る病気であり、知らぬ間に進行して、脂肪性肝炎や、肝硬変になることも。そして最悪の場合は、肝臓がんへと進行する危険性があるんです

 そう語るのは、自治医科大学附属さいたま医療センター消化器内科、元准教授の浅部伸一先生。

閉経後の女性は脂肪肝に注意

「脂肪肝は成人男性の3人に1人、女性の5人に1人がかかっているとされ、予備軍を含めると、成人の2人に1人とまでいわれている。特に注意が必要なのが、更年期以降の女性です。閉経を境に女性ホルモンであるエストロゲンの分泌が急激に減少し、それまで守られていた代謝バランスが崩れてしまうのです」(浅部先生、以下同)

 エストロゲンには脂質や糖質の代謝を調節し、内臓脂肪の蓄積を抑える働きがある。

「そのため、閉経前の女性は男性に比べて脂肪肝のリスクが低いのですが、閉経後はその保護作用が弱まり、男性と同じように脂肪のつきやすい身体に変化します。更年期は女性が脂肪肝にかかりやすくなる大きなターニングポイントといえるのです

 そもそも脂肪肝とはどのような病気なのか。

「脂肪肝とは、肝細胞に脂肪が過剰にたまった状態のことを指します。肝臓はおよそ3000億個の肝細胞から成り立っていますが、そのうち中性脂肪が5%を超えると脂肪肝と診断されます」

脂肪肝になりやすい人の特徴

 原因によって大きく3つに分類される。1つは食べすぎや肥満による「MASLD(代謝異常関連脂肪性肝疾患)」、もう1つは過度の飲酒が原因となる「ALD(アルコール性脂肪肝)」、さらに両方が関係するタイプ。

「日本では特にMASLDの割合が増えていて、生活習慣病との関連が深いことがわかっています」

 脂肪肝の厄介な点は、前述した3つすべてに自覚症状がほとんどないこと。

「肝臓は“沈黙の臓器”と呼ばれています。脂肪肝になっても痛みや違和感はなく、健診や人間ドックで偶然見つかるケースが大半。

 しかも、その後の経過は人によって異なり、脂肪肝がそのまま長期間続く場合もあれば、悪化して身体のだるさや肩こりを症状とする脂肪性肝炎や、手脚がむくむ、腹部が張るなどの肝硬変になることも。そして最悪の場合は、肝臓がんに進行してしまうケースもあります」

動脈硬化や脳梗塞のリスクも高まる

 統計的には、脂肪肝と診断された人の70〜80%は現状維持だが、残り20〜30%が脂肪性肝炎に進むといわれている。

「進行するかどうかは現状では予測できず、解明も十分ではありません。治療薬もないため、現時点でできる対策は生活習慣の改善に尽きるのです」

 悪化しても命に別条はないからと安心はできない。肝臓の働きを理解すれば、脂肪肝の怖さがさらに実感できると浅部先生。

肝臓の仕組みからわかる脂肪肝を放置する怖さ

「肝臓の最も重要な役割は“代謝”です。代謝とは、炭水化物やタンパク質、脂質といった三大栄養素を使いやすい形に分解したり、身体に必要な物質を合成したりすること。ご飯はブドウ糖に、肉はコレステロールや筋肉の材料に変換されるなど、生命活動を支える基盤を担っています。

 もし代謝が滞れば、人間は生きていけません。さらに、肝臓には解毒作用もあります。アルコールを摂取すると、肝臓はそれを分解し、最終的に尿などに排泄(はいせつ)します。タンパク質を分解する過程で生じる有害なアンモニアも、尿素に変換して排出されるのです。

 脂肪肝になることでこうした働きが衰え、毒素が体内にたまり、疲労感や倦怠感、さらには重篤な病気を引き起こします。肝臓病だけでなく、動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞といった生活習慣病のリスクも高まります。実際、脂肪肝の患者さんは肝疾患そのものよりも心血管系の病気で亡くなるケースが少なくありません」

 加えて、肝臓は胆汁を生成する働きも担っている。

「胆汁は食事の際に胆のうから分泌され、脂質を消化酵素と混ぜ合わせて消化・吸収を助けます。胆汁に含まれるビリルビンという成分は、便や尿の色を決める重要な成分でもあるんです」

脂肪肝を防ぐカギは健康的な生活

 では、脂肪肝を防ぐには、どうすればいいのか。

「男女共通してリスクとなるのが“飲酒・食べすぎ・運動不足”の3つです。筑波大学の研究では、お酒を飲む人よりも、肥満で運動をしない人のほうが肝臓病患者に多いことが示されています。同じ体形でも、運動をしている人のほうが脂肪肝になりにくいんです」

 運動といえど、ランニングからウォーキング、筋トレと多岐にわたるが、何をすればいい?

肝臓の脂肪を減らす直接的な効果が高いのは有酸素運動です。ウォーキングまたはジョギングを1日30〜40分程度行うのがおすすめ。時間や余力が残っている人は、さらにスクワットなどの筋力トレーニングを加えると、より効果的です。

 筋肉量が増えると基礎代謝が上がり、糖質の消費効率も良くなるため、肝臓への負担が軽くなります。全身の筋肉量の6~7割を占める下半身を重点的に」

断食で脂肪肝対策!

 食生活では、まず「食べすぎない」ことが大前提。

「糖質をとりすぎると体内で脂肪に変換されてしまうため、ご飯や甘いデザートは控えめにしましょう。魚や大豆製品、乳製品などのタンパク質を中心に、野菜や果物に含まれるビタミン、食物繊維をバランスよく取り入れることが推奨されます

 アルコールについては、ビール中瓶1本、日本酒1合、ワイン2〜3杯が1日の適量。

過度な飲酒は男女共に脂肪肝を進行させるため要注意だ。

「脂肪肝は血液検査で必ず見つかるわけではありません。肝機能の数値に異常がなくても、エコー検査を受けることで初めてわかるケースが多いのです。健診や人間ドックでチェックし、少しでも異常があれば専門医に相談してください。早めに生活習慣を改善することで、肝臓は回復できる力を持っています」

浅部伸一先生●自治医科大学附属さいたま医療センター消化器内科元准教授。東京大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院等で勤務。国立がんセンター研究所でウイルスを研究、アメリカ・サンディエゴのスクリプス研究所では肝炎免疫研究を行う。現在はアシュラスメディカル株式会社所属。

教えてくれたのは……浅部伸一先生●自治医科大学附属さいたま医療センター消化器内科元准教授。東京大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院等で勤務。国立がんセンター研究所でウイルスを研究、アメリカ・サンディエゴのスクリプス研究所では肝炎免疫研究を行う。現在はアシュラスメディカル株式会社所属。


取材・文/佐久間真弓