「患者さんからよく聞くのが、『腸活として、ヨーグルトや納豆をよく食べています』といった言葉。しかし実は、それだけでは腸内環境は思うように改善しません」
そう話すのは、消化器専門医の川本徹先生。
腸の動きは腸活の重要ポイント
近年の〈腸活〉ブームで、善玉菌や発酵食品は大切だと理解している人は多い。しかしそれだけでは、あと一歩足りないのだとか。実は腸の動きをよくすることが腸活では必要不可欠。
「胃や大腸などの消化管が縮んだり伸びたりして、食べ物や消化物を口から肛門へと移動させる動きを〈蠕動運動〉といいます。蠕動運動は食べ物を消化吸収し、不要物を便として排泄するためには欠かせない動きです」(川本先生、以下同)
腸の動きは、腸内細菌の悪玉菌、善玉菌の増減にも影響する。
「悪玉菌のエサになるのは、タンパク質のカスや悪い脂。蠕動運動が悪いと、それらが便として排泄されず、長く腸内にとどまりますから、悪玉菌が繁殖しやすくなります。また、蠕動運動が活発であれば、腸壁からムチンという善玉菌のエサとなる物質が分泌されます。これが分泌されにくいことも腸内環境を悪くする一因になります」
腸内環境が悪くなれば、便秘・下痢・腹部膨満感などの不調が出るだけでなく、肌荒れや疲労感が起こりやすくなる。アレルギー、認知症、大腸がんなどの発症リスクも高まる。蠕動運動が活発でなくなる悪影響は、全身に及ぶのだ。そして残念なことに、日本人の腸の動きは、ひと昔前より悪くなっている。
「腸の蠕動運動は、自律神経の働きと深い関わりがあります。自律神経には緊張時に働く交感神経とリラックス時に働く副交感神経の2種類があり、蠕動運動を促すのは副交感神経。しかし現在の日本はストレス過多社会ですから、交感神経のほうが優位になり、蠕動運動が鈍くなりやすいのです」
特に、週女世代は腸の動きが悪くなりやすくなる年代。
「女性ホルモンの一つであるエストロゲンは、腸の蠕動運動を調整する働きがあります。ですから、エストロゲンの分泌が減る更年期以降の女性は、便秘などのトラブルに見舞われやすいのです」
便秘や下痢はもちろん、食後にお腹が張ってゴロゴロ鳴るのも腸の動きが悪いサイン。それ以外にも、食べたものが何時間くらいで便として出てくるかを確かめたい。
「イカ墨の黒い色素は身体に吸収されません。そこでイカ墨パスタなどを食べて、いつ便で出てくるか確認してみましょう。3~4日以上かかる場合は、腸の動きが悪い可能性があります」
運動と食事の二本柱で改善
それでは、腸の動きを改善するにはどうすればいいか。
「自律神経を整えるのは基本中の基本。ストレスや睡眠不足など自律神経のバランスを崩す要因をできるだけ取り除くことが大切ですが、なかなか難しい人も多いかと思います。そこで手っ取り早いのが、お腹を温めること。手でさすって、摩擦熱でお腹を温めるといいでしょう」
運動やマッサージでお腹を刺激するのもいい方法。
「運動で物理的に腸を動かせば、蠕動運動が促されます。腸を刺激すると、排便を促す副交感神経の働きも活発になり一石二鳥です」
腸活に効果的なタイミングもある。
「便を強く押し出して便意を催させるパワフルな蠕動運動を〈大蠕動〉といいます。大蠕動は胃と小腸が空っぽの状態で、胃に食べ物が入ってきたときにしか起こりません。胃と腸を空っぽにするにはおよそ8時間、食べ物を入れない時間をつくることが必要ですが、自然に大蠕動の状態になっているのが朝食後。そのとき、蠕動運動をアシストするつもりで、運動したりマッサージしたりするといいでしょう」
一方、食事では発酵食品や乳酸菌とあわせて食物繊維をとることを意識したい。
「食物繊維には水溶性と、不溶性の2種類があります。水溶性は、便をやわらかくしたり、善玉菌のエサとなったりします。水分を含んでゲル状になってから便として排出されるので、コレステロール値を下げることも期待できます。不溶性も腸を刺激して蠕動運動を促進するほか、便のかさ増しになり便通を促します」
水溶性と不溶性を〈1:2〉のバランスでとるのがベストなのだそう。
「とはいえ、含有量をいちいち調べるのは面倒。2種類の食物繊維を〈1:2〉に近い割合で含んでいる食材を日々の食卓に取り入れるといいでしょう。具体的には、オクラやゴボウが該当します」
運動と食事法を実践して、腸を長生きさせよう。
教えてくれたのは―川本 徹先生
1987年、筑波大学医学専門学群卒業。専門は消化器外科。元筑波大学消化器外科講師。2003年より、アメリカ・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターにてがんの研究も行うなど幅広い知識も習得。『結局、腸が9割 名医が教える「腸」最強の健康法』(アスコム)8万部超のベストセラーの著書がコンパクト版で登場。
<取材・文/中西美紀>

