埼玉県所沢市、最寄りの西武新宿線・新所沢駅から北西に約4キロの閑静な住宅街。2階建て住宅の玄関前に座りこんだ痩せぎすの中年男を警察官が囲んでいた。暴れたり、怒鳴ったりはせず、女性警察官らに素直に事情説明などをしているようにみえた。しかし、逮捕されるに至って、「納得がいかない」とゴネたという。
父親の死体を放置
男は埼玉県警所沢署が10月14日に死体遺棄容疑で逮捕した無職・上野龍容疑者(37)。同月9日ころから13日にかけ、同居する父親(67)とみられる男性の遺体を自宅内に放置した疑いが持たれている。
「13日の夕刻、自宅の賃貸関連会社の関係者から“家賃を滞納している男性住人と2か月ほど連絡がとれない”と警察に連絡があり、駆けつけると、室内に男性の腐乱死体がありました。在宅していた上野容疑者に確認すると、遺体は同居していた父親だと認めました。
9日に、別々の部屋で生活していた父の死亡を初めて確認し、それ以降は遺体を放置していたなどと主張しています。事実ならば放置期間は5日間となりますが、遺体の腐敗状態からみてそんなものでは済まず、死後数か月は経っているとみられています」(全国紙社会部記者)
遺体に目立つ外傷などはなかった。父親とはその後も連絡が取れておらず、警察は遺体の身元確認を進めるとともに、死亡した経緯などについても慎重に捜査中という。
父親とはソリが合わなかったのか。家庭内別居だったとしても、肉親の死亡に気付きながら埋葬もせず、放置を決めこむのは尋常ではない。しかも、遺体は腐敗臭を放っていた。
容疑者宅前を何度も通りかかったという男性住民が振り返る。
「あの家の近くの路上には、最近、気になる臭いが漂っていました。酸っぱいような、鼻にツンとくる臭いです。魚市場の片隅で腐った魚が放つ臭いに似ていました。それほどひどい悪臭ではありませんでしたが、室内はもっとひどかったのかもしれませんね。
まさか遺体があるとは思いませんでしたので、“どこかの家が魚料理でもしているのかな”ぐらいに考えて臭いの元を探ったりはしなかったんです」
住宅街が悪臭に悩まされるレベルには達していなかったようで、複数の近隣住民が「臭いには気付かなかった」と事件に驚いていた。
一家が引っ越してきたのは約24年前。父親が約2400万円のローンを組んで新築したマイホームだ。上野容疑者が10代の思春期のころで、両親と、年の離れた妹の4人家族だった。
「龍くんは近所の年下の子どもと『遊戯王』のカードゲームで遊んであげるなど面倒見のよいお兄ちゃんでした。そのうちバイクにハマるようになり、チンピラみたいな服装をすることもありましたが、暴走族ではなかったし、犯罪に手を染めるワルとは違うと思っていたのですが……」(近所の男性)
父子2人の生活に暗雲
家族4人の暮らしは長くは続かなかったという。別の男性住民が振り返る。
「母親が幼い妹を背負って家を出ていってしまったのです。残された父子2人の生活が始まると、自宅前には息子の友だちや女の子がたむろしてバイクをいじったりするようになり、やがて父方の祖母が一緒に暮らすようになりました。その祖母も認知症を患って施設に入ってしまい、また父子だけの生活に逆戻りしたんです」
父親は毎日、作業着姿でマイカー出勤。容疑者は高校卒業後、新聞配達の仕事を続けていたが、いつの間にか辞めていた。
「父親は建築業に従事していました。ガッチリ体型で無精ヒゲをたくわえ、時代劇俳優のような迫力がありました。息子さんはちょっと怖いというか、近寄りがたいオーラを発していましたね。
親子仲は良好ではなかったと思います。父子で外食や旅行などに出かける様子はありませんでしたし、そもそもツーショットすら見たことがないんですから」(地元住民)
知人男性によると、上野容疑者は性格的に神経質な部分があるという。友人らも仲間の家の前にたむろする年齢ではなくなり、ストレス発散ができなくなった。父子は税金を滞納したのか自宅は市に差し押さえられ、昨年9月に売却されて家賃を払って暮らすようになっていた。
祖母の施設利用料も未納だったようで、たびたび施設関係者が自宅を訪問するなど家計は苦しかったとみられる。父親の知人男性はこう話す。
「父親はお酒が好きで人当たりのいい好人物です。息子さんが20代のころ、インターネットで知り合った当時10代の女性と自宅で同棲を始めたんですが、受け入れました。父親は“息子の嫁は働かずに家でゲームばかりして、炊事、掃除、洗濯が何にもできないんだよ”とグチっていましたがね。洗濯機をまわすだけで洗濯物を干さないって。
結局、2年ほどで“嫁さん”は家を出ていきました。家を出ていった奥さんとも決着がついていなかったようで“裁判をするんだ”と渋い顔をしていました。父親は昨年体調を崩してから仕事を休みがちになり、“身体がだるくて時々めまいがするんだ。病院で検査しても原因がわからない”と不安そうに話していまたんです。息子さんの悪口は一度も聞いたことがありません」
“親の心、子知らず”とはこのことだろう。父子間の溝は埋め難かったのか、自宅にパトカーが駆けつける騒ぎが何度かあったという。
「最近では、父親と息子さんの間で何か揉めたようで口論し、警察があいだに入っていさめている感じでした」(前出の地元住民)
口論の理由はわからないという。ただ、ここしばらく、父親が出勤に使う乗用車が停めっぱなしになったため、「旅行にでも行ったのかな」と思った住民もいた。
自宅玄関前にはバイクや車の工具箱がほっぽらかしにされ、周囲の草木は伸びっぱなしだった。だれが供えたのか、玄関脇に缶ビールが1本供えられていた。
