「お身体を大事になさってください」
秋篠宮ご夫妻の次女、佳子さまと母親の紀子さまは10月3日、高松市の大島にある国立ハンセン病療養所「大島青松園」を訪れた。同園の納骨堂で白い花束を供え、慰霊碑に深々と拝礼した。
続いて大島会館で入所者と懇談したが、2人はしゃがみ込むようにして一人ひとりに歩み寄り、冒頭のように優しく声をかけていた。佳子さまが香川県を訪れるのは初めてだという。
高齢化が進む島
高松港から北東へ約8キロの瀬戸内海に浮かぶ大島は、全国に13ある国立ハンセン病療養所の一つで、島全体が療養所となっている。報道によると、10月1日時点の入所者は29人で、平均年齢は87・8歳と高齢化が進んでいる。上皇ご夫妻は、全国の療養所に足を運んだが、唯一、同園には訪問できなかったという。
その後、紀子さまと佳子さまは船で小豆島に移動した。小豆島町役場で、紀子さまが総裁を務める恩賜財団母子愛育会の子育て支援などの活動を視察し、参加者の親子らと一緒に「ふれあい遊び」に参加した。
紀子さまは担当者に「どのような相談が多いですか」と尋ね、佳子さまは同じ「かこ」という名前の赤ちゃんに、「佳子です、こんにちは」とうれしそうに声をかけていた。
2人は香川県入りした10月2日、「瀬戸内国際芸術祭」などを視察した。船を使って、「アートの島」として知られる直島に移動し、建築家・安藤忠雄さんの案内で、安藤さんが設計した「ベネッセハウス ミュージアム」館内を見て歩いた。
屋外に展示された、世界各地の海で水平線を撮影した写真を鑑賞し、佳子さまは「きれいな景色です」と笑顔で感想を述べていた。その後、高松市の高松港で、同芸術祭の出品作品や約2000冊の本を積んで瀬戸内の島々を巡っている、こども図書館船「ほんのもり号」を視察した。
《8月に佳子と広島市を訪ねたときに、姉妹都市であるホノルル市の子どもたちが演じたミュージカルを鑑賞しました。被爆して12歳で白血病で亡くなった佐々木禎子さんの物語を描いたこの舞台は、子どもたちの歌声と踊りで作り上げられ、平和を願う強いメッセージが会場に広がっていくのが感じられました》
《私自身、戦争を経験していない世代の人として、佳子と訪ねた広島原爆養護ホーム舟入むつみ園の皆さまとのひとときも忘れ難いものでした。私たちをあたたかく迎えてくださり、戦時中のご経験やいまご関心のあることなどを伺い、平和の願いをこめた折り紙の鳩をいただきました》
以前にこの連載でも紹介したが、紀子さまと佳子さまは今年8月10日、広島県を私的に訪問し、「原爆の子の像」のモデルとなった佐々木禎子さんの生涯を描いたミュージカルを広島市内で鑑賞した。翌朝、同市の平和記念公園にある原爆死没者慰霊碑に供花し、拝礼している。
戦後80年の大きな節目の年に
今年は戦後80年の大きな節目の年にあたる。9月11日に59歳の誕生日を迎えた紀子さまは前述したような文書を発表し、平和の大切さなどを訴えたが、紀子さまと佳子さまの香川県訪問は、広島以来の母娘での地方訪問となった。
2人が、広島で鑑賞したのはアメリカ・ハワイ州の子どもたちによるミュージカル『PEACE ON YOUR WINGS』で、1945年8月6日の広島への原爆投下で、2歳で被爆し、10年後に白血病で亡くなった禎子さんが、平和への祈りなどを込めて病床で折り鶴を作り続けた姿や友人たちとの絆を描いていたものだった。
また、広島市内にある広島原爆養護ホーム「舟入むつみ園」で、佳子さまは「何をされる時間が楽しいですか」と質問するなど和やかに入所者たちと懇談している。2人は、平和の願いを込めた折り紙の鳩を入所者から贈られた。感銘を受けた紀子さまは帰京後、秋篠宮さまたちにこの折り紙の鳩を見せながら「舟入むつみ園」での思い出を伝えたという。
「皇太子の時代も含め、これまで私が皇后と共に行ってきたほぼ全国に及ぶ旅は、国内のどこにおいても、その地域を愛し、その共同体を地道に支える市井の人々のあることを私に認識させ、私がこの認識をもって、天皇として大切な、国民を思い、国民のために祈るという務めを、人々への深い信頼と敬愛をもってなし得たことは、幸せなことでした」
2016年8月、上皇さま(当時は天皇陛下)が、テレビを通じて国民に向けて発表したビデオメッセージ「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」の中で、こう述べている。さらに、「日本の各地、とりわけ遠隔の地や島々への旅も、私は天皇の象徴的行為として、大切なものと感じてきました」とも語っている。
香川県訪問中、佳子さまと紀子さまの動静は地元のテレビや新聞などで大きく取り上げられた。特に佳子さまの人気は高く、可愛らしい笑顔に物腰は穏やかで、優しい人柄が香川の人たちによく伝わってきたという。
高松市内に勤務する60代の団体職員の男性は、
「東京から遠く離れた瀬戸内海の島々をわざわざ訪れていただき、それだけでも大変、感動しました。
島の魅力、香川の良さをおふたりが少しでも感じ取っていただければうれしいです。私たちも佳子さまたちから大いに励まされ、元気をもらいました」
と喜んでいた。
多くの国民と直接触れ合い、そして寄り添い続けることは、佳子さまたちの大切な役目である。そのことを通して、佳子さまもまた、人々から元気をもらい、より大きく成長するのだと思う。
<文/江森敬治>
