高市早苗首相

「日本と日本人の底力を信じてやまない者として、日本の未来を切り拓く責任を担い、この場に立っております」

 10月24日、高市早苗首相は衆参両院の本会議で行われた所信表明演説の冒頭を、このように切り出した。

「就任直後の所信表明は、リーダーとしてこの国をどうしていくのかという宣言のようなもの。高市首相は物価高対策を最優先に取り組むと語りました。続けて食料や医療の安全保障、人口減少や外国人の不法就労問題への対応、憲法改正への意思などを示しました」(全国紙記者、以下同)

 高市首相は神戸大学を卒業後、松下政経塾に入って政治を勉強。テレビ朝日系の政治解説番組のキャスターを経て、1993年に政界入りした。

「1996年に自民党入りして、のちに安倍派と呼ばれる保守派閥の清和会に所属。安倍晋三さんから信頼を置かれ、安倍内閣では要職を任されるなど実績を重ねるように。2021年ごろから次期首相と期待されるようになりました」

国会議員で女性の割合は19%

 3度目の挑戦となった今回の自民党総裁選で大本命とされた小泉進次郎氏を破り、新総裁に就任。その後の首相指名選挙を経て、第104代内閣総理大臣に選出された。

 これにより、1889年から始まった日本の近代的な立憲政治史上初となる女性首相の誕生となった。

日本の国会議員で女性の割合は19%と圧倒的に男性が多い。政治に限らず女性やマイノリティーの属性の人が社会的に重要なポジションに就きづらい風潮は、見えない障壁に例えて“ガラスの天井”と呼ばれています。高市首相は、国政のガラスの天井を突き破ったといわれています」

2025年10月21日、恒例の総理官邸内の階段で写真撮影を行う高市内閣メンバー

 高市首相の誕生により女性としての新しい政治が期待できるのか。男女共同参画会議専門調査会委員を務めるなど、女性の社会問題に取り組んでいるジャーナリストの白河桃子さんに話を聞いた。

「高市さんは保守系の政治家とあって、伝統的な価値観、つまり従来の女性の役割を意識しているように見受けられます。例えば、彼女の夫である元衆議院議員の山本拓氏は今年に入って脳梗塞を発症。普段の生活で介護が必要なようですが、高市さんは総裁選中でも自身で夫のサポートをしていたそうです」

 白河さんは高市首相自身が女性として障害を乗り越えてきたことに期待と不安があると語る。

“選択的夫婦別姓”には反対

「ケア労働の低賃金が問題になっていますが、このような風潮は、かつて介護は身内、特に女性が無償でやるものという価値観から来ています。

 高市首相は40代前半から更年期障害を発症したと語るなど、女性特有の負担への実感値は歴代の首相に比べれば大きいと思いますから、精力的に取り組んでほしいです。

 しかし、高市首相はそれらのハンディを背負いながら男社会でのし上がってきた人。“自分ができたから”とはならず、乗り越えられないような市民にも寄り添える政策を行ってほしいです」(白河さん、以下同)

 高市首相の政治信条は、女性の権利拡大や多様性を訴える“リベラル”寄りの考えと相反するようだ。

「最近は、結婚後も夫の名字に改姓せずに済む“選択的夫婦別姓”の議論が活発でしたが、高市首相自身が反対していますから、実現は遠のくでしょう。ほかにも、若い女性の貧困問題、子育てにまつわる負担など、取り組まなくてはいけない問題は山積みですが、正直、今の高市首相にそれらの課題に手が回るようには思えません」

高市新内閣ひな段撮影後、小野田紀美氏を取り囲むベテラン男性議員ら

 では、経済政策はどうなのか。経済ジャーナリストの荻原博子さんに話を聞くと、

「庶民の暮らしがよくなるとは思えません。ガソリン減税は野党も賛成しているだけあって実現するでしょうが、2万円の給付はなくなりました。消費税減税も検討段階にトーンダウン。霞が関で検討段階は、不可能と同意ですからね。結局、高市首相が誕生したのは自民党内にある“アベノミクスを再び”という層の支持が大きかったのだと思います」

麻生副総裁、維新への“借り”

 アベノミクスはデフレ脱却と経済成長を促すため、2012年に安倍政権が打ち出した経済政策。円を大量に刷り、政府支出を増やして市場を活性化させたが、反面、現在の記録的な円安を招いている。

アベノミクスの大企業優遇政策で、組織票や寄付金など自民党員はおいしい思いをしていますからね。高市首相自身も安倍さんの政策を継承したいと考えているようですが、同じ路線だとますます円安と物価高を招くと思います」(荻原さん、以下同)

 現状では、女性に寄り添う以前に自分の意志も貫けない可能性もあるようだ。

「今回の総裁選で、自民党の重鎮で財務省とべったりの麻生太郎さんの支援を受けていますし、公明党の代わりに日本維新の会と組むなど“借り”ばかりつくっていますから、いろんな所の顔色をうかがわないといけません。政局も大事ですが、まずは庶民の生活に気を配ってほしいです」

 高市首相は、誰のために政治を行うのか─。