かつて末高斗夢(すえたかとむ)の名で芸人として活躍し、'11年に落語家に転身した錦笑亭満堂(きんしょうてい・まんどう)。日々、芸に励む一方、自動販売機のオーナーを務めている。
“ジャリ銭真打”と呼ばれて
「僕、どんな金額でも“小銭”が大好きで(笑)。自販機の売り上げをポケットに詰め込んで飲みに行ったりするんです。酔っ払って会計を小銭だけで払ったら、お店で“ジャリ銭真打”と呼ばれて(笑)」(満堂、以下同)
そんな満堂がこの副業を始めたきっかけも、お金だった。
「自販機ビジネスは“ドル箱”だと聞いており、以前から興味があったんです。昔、新宿にあった『スバルビル』の自販機は、かなりの売り上げがあったらしく……」
飲料メーカーと契約を結び、親族の家の一角に自販機を設置することに。
「運営面はメーカーにお任せして、売り上げの数%が入るというもの。その後、'20年にコロナ禍で落語の仕事がすべてストップしたときに、落語の稽古ではなく自販機を頑張ろうと(笑)。リースの自販機を借りて、問屋さんと契約をして、運営も含めて自分でやることにしました」
商品のラインナップと価格は、すべて自分次第だという。
「ナタデココが売れると予測して仕入れても全然売れず、周りの意見を参考にしたコーン茶が大失敗なんてことも。単価を20円上げただけで売れ筋の商品がピタッと売れなくなったりもしました」
「絶対にやめない」理由
ライバルはコンビニで、
「自販機でしか買えないものの需要が高く、意外なものが売れます。夏場に冷やし甘酒が好評だったり、今は不二家のネクターが大人気。先日は、ドクターペッパーをまとめ買いするおじいさんがいました」
その売り上げはというと、
「最大で月に700本くらいでした。近くに工事現場があって、その作業員の方が買ってくれる“工事特需”のおかげです。普段は月に300本ほどは売れます。黒字ではありますが、大した儲けにはなっていないです(笑)」
それでも自販機オーナーは「絶対にやめない」と言う。
「お金を稼ぐ大変さや“仕事の原点”を感じるので、それを忘れないようにしたいんです。ラインナップや金額を決めて、商品の段ボールを運んで、それを自販機に補充し、汚れたら掃除して……と、地道な作業の連続なので」
こうした経験が本業の落語にも結びついて、
「自販機は目の前にお客さまがいないぶん“ニーズ”を読み取ることが大事。約5年で、それは自分の思いとは別物だと知りました。落語も、その場に合ったネタを選ぶのがプロ。小学生に向けて花魁の艶っぽい人情話をしたってしょうがないですから。“お客さまを喜ばせる”という意味では同じなんです」
