紫吹淳さん

 老いも若きも「おひとりさま」が増えている。「独身であることへの不安がある」という調査結果もあるが、同時に「他人に合わせるより、自分を大切にしたい」と、肯定的にひとりであることを選ぶ人も多い。「あえて」結婚せず、充実したライフスタイルを送っている紫吹淳さんに「これまで」「これから」をインタビュー。

絶対に結婚しないと決めていたわけではなくて」

宝塚をやめたらさすがに結婚すると思っていたんです。まして50歳までには結婚するだろうなと思っていたので、していない自分にびっくりしましたね(笑)

 と言うのは、元宝塚歌劇団トップスターで女優の紫吹淳(56)。17歳で宝塚音楽学校の寮に入り、入団後19歳で1人暮らしをスタート。18年間にわたり宝塚で男役として活躍してきた。宝塚というと恋愛は御法度、結婚=退団という暗黙のルールがあるが、

当時は恋愛したいとか、結婚したいとか、そういうことを考える余裕自体がありませんでした。男として生きること、どうしたらカッコいい男役になれるかということしか頭になかったので

 と振り返る。退団は36歳のとき。一人の女性として、おひとりさまを解消しようと思ったことはなかったのだろうか。

宝塚をやめてからはそれなりに恋愛もしてきましたけど、やっぱりその方とはご縁がなかったんでしょうね。結婚には至らなかった。でも絶対に結婚しないと決めていたわけではなくて。出会いがあれば、とは思っていましたね

 転機は50歳のときで、コロナ禍が始まった。生活様式が激変し、自分軸のおひとりさま生活が固まった。

まず免疫を高めるために、一日9〜10時間寝るようにしたんです。それがもうマストになってしまって

 不規則な仕事ゆえ、寝る時間は日によって違う。起床時間から逆算し、睡眠時間を確保する。それは1人暮らしだから叶うこと。同じタイミングで自炊を始めている。お手本はYouTube。料理は全くの素人だった。

どうせ作るなら身体にいいものを作りたい。料理を作るようになってから、野菜が足りてないなとか、いろいろ考えるようになりました

 必ず取り入れるのが、きゃべつ、かぼちゃ、にんじん、玉ねぎを煮込む命のスープ。バランスを考えたメニューで、彩りよく品数も多い。「凝り性なんでしょうね」と笑うが、インスタの写真は料理歴6年とは思えない腕前だ。

 バカラやヘレンドと高級食器を日常使いし、テーブルセッティングも実に華やか。

器がおしゃれだと美味しく感じるんですよね。素朴な料理でも、盛りつけ方で変わったりする。それでちょっと優雅にいただきます。やっぱり1人だからこそ、自分のために自分でやってあげなきゃいけない。身体のためにも、心のためにも、日々の生活を大切にしようと心がけています

 自分が心地よく過ごすため、自ら快適な住まいを演出する。生花を絶やさずリビングに飾るのもその一つ。

自分で自分の人生を切り開いていきたい

名古屋から毎週水曜日にお花を届けてもらっています。東京のお店に頼んだほうがもしかしたら安いのかもしれないけど(笑)。私の趣味をわかってくださっているので

「以前の私からは想像もつかないけど、やはり人間の身体は食べたものでつくられるから日々のお食事は大事だな〜と、いまさら……」 撮影/紫吹淳

 加えて自他共に認めるきれい好き。常に整理整頓は欠かさず、隅々まできれいに保つ。まさに理想の1人暮らしを絵に描いたようで、他人のつけいる隙はなさそうだ。

自分軸で生きちゃっているので、いまさら誰か他人と住むという選択肢は考えられないですね。よっぽどの気持ちがないと無理かもしれない

 紫吹を公私共に支えるのが、元ファンクラブ会長であり名物マネージャーの“ばあや”。

 以前バラエティー番組で身の回りの世話をする“ばあや”の存在を明かし、そのお嬢様生活が話題を呼んだ。

ばあやにお世話になっていたのはずいぶん昔の話。でもばあやのインパクトが強かったのか、一緒に住んでいると思われているんですよね。もしかすると、結婚できなかったのはばあやのせいかも(笑)。ばあやも“誰かいい人がいれば”と言っていたのだけれど

 “自分次第”を座右の銘に、選択的おひとりさまを謳歌する。それでも「不安に苛まれることは多々あります」と話す。不安の解消法は?

考えても答えが出ることじゃないんですよね。答えが出ないことに時間を使うのはもったいないから、考えない。ぐじぐじ悩んでいるよりも、そのぶん楽しいことに気持ちをシフトしたほうが、エネルギー的にもいいものが入ってきそうな気がします。自分の人生なんだから、自分で決めたい。自分で自分の人生を切り開いていきたい。だからこの先のこともポジティブに、なるようになるんじゃないかって思うようにしています

取材・文/小野寺悦子