「自分とはシチュエーションも家族構成も違うのにすごく共感して、涙をそそられて。ただほっこりっていうことでもなく。なるべく見ないようにしていたものや無視しようとしていた感情を突きつけられ、湧き上がってくるような感覚は、不思議で独特だなと思いました」
と話すのは、柴咲コウ。主演映画『兄を持ち運べるサイズに』が11月28日に公開を迎える。中野量太監督が5年ぶりにメガホンを取った。
「“あ、どうも”みたいな(笑)」
作家の理子(柴咲)にかかってきた警察からの1本の電話。疎遠になっていた兄(オダギリジョー)の急死を知らされる。マイペースで自分勝手な兄に振り回されてきた理子だが、放ってもおけない。
7年ぶりに兄の元嫁・加奈子(満島ひかり)とその娘に再会し、兄とその息子が住んでいたアパートに向かうと、ゴミ屋敷。後始末をする中で、理子は兄の知らなかった一面に出会っていく……。
演じた理子は、ノンフィクションエッセイ『兄の終い』を執筆した原作者・村井理子をモデルとした人物だ。
「ご本人とリモートでお話しさせていただいたんですが、村井さんはお子さんにも旦那さんにも“結構ドライです”と。なるほどと思いました。自分にも多少似てるところがあって。ひとりっ子なので、あんまりベタベタした関係とか、家族でもずっと一緒にいることはできないので」
そんな共通点を見いだしながらも一方で、
「私は普段、はっきり物を言うところがあるんですが、理子はそういう雰囲気ではなく、物腰は柔らかい。ただ芯も頑固さもあるし、自分では普通だと思っていることが周りからそうは見られない独自性を持ったキャラクターではあって。だから、自分の“ピシャリ感”はなるべく抑えようと思いました(笑)」
兄役のオダギリジョーとの共演は映画『メゾン・ド・ヒミコ』('05年)以来、20年ぶり。
「でも、いろいろな作品で見ているので、久しぶりな感じはあんまりしなかったですね(笑)。やっぱりたたずまいが独特で。オダギリさんがこの兄を演じることによって成立している部分はあると思います。妹的には憎たらしく、許せない部分もいっぱいあるのに、周りの人からは好かれていて“悔しい!”みたいな。そんな空気をつくり出してくれたので、やっぱりすごい存在感のある役者さんだなと思いました」
久しぶりの再会はどんな感じだったかと尋ねると、
「たぶん、オダジョーさんもそれほど社交的ではなくて、“あ、どうも”みたいな(笑)。スタッフを含めたごはんに1回だけ行けて、それで距離は縮まったように感じているんですが、覚えているかどうか(笑)」
元兄嫁・加奈子を演じているのは満島ひかり。
「加奈子には、大胆さやきっぷの良さがあって。それが理子としては心地いい相手だったんだろうなと思います。作中の4日間の中で距離が近づいたり、言い合いをしたり。それも、なんか家族っぽくて。気まずい雰囲気を引きずりながらも、翌朝にはごはんを一緒に食べたり」
満島と共に出演した映画は今までに2作あるが、共演シーンはなかったという。今作で初めてガッツリ共演した感想は、
「頼りきりで、めちゃくちゃ支えられました。年齢的には下なんですけど、私より確実にしっかりしていて。仕事モードのときのひかりちゃんは“ノーといったらノー”を貫ける、とてもクールな人。だから、私としてはすごくやりやすかった(笑)。
それこそ育った環境や家族構成は全然違うと思うんですけど、人としての考え方や進む方向性、“何のために生きるのか”みたいなところが似ている感じがします」
“家族とは?”を考えるいいきっかけとなる映画
本作の撮影中、柴咲の頭の中には“家族とは?”がずっとリフレインしていたと振り返る。
「“家族とは何ですか?”と聞かれても、“ただ存在していい人たち”としか言いようがなくて。いろんな家族があるから、一概に言えないし。どんなに親しくてもあまり踏み込めない部分だし。自分は内情を友達に話すタイプではないんですが、そうするとどんどん考え方自体が孤独になっていく。
もちろん、人と比べることもできないし、人の家族を見たところでその内情もわからないわけで。“なんか難しいな”っていうのが家族だなと思います。でも、それを難しいと取るのか、課題や学びとするのか、“いるだけでいい”と悟りの境地に行くのか、それも自分次第。だから“家族とは?”を考えるいいきっかけとなる映画だと思っています」
本作に加えて、11月19日からは主演ドラマ『スキャンダルイブ』(ABEMA)も始まる。アーティストとしては全国17都市を巡るツアーの最中だ。独立して5年。社長業も行いながら、その活躍はますます精力的だ。
「“やりたいな”“実現したいな”と思ったことの種まきが、企業さんとのコラボなども相まって形になってきていて。俳優としても出たい作品に出させてもらっていて。一つひとつの動きはやっぱり“点”で見られがちなんですが、それが“線”となるような形作りができたらいいなと思っています。
まだ漠然としている部分もあるんですが、いつか“なるほど、こういうことね!”って、ある種の答えのようなものが提示できたらいいのかなと思っています」
柴咲コウは、美しい線を描き続ける─。
持ち運んでいるもの
「今、現場用もプライベート用も同じバケツ型のバッグを使っているんです。気に入っていて。そこにいっぱいチャームをつけています。ティッシュケース、ボックス型のリップ、目薬入れ、コインケースとか。小銭を使う機会もないのに、そのコインケースが可愛くて(笑)。あと、私って“ぬいぐるみ症”なんです。それこそ、けっこう大きめのぬいぐるみもつけています(笑)」
11月28日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開 配給/カルチュア・パブリッシャーズ
取材・文/池谷百合子
