左から柚希礼音、湖月わたる 撮影/矢島泰輔

 往年の宝塚星組ファンから、喜びの悲鳴が聞こえてくるツーショットが実現! 2003年~'06年に星組でトップスターを務めた湖月わたる。そして、'09年~'15年に同じ星組でトップスターを務めた柚希礼音の歴代トップ対談。

 12月には怪奇小説『ジキル博士とハイド氏』をモチーフにしたダンス演劇『マイ フレンド ジキル』で、舞台として退団後の初共演を果たす。星組に在籍した先輩と後輩の2人が語る“あのとき”と“これから”─。

共演発表で「どういうこと!?」連絡殺到

湖月 ちえ(柚希)とは、コンサートに1回ゲスト出演をさせていただいただけで、しっかりと共演するのは今回が初めてだよね。

柚希 意外だけど、そうなんですよね。退団後はお仕事でご一緒する機会がなかなかなくて、早く共演したいと思っていたけど、せっかくやらせていただけるならば、おいしいタイミングでと思っていたら……。

湖月 私が宝塚を退団したのが'06年だから19年前……、約20年ぶりになるのね。そんなに時間がたったんだ。怖いね(笑)。

柚希 恐ろしいですよね(笑)。作品だと『愛するには短すぎる』以来ということですよね?

湖月 そうそう。何か今、走馬灯のように一緒に舞台に立っていたときのことが頭に……(笑)。

柚希 『マイ フレンド ジキル』での共演が発表されてからファンの方からも、先輩や後輩からめちゃくちゃ連絡が来ました。“この企画はどういうこと!?”って(笑)。

柚希「わたるさんが私の“育ての親”」

 湖月がトップスターのとき、柚希が同じ役を新人公演(※)で演じることも多かった。初めて湖月と同じ役を柚希が演じたのは'03年の『王家に捧ぐ歌』だった。

※本公演中に宝塚と東京で1回ずつ、歌劇団入団7年目までの生徒だけで本公演と同じ演目を上演する公演。

このときのことを2人に振り返ってもらうと─。

柚希 あのときはもう、わたるさんが“太陽”すぎて……。

湖月 太陽って何?

柚希 まさにエジプトの将軍のラダメスで、直視できないくらいに眩しかったんですよ。専科から星組に戻られて初めての作品で、組で兵士を演じていた組子たちみんなが、わたるさんから声をかけてもらえるだけで涙が出るくらいうれしくて。

湖月 そんな(笑)。

柚希 いえ、本当ですよ。私、初めての新人公演で同じラダメスを演じさせていただきましたが、本当に何もできなくて。作中でラダメスが将軍になったときに“うおぉっー!”と叫ぶんですけど、それすら恥ずかしくて……。

湖月 そうだったの?

柚希 お芝居に対して、まだ何もかもが恥ずかしくて。1つ下の下級生がやってくれて“私もやったんだからやってみてください”なんて言われながら、何度も劇場のロビーで練習して、やっと稽古場に行けるくらいでした。

湖月 そんなふうには見えなかったけどね。

左から柚希礼音、湖月わたる 撮影/矢島泰輔

柚希 本当に、やっと舞台に立てたというレベルでしたね。今思えば、そんなこと言ってないでやらないと、という感じなんですけど。

湖月 あのとき、私は主役として星組に戻ってきて、将来有望なちえが私の役をやってくれる。しかもそれが初主演だということで、何をしてあげられるだろう、って思ってた。でも、その前の全国ツアーで一緒だったくらいでそんなにコミュニケーションも取れていない関係だったから、どこまで言ったら傷ついてしまうかもわからないじゃない。

 そんな私に、まっすぐな目で“ここがわからないんです”って素直に来てくれて。何か愛おしいというか、親心が芽生えてきて、なんとかしてあげたいという気持ちになったことを覚えています。

柚希 いやいや、畏れ多いです(笑)。

湖月 今回の作品でも、同じ役を2人で回替わりで演じるけど、私、ちえに対して全然上級生だと思ってないんです。ちえは私のことを上級生だと立ててくれるけど、私はアーティストとして、俳優としてちえを尊敬しているし。だから同じ舞台に立つといっても、星組時代のように“学年”というものはないので、そういう上下関係を意識してないんですよ。

柚希 でも、やっぱり私はわたるさんに育てていただきましたし、永遠に尊敬する先輩なんですよ。だけど今、同じ舞台を作っていくということでは、わたるさんにおんぶに抱っこでは絶対にいいものが作れないと思います。

 俳優同士として、そこはちゃんと2人で向き合っていかないとわたるさんもやりづらいと思うので、心をオープンにして助け合いながら取り組んでいこうと思っています。わたるさんが私の“育ての親”ということは変わりませんけど(笑)。

宝塚から離れたからこその“気づき”

 在団中から、ダンサーとして評価が高かった2人。『マイ フレンド ジキル』では語りとダンスを回替わりで担当し、2人でデュエットの場面もある。ダンサーとしてお互いをどう見ている?

湖月 ちえは幼いころからバレエで培った技術とバネ、その身体能力に経験を積むことで表現力が加わっていて、すごいダンサーだと思う。

 自身のコンサート『REON JACK』でも毎回いろいろなジャンルのダンスに挑戦していて。どこまで自分を追い込むんだろう、って。ダンスで夢を見させてくれますね。そこに至るまでの努力は並大抵のものじゃないと思うので、本当に尊敬してます。

柚希 わたるさんのダンスは深いというか……、どんなダンスを踊ってもすべてに“芯”があるんですよ。お芝居も歌も含めてなんですけど、深みがあって地に足がついているから、舞台に出てきただけで規格外のオーラを感じます。

湖月 私、ダンスも演じることだと思っているんですよ。でも、宝塚を退団するとそこまでダンスと向き合う機会がなかなかなくて。本番で踊るって、舞台が筋トレみたいな感じで(笑)。でも退団するとそういう公演もなかなかないじゃないですか。

 何年か前に下半身がグラグラしてきた時期があって、そのトレーニングはするようになりました。身体が筋力をキープできなくなってきたというか、踊っていて不安なところもあったけれど、土台である下半身がしっかりしていれば大丈夫なんだ、って。地味だけど、年を重ねてくると必要なんですよ。

柚希 そうですよね。私も足裏トレーニングとか、指だけトレーニングというものを最近ようやく、ちゃんとやるようになりました。

宝塚時代の話から、最近出演したお互いの作品まで話が尽きることのない湖月わたる(右)と柚希礼音(左)撮影/矢島泰輔

湖月 私が今のちえの年齢では気がついてなかった。いいことよ、早く気がついたということは。宝塚から離れたからこその気づきだけど、今回のようにちえとデュエットを踊れるのも宝塚ではなかったことだよね。

柚希 ですよね。娘役さんとのデュエットは普通にありますけど、男役同士ではほぼありませんから。

湖月 物語をちえとダンスで紡いでいくってどうなるんだろう、と楽しみで。お互いの駆け引きというか、身体や目で会話して伝え合い、湧き出てくる感情で触れ合える瞬間がたくさんあるんじゃないかなと思っているの。

柚希 私も今回の作品でいちばん楽しみにしているのが、デュエットダンスなんです。念願のわたるさんとの2人だけでの舞台。この先、こんなことはもうないかもしれないので、楽しみながらわたるさんから吸収できるものを吸収して、2人で高め合える舞台ができれば、と思っています。

湖月 本当に、こんな素敵な作品で共演できるのは感謝しかないです。楽しみにされているファンの方にも、うれしい驚きというか期待以上に裏切るステージにできるように挑みたいと思います。

『マイフレンドジキル』怪奇小説の金字塔『ジキル博士とハイド氏』をもとにしたダンス演劇。語りとダンスで湖月&柚希の元星組トップペアが魅了する。12月16日~22日まで東京・よみうり大手町ホール、12月27日~29日まで大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて

『マイ フレンド ジキル』
怪奇小説の金字塔『ジキル博士とハイド氏』をもとにしたダンス演劇。語りとダンスで湖月&柚希の元星組トップペアが魅了する。12月16日~22日まで東京・よみうり大手町ホール、12月27日~29日まで大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて。詳細はhttps://myfriendjekyll2025.com


取材・文/蒔田 稔