銀行ではシニア層を対象とした定期預金のサービスや金融商品が増加。通常よりも高い金利が適用されている。
「昨今では“貯蓄から投資へ”という流れがある中、これまで貯蓄中心で資産運用をしてきたシニア層は投資に躊躇する人もいるでしょう。この世代は何より元本割れは避けたいという傾向が強いので“投資より貯蓄”を選ぶ人は少なくありません」
こう語るのは、ファイナンシャルプランナーの原田茂樹さん。シニア層は預貯金の金利が高かった時代を知っているため、預金への信頼度が高い。
利用するには条件を満たす必要も
「預金のメリットは、損を心配する必要がなく、簡単にお金を引き出せる流動性の高さ。急な出費や医療費が必要になったときでも、ATMやインターネットバンキングからすぐに引き出せます。定期預金であっても短期のものが一般的なので、“いざという時にすぐ用意できるお金”であることが安心につながっているのでしょう」(原田さん、以下同)
シニア向けのキャンペーン商品は、退職金など、まとまったお金の安全な預け先として選ばれているようだ。
「例えば金利がわずか0・2%高いだけでも、500万円を預けると年間で約1万円(税引き前)の利息が受け取れます。増えたお金で、ちょっとした旅行や美味しい食事を楽しむ。普通預金で眠らせておくよりいいですよね」
退職金向けのキャンペーンは、さまざまな金融機関で行われているが、利用するには金融機関が設けた所定の条件を満たす必要もある。
「例えば“退職金を受け取ってから◯年以内”“投資信託と定期預金をセットで申し込み”“満期は3か月程度と短い”などです。選ぶ際には各金融機関の条件をよく確認しておくことが大切です」
リスク分散させて株式投資も視野に
さらに、金利だけで口座を選ばないように注意。細かなところで盲点もある。
「年金が主な収入になると、預け先の銀行のATMを利用する機会が増えます。もし金利の高さだけを基準に選んでしまうと、“近くにATMがなくて引き出しが不便”“振込手数料が高い”など、思わぬストレスになります」
預金は安心だが、大きくは増やせず、昨今の物価上昇を考えれば投資も視野に入れてみてはと原田さん。
「個人向けの国債は元本割れリスクが極めて低く、発行1年後から中途換金も可能です。2025年10月現在、個人向け国債であれば、3年の固定型で年利は1・01%、10年の変動金利型ならば、初回金利は1・08%(共に税引き前)と低金利の預金より有利です。
アメリカ国債の場合なら、10年債ならおよそ4%台です。購入したときの利回りが確保されるのが債券。定期預金の金利では満足できないというシニアには、おすすめできる商品だと思います」
退職金を新NISAのつみたて投資枠で長期運用するのも遅くはないと話す。
「人生100年時代と考えれば、60代ならまだ先は長い。たとえ投資で暴落があっても、10年20年の単位なら回復できる可能性があります。それに、NISAの出口戦略では、“取り崩し方”が重要です。
必要になったからといって一度にすべてを売却してしまうと、それで終わり。ですが、毎月や毎年、必要な金額分だけを売却していけば、残りは運用が続き、利益が出るため、資産を長く保てます」
もちろん、投資である以上リスクは否定できないため、分散させることがおすすめ。
「“卵を一つのカゴに盛らない”が投資の鉄則と考えて、株だけでなく、国債などの債券、定期預金など、金融商品を複合的に持ち、リスクヘッジして資産運用をするとよいでしょう」
相続争いのリスクも避けやすく
シニア世代には保険商品の活用も一つの手だと原田さん。生命保険の機能の一つに、指定代理請求制度というものがある。
「例えば、重い病気や認知症などで本人が意思表示できなくなった場合、通常は保険金や給付金を請求できません。指定代理請求制度とは、こうした場合に備えて、あらかじめ指定した家族などが代わりに請求できる制度のことです。この制度を使えば、本人が動けない状態でも、必要な医療費などをすぐに用意できます」
生命保険各社が提供する個人年金にも、さまざまな商品が増えている。
「生命保険の機能を持たせながら株式や債券、投資信託などの組み合わせから選んで投資する保険があります。収益によって保険金や解約返戻金も増減します。さらに、病気や介護に備えつつ、アメリカ国債を運用して資産形成するものも。つまりは備えと投資を併用するような貯蓄型保険もあります」
こうした生命保険商品には、年利4%を超えるものもあると原田さん。さらに終活としてもほかの資産運用にはないメリットがあるそう。
「シニア世代、遺産相続も課題でしょう。お子さんが複数いる場合の資産の振り分けに関しては、生命保険を活用する方法があります。死亡保険金には非課税枠(500万円×法定相続人の数)があるため、例えば現金1000万円をそのまま相続するより、生命保険に加入して死亡保険金として遺すほうが、相続税の負担を軽減できるのです」
また、受取人を指定できるため、相続争いのリスクも避けやすくなる。
「預金は日々の安心、株式投資は資産の成長、保険は万が一への備え─それぞれに役割があります。一つに偏らず、バランスよく持つことが、長い老後を支える資産づくりの基本です」
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の金融機関・金融商品の勧誘を目的とするものではありません。掲載金利・条件は2025年11月現在の情報であり、今後変更される可能性があります。投資・保険商品には元本割れや損失のリスクがあります。ご利用の際は各金融機関にご確認ください。
取材・文/千羽ひとみ
