波瑠演じる薫が、川栄李奈演じる茉海恵の娘の母親になりすますドラマ『フェイクマミー』。その偽装がばれないか、スリリングな展開が話題だが、6話のラストでは薫のママ友で仲間だった田中みな実演じるさゆりが、急に薫にそっけない態度を取り、「いよいよ田中みな実の本領発揮か?」と期待を集めている。
『フェイクマミー』田中みな実の本領発揮?
本作で田中が演じているさゆりは、育ちのいい控えめな専業主婦で、入学当初、保護者会会長の玲香(野呂佳代)たちに行事委員を押し付けられそうになったさゆりを薫が助けたことから親しくなり、毅然とした薫のことを「私のティーチャー」と信頼するほど。
さゆりは家庭でも、会社社長である夫・慎吾(笠松将)の言いなりだった。しかし6話では茉海恵のアドバイスで、息子の進学について自分の意見を慎吾に主張できたことから、少し自信が生まれた様子。
それと同時に、薫と茉海恵の偽装関係にも何か勘づいた様子だった。そしてある朝、いつものように挨拶した薫に、さゆりが返事もせず、そっぽを向いて去っていったのが、6話のラストだった。
これまでボスママ役の野呂の方が目立っていて物足りなさを感じていた視聴者としては、いよいよ田中みな実の本領発揮かと、色めきだったわけだ。
田中といえば、TBS(2009年入局)の局アナ時代からあざといキャラクターが売りで、「嫌いな女子アナランキング」の常連だったこともある。
2014年にフリーになってからもその印象は付いて回ったが、それが大きく変わったのは、女優に転身してからだろう。
最初の出演作は2019年の連続ドラマ『絶対正義』。狂気的な主人公(山口紗弥加)に追い詰められていく元同級生の4人を美村里江らと演じていたのだが、これがナチュラルで非常に巧かったのだ。通常、他業種の人(当時はまだフリーアナウンサーという認識だった)が初めて演技の仕事をすると、どこか素人っぽさが出るのがご愛嬌だが、田中の場合はそんな様子は全くなく、元から女優をしていたような自然さで、筆者は最初、田中とは気づかなかったくらいだ。
女優としての名を広めたのは、2020年の『M 愛すべき人がいて』。浜崎あゆみの自伝的ドラマいわれる本作で、田中は主人公(安斉かれん)とレコード会社専務(三浦翔平)の恋路を邪魔する秘書役を、眼帯姿で強烈に演じてみせた。全体的に芝居がかかった本作の中で、田中が「許さなーーーい!」と安斉を脅すシーンは、ほとんどオカルトドラマの域で、視聴者が毎週楽しみにするシーンとなった。
これは本来、ベテランのバイプレーヤーがやるような役で、ヘタにやるとただのイロモノで終わってしまう危険もあった。裏話として彼女は、この音引きを何秒間伸ばしたら一番視聴者に響くかを計算してやっていたと聞いたことがある。この辺は、言葉を伝えるプロである元アナウンサーならではの感覚だろう。
同じ役をやっても印象に残る田中みな実
以後、『Destiny』の情緒不安定で、亀梨和也に執着して事故死してしまうような役がはまり役である一方、『愛の、がっこう。』で木村文乃を守ろうとする姐御肌な役もよく似合う。『最愛』の悪を追及するノンフィクションライター役も危うい感じが良くて、真実に迫った直後に死んでしまう哀しい最期も印象に残った。『あなたがしてくれなくても』の離婚した夫や不倫相手を叱り飛ばしつつも許す役は、同性からも「カッコイイ」との声が集まった。
同じ役をやっても、印象に残る俳優と残らない俳優がいる。田中は前者で、たぶん自分がその作品でどういう役割を求められているかを的確につかんで、見せ方も知っているから、どんな役でも対応できて、視聴者にも印象を残せるのだろう。
それが作り手にはわかるから、年に2~3本のペースで連ドラに声がかかり続けるのであって、2023年にはNHKBSの『悪女について』で主演も果たしている。
視聴者が『フェイクマミー』6話のラストを見て「いよいよ本領発揮か?」と期待するのも同じことで、「田中みな実なら、ただで終わらず何かやってくれるだろう」と期待させるのも俳優の実力といえよう。
6話ラストでは、学校に「1年1組に偽りの母親がいる」という怪文書が届いていた。これの送り主はさゆりなのか? そして今後、薫の嘘を暴いていく側に回るのか?
あっさり7話で薫との仲が修復してしまったらちょっとがっかりだが、そうすんなりとはいかない気配がある。
そもそも、さゆりの夫・慎吾が茉海恵の元恋人で、薫の元上司というのは、あまりに世間が狭いと若干ツッコみを入れたくもなるが、その慎吾が息子のことを「俺と似てない」と発言していたのも気にかかる。もしや、さゆりも大きな秘密を抱えているのか。
本作の俳優の番手では、薫の母親役のベテラン・筒井真理子でなく、田中がトリに配置されていることにも注目したい。そのことからも、物語後半のキーパーソンになりそうなことが伝わってきて、田中の演技に期待がかかるのだ。
