前田健太投手、黒田博樹氏

 メジャーリーグから11年ぶりの日本球界復帰を目指す前田健太投手(37)。11月21日に移籍先の有力候補として、東北楽天ゴールデンイーグルスが挙がっていることを各スポーツ紙が報じた。

 覇権奪回に向けた大補強が予想される読売ジャイアンツも参戦済みとの“マエケン”争奪戦だが、なぜか古巣・広島東洋カープの名前は出てこない。エース復帰を心待ちにするファンも「なぜオファーを出さないのか」と、獲得に“動かない”球団に疑心暗鬼になっているがーー。

 2006年に当時の高校生ドラフト会議でカープから1位指名を受けて入団。伸びのあるストレートに大きく縦に曲がるカーブ、そして高校生離れした抜群の制球力で将来のエース候補として早々に頭角を現した前田。

 エースナンバー「18」を背負った2008年に9勝を挙げ、2010年からは6年連続で二桁勝利を記録するなどカープ低迷期において絶対的エースとして君臨。若手投手陣のリーダーとてチームメイトから信頼され、ファンからも絶大な人気を得た。

 そんな前田のNPB復帰、しかも一部では「2年総額4億円プラス出来高払い」とメジャー帰りとしては比較的安価な契約条件も伝えられている。むしろ彼の集客力、グッズ販売収益を算段すれば楽にペイできる金額にも思える。にもかかわらず、カープはなぜ“スルー”しているのか。

日南キャンプに帯同した黒田博樹氏

「現在も球団に籍を置いている黒田博樹さんの存在も影響していると思います」とは、在阪球団を取材するスポーツライターの見解。

 2025年シーズンを5位で終えたカープは、クライマックスシリーズが始まった10月中旬から秋季練習をスタートさせ、さらに11月1日からは宮崎県・日南秋季キャンプと猛練習に励んだ。そこで若手投手の練習に目を光らせていたのが、11月21日の打ち上げまでキャンプに帯同したカープOB・黒田博樹氏(50)だ。

レシピ本も出している前田健太選手の妻・成嶋早穂さん(2015年)

 現役バリバリのメジャーリーガーとして、2014年12月にニューヨークヤンキースからカープに復帰した黒田氏。2年目の2016年シーズンに日米通算200勝を達成すると、投手陣の柱としてチームを25年ぶりのリーグ優勝に導いた“レジェンド”だ。現在は、カープの球団アドバイザーの職に就き、自身の経験を選手に伝えている。

 そんな黒田氏が、前田の“カープ復帰”とどんな関係があるというのか。

2人は野球観というか、投手の練習方法をめぐる“投手観”が異なるんです。象徴されるのが指導者や野球解説者の間でも議論される“投げ込み”で、黒田さんは現役時代から推奨派、片やマエケンは投げ込みを不要とする“反対派”なんです。

 日南キャンプでも、それぞれに課題をもたせて練習した若手投手ですが、中には1日で200球以上を投げ込む投手もいました。黒田さんも現役時代は200球、多い時に300球も投げる投手でしたが、近年はMLBの影響もあって、怪我のリスクを考慮して球数制限させる指導者も少なくない」(前出・スポーツライター、以下同)

追い込んで体の反応を見極める

 11月14日に配信された『スポニチアネックス』記事のインタビューでも、「過剰な投げ込みを推奨しているわけではない」と前置きしつつ、

【リスク回避ばかりしていては成長できない。体の使い方を習得できれば、長いシーズンを乗り切るフォームが身に付きますし、疲れた状態でもボールを操るテクニックを覚えることで、ケガ予防にもなる。追い込んでいく中で自分の体の反応を見極めることもプロには重要なスキルだと思います】

 あらためて「投げ込み」の重要性を説いている黒田氏。一方の前田は、2021年にYouTubeチャンネルにて【前田健太は何故投げ込みをしないのか!?】との“アンサー”動画を投稿している。ブルペンで200球、300球を投げる投手に対して「否定ではなく、単純な疑問」とした上で、

イラスト付きで新年のあいさつをしていた(前田健太公式インスタグラムより)

1球目からやれへんかったん?

【疲れてきてから下半身が使えるようになる。疲れてきた中でどうやったらいいボールが投げられるかって考えたら、下半身をうまく使って投げないといけないから。100球とか200球あたりから疲れてくるから、“そこからいいフォームが見つかる”みたいなコメントよくあるでしょ? え、(100球、200球を投げる前に)1球目からやれへんかったん?って思って、俺は。200球とか、試合終わってるから

 確かに黒田とは相容れない、真逆とも言える投手観を展開するのだった。

「マエケンはメジャーではブルペンで20球程度しか投げず、しかも全力投球しない練習方法で10年間戦ってきました。もちろん黒田さんも日米のトップレベルで結果を残した選手だけに、互いに投手論を持っていてどちらかが正しいとも言えません。

 ただカープ時代も投げ込みを極力避けたマエケンを、当時の若手選手がマネする事態も起きていたと聞きます。仮にマエケンがカープに来たら、選手が黒田さんとの間で板挟みになる可能性もある。元々、カープは12球団イチとも言われる猛練習によって選手が育つ風土があるチームだけに、若手には黒田さんの投手観を授けたい球団の思惑もあるのではないでしょうか」

 “船頭は二人いらない”ということか。