「カリ! サクサク」とした歯ごたえで、一度食べだしたら本当に「キリンがない!」。今年で発売30周年を迎えたカルビーの「じゃがりこ」は、いまや年間売り上げ480億円を超えるという大ヒット商品だ。
おやつはもちろん、お酒のつまみにも、そしてお湯を注げばポテトサラダにもなる国民的スナックは、いかにして生まれたのだろうか。カルビーのマーケティング担当者・安西美玖さんに話を聞いた。
「カップ型」になった意外な理由
「じゃがりこ」が誕生したのは1995年10月23日。新潟県で「サラダ」と「チーズ」の2種類が発売されたのが始まりである。
「1990年代初めは“カウチポテト族”という言葉が流行しており、スナック菓子は家の中で食べるイメージが強いものでした。そこで、真逆の発想として『女子高生がカバンに入れて持ち歩けるスナック』という屋外消費型のコンセプトで開発が始まりました」(安西さん、以下同)
外出先であまり手を汚さずに、みんなでワイワイ食べられるように、味つけもパウダーではなく「粒」を練り込む方式にした。しかし、開発は一筋縄ではいかなかったという。
「『じゃがりこ』は『生のじゃがいもを蒸してつぶし、成形・熱乾燥してから油で揚げる』という、前例のない製法を採用しました。他商品は小麦粉などを配合し軽い食感を実現しているのですが、『じゃがりこ』はじゃがいも100%にこだわったので、当初の試作品はおせんべいよりもかたかったようです」
「じゃがりこ」の唯一無二の特徴である「かたさ」は、社内でも賛否が分かれたが、テスト販売が始まるとかなりの売り上げになったという。このときの名称は「じゃがスティック」で、今のような円柱形ではなく、四角柱で現在よりも長いものだったという。
「テスト販売で好評をいただいたものの、やはり『まだかたい』という意見があり、角をなくして食べやすいようにと円柱形に改良しました」
テスト販売時の包装は「箱型」だったという「じゃがりこ」。カップ型になったのはなぜ?
「スティックの折れにくさを追求したのと、当時カルビーがF1のスポンサーだったこともあり、車のカップホルダーに入れて食べられるようにとイメージしました」
開発担当者がさまざまなカップホルダーを実際に買い、入れることができるか試しながら形状を決定したという。
30年で200種以上もの味が登場
そして気になるのは「じゃがりこ」という名前。「社内公募で1000を超える候補の中から最終選考に残ったのが『じゃがりこ』と『じゃがりんこ』で、最終的に『じゃがりこ』に決まりました」
名づけ親になった社員によると、友人である「りかこ」さんが試作品をとてもおいしそうに食べている姿を見て、ひらめいたのが「じゃがりこ」だったそう。りかこさんのその後が気になるところだが、彼女に関する記録はないという。
だが、じゃがりこのキャラクターである「じゃがお」の奥さんの名前は「りかこ」で、その功績を残しているともいえる。
このキャラクターや、「食べだしたらキリンがない」と、添えられているダジャレも気になるところだ。
「イメージキャラクター案の中にキリンがあり、それを見た当時の開発者が『食べだしたらキリンがない』と言ったのが、ダジャレの始まりです。なぜキリンか聞かれることが多かったこともあり、パッケージに掲載するようになりました」
かくして「じゃがりこ」はダジャレに独特のデザインのバーコードなど、遊び心が詰まったパッケージデザインになったのである。
多彩なフレーバーも、「じゃがりこ」の魅力だ。30年の歴史の中で登場したフレーバーは、なんと200種類以上! しかし定番フレーバーはたったの4種類。
「『サラダ』『チーズ』に続き、2005年に『じゃがバター』が、2010年に『たらこバター』が定番として加わりました」
特に、ニンジンとパセリを練り込んだポテトサラダをイメージした「サラダ」味は、30年前から一度もレシピを変更していない“黄金レシピ”だという。
一方、定番になれなかった味も。
「ポテトチップスの王道フレーバーである『うすしお味』や『コンソメ』も、過去に発売していますが、定着しませんでした。形状や食感によって、人気のフレーバーが変わるのは社内でも発見でした」
多彩な期間限定・地域限定フレーバーもファンの心をつかんでいる。2024年に「復刻してほしい味」をファン投票で決める「推しフレーバー総選挙」が開催されたが、そこで見事1位に輝いたのは、2014年発売の「アスパラベーコン味」だった。また、「九州しょうゆ味」は中国・四国・九州地方の定番商品として愛されているという。
お菓子の枠を超えた人気
また、じゃがいも以外の素材を使った「素材りこ」シリーズも人気だ。
「『さつまりこ』を皮切りに、『とうもりこ』『えだまりこ』『おこめりこ』、そして『あずきりこ』など、個性豊かな仲間が登場しました」
近年ではさらに形状を細くした「細いやつ」や、スティックが真っ黒な「黒いじゃがりこ(黒トリュフ塩味)」、真っ青な「青いじゃがりこ(シーフード味)」など形状や色が違う限定品も登場し、発売されるたびにSNSなどで話題になっている。
常にさまざまな新味を開発している「じゃがりこ」。「こんな味があったらいいな」というファンの夢が実現することもあるのだろうか。
「カルビーには『じゃがりこ探検隊』という公式ファンコミュニティーがあり、ファンと新商品を開発する共創企画も行っています」
新味開発に携わるチャンス、かも。
「じゃがりこ」といえば、「サラダ味にお湯を注ぐとポテトサラダになる」など、アレンジができるのも愛されポイントのひとつ。水分を加えて加熱するとマッシュポテトと同じように使え、フレーバーによって違うアレンジが楽しめるのも魅力的だ。
「皆さまに気軽にアレンジを楽しんでいただきたいのですが、『じゃがりこ』のカップは耐熱容器ではないため、他の耐熱容器に移すなどやけどに注意してください」
ちなみに、公式によると「じゃがりこサラダ味」(57g)に対し、最適なお湯の量は115ml。ラップなどをかけて3分ほど蒸らすのが、おいしく作るコツだそう。
「じゃがりこ」はコラボ展開も活発だ。直近では「ちいかわ×じゃがりこ 細いやつ」が話題になったほか、キーホルダーや文房具、Tシャツにおもちゃなど多数販売されており、もはやその人気はお菓子の枠におさまらない。
また、最新「超合金 じゃがりこキング」も登場。カップの中の「じゃがりこ」に模したパーツが変形し、“おいもの未来を切り開く”超合金ヒーローに華麗に変身(!)するという驚きの展開を見せている。
30周年を迎えても、変わらない味はそのままに、進化は止まらない「じゃがりこ」。次はどんな味・どんな驚きで私たちを楽しませてくれるのか。キリンのように首を長くして待ちたい!
まだまだある! じゃがりこ豆知識
キャラクターは「商品ごと」に違う!
フレーバーごとにすべて違い、それぞれ名前やプロフィールがある。夫・じゃがおと妻・りかこを中心とした家系図も存在。ちなみにじゃがおの趣味は日曜大工、りかこはお料理が得意。また、「さつまりこ」にはフラミンゴの「札 真理子」など、キリン以外のキャラクターも。
海外限定フレーバーがある!
現在、アメリカ、中国、シンガポールでも販売されており、アメリカには「TERIYAKI」味が。なお、「サラダ味」は「Original」という名前で販売されているが、レシピは日本とは少しだけ異なっているという。
カルビー社内のコードネームは「JR」!
海外での「じゃがりこ」は「JagaRico」。「Rico」はスペイン語で「おいしい」という意味がある。この頭文字を取って、カルビー社内では「JR」と呼ばれることも。
パッケージ裏のキリンマーク、実は大事!
パッケージの裏、成分表示などの下にある小さなキリンのシルエットは、ただのデザインではなく、「レジマーク」と呼ばれる重要な印。工場でカップの正面とフタの開け口の向きをそろえるために使われている。
「じゃがりこ」好きには必携のファンブックが発売!
30周年を記念して、カルビーが全面協力した『じゃがりこ30周年公式ファンブック』(KADOKAWA 税込み1980円)が発売された。これまで世に出た200種類以上の商品を一挙公開。さらに、コラボグッズやトリビア、アレンジレシピなど、お菓子としての枠を超えた魅力を余すところなく紹介している。
構成・文/高松孟晋 撮影/近藤陽介(安西さん)
