寒さが本格的になり、心もゆらぎやすくなる今の時期。イライラしがちになったり、更年期の症状に悩まされたりで、自分をいたわる方法を模索している人もいるのでは。
「心を整えるために、心の内を紙に書き出す“書く瞑想”がおすすめです。欧米では“ジャーナリング”と呼ばれ、ポピュラーで非常に優れた心のケア方法として親しまれています」
書いて吐き出し自分の内側の毒素を出す
そう話すのは、ウェルネスパイオニアの吉川めいさん。欧米では、書く瞑想はセラピーの一環として取り入れられ、ストレスや不安の軽減、体調の回復にもつながる効果が実証されているという。吉川さんは、自ら主宰するオンラインコミュニティーや講演を通じて、書く瞑想を軸にした“心の扱い方”を伝える伝道師。今までに、経営者やアスリート、モデル、俳優、アーティストなど、多くの人を指南してきた。
「私が提唱しているのは、20年以上ヨガを学んできた自分の経験をもとに構築したオリジナルの手法です。ヨガの瞑想では、ポジティブな感情だけでなく、嫉妬や怒りなどのネガティブな感情も受け入れるプロセスが重視されます。これを応用し、まず“自分の心の状況に気づき正直になる”、そして“感情を整える”“自分を大切に、自分自身を受け入れる”。という順に、心に浮かんだ考えや感情をすべて書き出し、可視化していくことで心を整えます」
中でも重要なのがファーストステップの“自分の心の状況に気づき正直になる”こと。すると“結婚してから、実はずっと夫が嫌いだった”など、タブー視してきた心の声が出てくる人も。
「ネガティブな感情には目を背けがちですが、心のズレは隠しても消えるものではなく、時間を経るごとに大きく膨らんでいきます。ひどい言葉を書くことに罪悪感を抱くかもしれません。でも、誰をまき込むものでもなく、書いて吐き出すことで、自分の内側に潜む毒素が出ていく。さらに、本当の気持ちに気づくことで、違うアプローチが見つかり変化の風が訪れます」
更年期の世代にこそやってほしい
紙とペンさえあれば、すぐに始められる「書く瞑想」。とても手軽な一方で、心にとどめておきたいルールがある。
「嫌だった気持ち、憎しみや嫉妬心など世の中的に考えれば“悪意”のある側面だったとしてもド素直にドストレートに書くこと。すべてをさらけ出すのが、もっとも重要なポイントです。紙に書いた内容はあくまで“思考”です。汚い言葉を書いても、あなたが悪人になるわけではない。ストレスがあふれてしまう前に、ペンをとってほしいんです」
デジタル時代に、スマホメモではなく、手書きで、心の温度感をそのまま書き出す。すると、その過程で自分の中で凝り固まっていた負の固定観念や思い込みに気がつく人も多く、書き終えると心が軽くなることを実感するそう。
なぜ本心をさらけ出すことが重要なのか。それは、この書く瞑想のテーマは“気づき”だから。自分の本心に気づいたら、自分にとって心地よいことを選び直せるようになる。
「どの感情も自分が選んでいるわけです。その背景には、幼いころから刷り込まれた価値観や、自己肯定感の低さ、環境などいろいろあるかもしれません。でも今自分が苦しいのなら、なぜその感情が生まれたのかを自分に問いかけ、受け入れることが大切」
不満がある状況をそのまま放置しては何も変わらない。「人の心って思っている以上に大きなスペースがあるんです。自分の本心を殺すのではなく、素の気持ちを見つめて素直に寄り添うと、違った選択肢や思いがけない解決策にたどり着くのです」
自分に対して素直に、心を開いてみることは、日常において、意外なほど置いてけぼりになっている行為かもしれない。
「すぐに解決策が見つかるといった魔法はありません。でも、ネガティブな気持ちがノートにあふれたら一度ペンを置き、ノートから離れてみましょう。イメージとしては物理的に負の感情を切り離してみるのです。苦しみや妬みから目を背けず、向き合い、寄り添ってあげると同時に、俯瞰することができます。それだけでも気持ちがやわらぐことが実感できます」
そして吉川さんは、悩み多き週女世代の女性たちにこそ「書く瞑想」を取り入れてほしいと語る。
「50代にやってくる更年期は心身共にゆらぎやすく、自分を取り巻く環境も変化しやすい人生のターニングポイント。今まで親のため、子どものために自分をないがしろにして頑張ってきた人こそ、本当の自分に出会い直し、本心に気づいてほしですね」
また、「世間の常識と自分の本心とのズレも大きくなってくる」と、吉川さん。
「例えば、わが子に『いい大学に入っていい会社に就職してほしい』という願いを抱いているとします。それは自分も子どもも本当に望んでいる人生の歩み方なのか。それとも、世間が『良し』としている生き方をなぞりたいだけなのか。“自分が本当に子どもに望んでいること”と問い直すと、ほとんどの人が“ただ幸せになってほしい”という本心が見えてくる」
本心に気づくこと、それが自分の内側に変化をもたらす。
書く瞑想のルールと書き方の例
「このメソッドは答えを提示するものではなく、“こうあらねばならない”という思考をほどき、“自分の本当の思い”や“違う考え方もある”と気づいてもらうためのアクション。固定観念を解き放ち、視野を広げるきっかけになればと思います」
自分と向き合いたいと感じたときが、書く瞑想を始めるタイミング。ペンを持って、疲れた心をゆっくり解きほぐそう。
書くルール
ド素直、ドストレート、ド直球に書く
怒りを感じたら、そのムカつきをそのまま書き出したり、とにかく嫌だったなら「嫌だった!」と何度も書いたり、など叫びたい気持ちをさらけ出すつもりで書く。あふれた思いは、文章でもイラストでも例どんな形で表現してもOK。誰に見せることもなく、心の内を書き出して。
気が済むまで書く
繰り返し湧き出てくる感情は、何十回、何百回でも、その都度書き出す。何度も湧き出てくる状態を可視化して認知すると、自己の理解につながる。
何も出てこなくても書く
“問い”に対して、書くことが何も浮かばなくても「どうして何も出てこないんだろう。でも、心の中はそわそわする……」と、内面をリポートしてみよう。手を動かすと、心の奥底にしまっていた思考や感情が出やすくなる。
書く瞑想~自分を知る問いかけ~
実際のメソッドではさまざまな角度の問いかけにより悩みの根本にアプローチ。その“問い”の一例をご紹介。
チャレンジ1「正直であること」
Question(1)
あなたが日常の中で、自分らしい言動ができたり、素の自分でいられたりするのは、どんなとき?「場所」「環境」「人(相手)」について具体的に書き出してみよう。
(例:お風呂タイム/ひとりカラオケ など)
Question(2)
(1)とは反対に、自分らしくいられない「場所」「環境」「人(相手)」を書き出してみよう。その場面であなたが使うようになったごまかしや忖度、義理などは? 素直に発言や行動ができないときのことを思い出して、書いてみよう。
(例:義父母の前では静かな嫁を演じてしまう/夫や子どもに嫌われたくなくて気を使う など)
チャレンジ2「自尊心を取り戻す」
Question(1)
親や祖父母など幼少期に育ててくれた人から受けた言動や態度によって、あなたの中にできた価値観はなに?
(例:テストで良い点をとるように頑張りなさい→良い点をとらないと認めてもらえないという価値観 など)
Question(2)
学校や社会から、あなたの存在価値についてどんなことを教わった?
(例:裕福であることや業績など、数値化できることに価値がある/女子は愛想がよく明るい子が好まれる など)
取材・文/大貫未来(清談社)
教えてくれた人
吉川めいさん
日本で生まれ育ち、幼少期から英語圏の文化に親しむ。15歳からジャーナリングを実践し、21歳でヨガを始め、13年間インドに通いながら伝統的なヨガや瞑想を学ぶ。母の看取りや夫との死別、2人の息子の育児など波瀾万丈な人生を送る。日本人女性初のアシュタンガヨガ正式指導資格を持ち、2021年よりオリジナルメソッド「書く瞑想 MAE Y method」を提供。
