赤色LEDの目が特徴的な「モンスターウルフ」(太田精器株式会社)

 全国各地でクマの出没が相次ぐなか“見た目が怖すぎる”とSNSでも話題の獣害対策装置「モンスターウルフ」。

 開発したのは北海道の太田精器株式会社。LEDを使った精密機械のメーカーで当初は鹿対策として「モンスターウルフ」を売り出したところ、「クマよけ」として活用したいと、大きな反響があったという。

クマ対策に“オオカミ”

 同社の太田裕治社長は、

「モンスターウルフを開発して8年になりますが、今年ほど注目を浴びた年は初めてです。問い合わせは昨年比で約3倍。自治体も住民の方々も、これまでにない危機感を持っていると感じます」

 と語る。外観はリアルなオオカミ型で革製。赤色LEDの目が光り、音と動きで害獣を威嚇する仕組み。設置前後を比較すると「出没が明らかに減少した」「被害が大幅に抑えられた」といった声が全国から届き、現在は約330台が稼働しているという。

当初は鹿対策として売り出した「モンスターウルフ」(太田精器株式会社)

 しかし、ここに至るまでの道のりは決して平坦ではなかった。

「開発当初は“子どもだまし”“奇抜なだけ”“すぐ慣れる”など否定的な意見が多く、専門家からも懐疑的な声が寄せられました。それでも大学研究者と連携し、地域を回って地道に実証を続けた結果、効果が数字として表れ始めたのです」

 従来は冷やかし半分で取り上げられることもあった見た目が、いまや「他に替えのない独自性」として評価されている。

「ユニークな発想を前向きに受け入れてくれる若い世代からの支持は強い印象。また、長年獣害に悩んできた自治体から“住民に見える対策を示したい”という理由での導入も増えています」

 と手ごたえを感じている。問い合わせが増える一方で、すぐに購入するより「まず効果を確かめたい」という声が増え、レンタル利用は前年比約2倍に。新規レンタル件数も約30件増え、耕作地や自治体のみならず、ゴルフ場、山岳地の工事現場、林業企業など新たな利用シーンが広がっている。

子どもたちへ安心を届けたい

 初めてモンスターウルフを見た人は、そのインパクトに驚くことも少なくない。

「“本当に効くの?”と半信半疑の方も多いですが、長期検証の結果、“まったく効果がなかった”という声はほとんどありません。クマが苦手だとするLEDの赤いライトが効いているのか、特にクマに対して高い忌避効果が確認されています」

 さらに太田社長が重視するのが、“見守る存在”としての情緒的価値だ。

“地域の守り神”として愛着を抱かれることもあるという(太田精器株式会社)

「無機質な柵や電気線とは違い地域を見守る守り手の象徴にもなる。子どもたちも親しみを持ちやすく、“地域の守り神”のように愛着を抱いてくれるケースもあります」

 購入を検討する人へ太田社長はこう語る。

「獣害対策は長期戦。少し“面白くなければ”続かないという考えを大切にしています。まずは一度、実際に設置していただき、効果を体感してほしいと思います」

 現在は携帯型モンスターウルフや自動走行タイプなどの新たな開発も進行中だという。

“奇抜な発明”と揶揄されたウルフは、いまや深刻化する獣害問題の最前線で、その存在感を静かに強めている。