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株主優待に力を入れようという企業が増加しており、やめていたのに再開した企業も多くあります」 

 こう語るのは、経済アナリストの田嶋智太郎さん。株主優待とは、企業が自社の株主に対して行う利益還元の方法の一つ。例えば、食品メーカーや外食産業ならば、自社製品の提供や飲食時の割引など、株を持っているともらえる“企業からのお土産”だ。なぜ株主優待を実施する企業が増えたのか。

株主優待導入企業が増加し過去最多

企業同士の“持ち合い株”が減少しており、大株主に代わる安定株主をどう確保するかが課題。そこで個人投資家に支えてもらいたいという意図があります」(田嶋さん、以下同)

 持ち合い株とは、取引先やグループ会社同士で持ち合っていた株式。昨今では新NISAで個人投資家が増えていることもあり、魅力ある株主優待で個人投資家に目を向けてもらおうとしているのだ。

「優待はすべての企業が実施しているわけではありません。ですが、2025年3月末時点で上場企業のうち過去最多の1580社もがこの制度を導入しています。優待は自社商品を“お試し”してもらう狙いもある。

 消費者に気に入ってもらえれば売り上げが上がりますし、売り上げが上がれば株価も上昇、そして株主に還元することができます。個人と企業のどちらにとってもwin-winの関係が築けます」

 最近ではスポーツ用品メーカー、アシックスの株主優待で、「オニツカタイガー最大4割引き」という優待が耳目を集めた。

オニツカタイガーは基本的にセールをしないことで知られており、割り引きで買えるのは株主優待以外にはありません。本年12月31日から実施される株主優待では、これまで直営店舗での購入のみ割引対象だったのがECサイトも対象となります

 ECも使えるということは“海外在住の人でも使える”ということ。

「外国人も含めた個人に安定株主になってほしいという狙いです。こうした優待は、グローバル企業をはじめとして、今後もどんどん増えていくと思います」

お米や配信料割引…うれしい優待特典

 自社商品を提供できない建設会社や製造業といった企業も株主優待の実施も増えている。

「そうした会社はクオカードなどを提供することが多いですが、最近ではお米などが人気です。例えばイオンファンタジーでは100株を持っているだけで、魚沼産のコシヒカリ3キロがもらえます。実は先日私も受け取りました」

 映画やドラマ、漫画が好きな人であればU-NEXTの株主優待もおすすめ。

「100株以上保有で同社の視聴が90日間無料。さらには利用料の支払いや映画チケットの交換に使える1000円分のポイントが付与されます。1000株以上保有だと、1年間無料+毎月1800ポイント。ちなみに同社の利用料は月額2189円ですから、よく利用する人にはお得でしょう」

建設業や製造業などでもお米やおこめ券を優待特典として実施している企業も増えた ※写真はイメージです

 このほか、株主優待でしか手に入らないミニカーの「オリジナルトミカ」や「リカちゃん人形」を提供してくれるタカラトミー、建設機械などミニチュアを提供してくれるコマツなど変わり種の優待商品も。それ欲しさや、プレミア化を期待して長く株主となる人も少なくないようだ。

 そして、「次も欲しい」「シリーズをそろえたい」というコレクター心理が働き、結果的に長期保有につながっている。

株主優待は保有期間が長ければ長いほど優待内容がグレードアップされていきます。例えばクオカードの場合でも、1年保有なら3000円分。それが3年保有ならば、5000円になることもあります

 さまざまな特典のある株主優待だが、受けるには条件が。

「『権利確定日』に、希望する企業の必要株数を保有していることが条件です。そして権利付最終日までに株を買うこと。株主名簿に載るのは“株を買った日から受け渡しが完了した後”。

 最終売買日は企業によってバラバラですが、日本株は2営業日後がルールなので、3月末がそれならば、2営業日前の27日まで(2026年は28、29日が土日)に株式を購入しなければ株主名簿に登録、優待が受け取れません」

優待ポイントで選べる幅が広がる

 昨今、株式会社ウィルズが行う「プレミアム優待倶楽部」が注目されている。これは株主優待をポイント化して、好きな商品と交換できるサービス。

株主優待を保有株数や年数に応じてポイントに換算。『WILLsCoin』という共通ポイントにまとめて、専用サイト『プレミアム優待倶楽部PORTAL』で一括管理できます。6000以上の優待商品と交換することができるのです。

 旅行、体験、食品、電化製品など幅広いジャンルの中から、自分の好みに合わせて優待を受けられます

 1つの銘柄の株主優待では、いつも同じ商品で飽きてしまうことも。その点、「プレミアム優待倶楽部」は利便性がいい。

「ただし、プレミアム優待倶楽部を導入する銘柄の株価や、株主優待の権利獲得に必要な株数は異なります。必要コストやお得度は銘柄ごとに違うことを理解して選ぶ必要があるでしょう」

割引券をもらっても、有効期限までに使いきれず損してしまうこともあるので注意 ※写真はイメージです

優待狙いでも企業の業績は確認

 うれしい特典がいっぱいの株主優待だが、損してしまう場合もある。

外食チェーンでは食事優待券がもらえることも多いですが、自宅などの近くに店舗があるかを必ずチェックしましょう。吉野家とかCoCo壱番屋、サイゼリヤなど全国展開している企業は使い勝手がいいですが、自分の生活圏にないのであれば、使いきれず損してしまうこともあります

 本当に必要か見極めを。そして、株主優待が魅力的でも、投資である以上、銘柄の選択には注意。

「例えば、優待目当てで株を購入して5000円の優待はもらえたものの、思わぬ業績悪化で株価が下落。数万円の含み損が出たといった例は珍しくありません。

 優待だけで選ぶのではなく、しっかりと業績を見ることは必要。そうした企業の中から自分に合った、魅力ある優待品を提供している企業を選びましょう」

※優待内容や条件は変更されることがあります。記載情報は取材時点のものであり、最新の開示情報を必ずご確認ください。

田嶋智太郎さん●経済アナリスト、『日経CNBC』コメンテーター。慶應義塾大学を卒業後、国際証券(現・三菱UFJモルガン・スタンレー証券)勤務を経て独立・転身。さまざまな講演活動のほか、NHK『くらしの経済』、フジテレビ系『ほんまでっか!?ニュース』、テレビ朝日系『やじうまプラス』などにも出演。

教えてくれたのは……田嶋智太郎さん●経済アナリスト、『日経CNBC』コメンテーター。慶應義塾大学を卒業後、国際証券(現・三菱UFJモルガン・スタンレー証券)勤務を経て独立・転身。さまざまな講演活動のほか、NHK『くらしの経済』、フジテレビ系『ほんまでっか!?ニュース』、テレビ朝日系『やじうまプラス』などにも出演。


取材・文/千羽ひとみ