「学生時代、歌が大の苦手だったという人でも大丈夫。ボイストレーニング(以下、ボイトレ)をすれば、必ず上手になります」と、ボイストレーナーとして活躍するたけば校長は太鼓判を押す。
歌がうまい、うまくないの違いとは?
「オンチかどうかは『空間認識』があるかどうかの違いです。例えば、ボールを1メートル先と3メートル先に投げるのでは、当然力の入れ具合が違ってきますよね。物の位置を正確に把握して、身体に込める力加減を変える必要があります。
これは歌も同じ。発したい音の高低より、声を出す力加減が強すぎたり弱すぎたりしているから、音程が狂ってしまうのです」(たけば校長、以下同)
では、どうすれば音の空間認識が身につくのか。
「音楽の基本である“ドレミファソラシド”の反復練習をするのが一番近道。この8音程がすべての歌の音程を作っているので、この音に自分の声の高低をきちんと合わせられるようになると、どんな歌でも上手に歌えるようになります。
生まれつきオンチな人はいません。これを繰り返せば、どんな人でも歌はうまくなるのです」
そうは言っても、自宅に楽器がないという人も多いだろう。そんな人はYouTubeやスマホアプリに、ドレミの音階が出るものがあるので、利用してほしいとのこと。
最近のカラオケでは、歌の高低を音程バーで表すものもあるので、それに合わせて歌う方法もあるようだ。
年齢とともに筋肉が衰え、声帯も老化する
若いころに比べると高い声が出なくなった、という人も多いかもしれない。声帯は筋肉で構成されているので、筋肉が衰えれば当然、声の質も変わってくる。
「声帯が老化すると声が低くなります。プロの歌手は年をとっても高い音が出るように鍛練しているのです。
鍛練といっても、喉に力を入れて鍛えたら、喉を痛めてしまいます。リラックスした状態で、徐々に声を高くしていく。そうすると喉に負担はかかりません」
たけば校長は地声のトーンが高いのだが、「これはボイトレのおかげ」と説明する。
何もしなければ年相応に声が低くなるが、いつも高い声で話していると地声も高くなり、キーの高い曲でも自然と歌えるようになるという。
「喉の筋肉は声を出すときだけでなく、食べ物を飲み込むときにも使います。これを嚥下(えんげ)機能といいますが、高齢になると筋肉が衰えて誤嚥(ごえん)しやすくなる。食べ物が食道ではなく気管に入って、窒息したり、ウイルスが肺に入って肺炎を起こしたりします。
でも、歌で喉の筋肉を鍛えていると誤嚥しなくなる。楽しく歌って誤嚥予防にもなるなんて一石二鳥ですよね」
喉の筋肉は使わなくなると劣化する。一人暮らしなどで人と話す機会が減ると、嚥下機能が低下するといわれる。
「友人や家族とカラオケに行って歌えば、脳が活性化して認知症予防にもなる。エネルギーを使うので、やせる人もいます。歌うことは健康維持にもつながって、いいことずくめです」
歌がうまくなると自己肯定感が高まる
歌うメリットは、健康維持だけではない。精神面でも大きな変化がある。
「ボイトレをすることで、自己肯定感が高まります。以前の私は自分の声が嫌いでしたが、歌うようになって変わりました。
練習すれば歌は必ずうまくなるのですから、自分に自信が持てるようになる。それが自己肯定につながります。今は自分の声が好きだし、人生が楽しくてしかたがありません」
ボイトレをして声が高くなると、思わぬ“いいこと”もあるという。
「気づいたら、自分の声が信じられないくらい、よく通るようになっていたのです。
ガヤガヤしているレストランで店員さんを呼ぶとき、低めの声だとまわりの雑音に紛れて声が届きません。でも私が呼ぶと、店員さんがすぐに来てくれるんです(笑)」
歌がうまくなり、好きな歌を上手に歌えるようになると単純に気持ちいい。それは、日々を豊かに楽しくしてくれるものであると、たけば校長は言う。
「年を重ねても無理なく発声できて、嚥下機能などの健康を保ちながら一生歌い続けたいと思っています。歌が生きる力になると信じています!」
誰でも上手に歌える!?歌いやすい曲
たけば校長のおすすめ
「やさしいキスをして」(DREAMS COME TRUE/ドリカム)
「駅」(竹内まりや)
「糸」(中島みゆき)
40代はドリカム後期の歌、50代は竹内まりや、60代は中島みゆきの歌がキーの高低さが狭く歌いやすくおすすめ。そのなかでも、誰もが知っていて、その年代の人にウケのいい曲をセレクト。チャレンジしてみて!
選曲のポイント
男女の声のトーンは違うので、男性は男性の歌、女性は女性の歌を歌うのがベスト。男性だとEXILEやコブクロの歌が歌いやすい。
「カラオケプロ」への道 大きな間違い
1.生まれつきオンチだから歌えない
2.喉に力を入れて(開いて)歌う
3.腹式呼吸で歌う
練習しても歌は上手にならないと、最初からあきらめてはダメ。ただし、喉に力を入れて無理な歌い方をすると声帯に負担がかかり、痛めてしまう。
また学校などで、腹式呼吸で歌うように習ったりするが、それと歌の上手下手は関係なし。自然な呼吸でリラックスして歌うのが○。
正しい歌唱の4つのポイント
(1)「ドレミファソラシド」で音程をチェック
「ドレミファソラシド」を繰り返して歌うことで、正しい音程が身につく。今はパソコンやアプリの楽器があるので、それに合わせて発声練習をするとよい。音程が合っているかどうかわからないときは、友人に聴いてもらったり、一人カラオケで確認。
(2)手拍子でリズム感をアップ
歌いやすい曲でいいので、「一、二、一、二……」と手拍子を取りながら歌う。最初は手拍子が曲とずれていても、何度か歌っているうちにリズムが合ってくるはず。歌に合わせて手拍子が自然にできるようになると、リズム感がよくなってきた証拠。
(3)「ら・り・る・れ・ろ」で滑舌をよく
滑舌というと口を大きく開けて話すように思いがちだか、読んで字のごとくポイントは「舌」。舌を滑らかに動かすことが滑舌のよさにつながる。高めの声で「ら・り・る・れ・ろ」を繰り返すとよい。舌や唇に力を入れないように注意。力を抜いて、リラックスが肝心。
(4)表情豊かに歌う
表情が硬いまま「おはよう」と言うのと、口元を緩めて「おはよう」と言うのでは、声のトーンがまったく違ってくる。目・口・ほお、顔全体で表情豊かに歌うと声もよく出るし、歌にも感情がこもってくる。鏡の前で大きな口を開けたり、左右に広げたりして表情筋を鍛えよう。
教えてくれたのは……たけば校長(竹葉美保子)●名古屋ボーカルスクール校長。プロシンガー、ボイストレーナーとしての活動のほか、CMソングやテーマソングも制作。YouTubeやTikTokなどSNSでも活躍。オンラインでボイトレを行うなど、全国の老若男女をカラオケのプロに育てている。
取材・文/佐久間真弓
