原千晶さん

 20歳のときにクラリオンガールのグランプリをきっかけに芸能界デビュー。はじけるような元気さで人気の存在だった原千晶さん。30歳を越えて2度のがんが発覚。患者会や講演などでその経験を発信し続ける彼女が、がん患者の後遺症として知られるリンパ浮腫を発症。現在の心境と、今後についてを伺いました。

後遺症については二の次にされがち

 30歳のときに子宮頸がんを発症するも、ステージ1だったため子宮を温存する選択をしたタレントの原千晶さん。次第に定期検診に通わなくなったが、異変を感じた35歳のときに子宮体がんが見つかった。

 病理検査の結果は「ステージ3C」で、広汎子宮全摘出術と抗がん剤治療を実施。その後、原さんは婦人科系がんの患者会「よつばの会」を発足し、講演で早期発見・治療の大切さを伝えるなど啓発活動を行っている。

 現在は寛解し、元気に過ごしている原さんだが、治療から13年がたった2年前、49歳のときに後遺症であるリンパ浮腫を発症した。リンパ浮腫とは、がん治療でリンパ節を切除したり、放射線治療を受けたりした後に、リンパ液の流れが滞って起こるむくみのことだ。

手術後、医師からリンパ浮腫の説明を受けて、一定期間、医療用弾性ストッキングを着用するように言われました。体調がよくなり、むくみも気にならなかったので、その後は特に何もケアしなくなったんです。でも2年前に『あれ?』という違和感が続いて……」と原さんは話す。

 健康な人でも夕方になると足がむくむという人は多い。一般的なむくみとリンパ浮腫の違いは何なのだろうか。

私も若いころからむくむことはあったんですが、一晩寝て起きたらスッキリしていたんです。でも、休息をとっても、足の膨れやだるさが改善せず、左右で太さが明らかに違っていて、これはおかしいと思いました。むくんでいる場所を指で押すと、粘土やウレタンに指を突っ込んだような感じで、痕がくっきり残りました」(原さん、以下同)

 リンパ浮腫は、がんの治療直後に発症する人もいれば、原さんのように10年以上たってから発症する人もいる。

『よつばの会』などで患者さんの話を聞く機会が多かったので、ある程度の知識はありました。特に子宮がんや卵巣がんなど、お腹の手術をした人は、腕よりも足のリンパ浮腫に悩む率がとても高いんです。乳がんの治療をした人は腕にリンパ浮腫が出やすくなります

 患者会で得た知識があったおかげで、原さんはすぐにリンパ浮腫の専門医を受診した。しかしリンパ浮腫の専門外来を設けている病院はまだ少ないという。

がんの治療が最優先され、後遺症については二の次にされがちです。命に関わるものではないという認識もあって、患者側も我慢したり、ストッキングだけはいておこうという感じで、治療が遅れてしまう人もいます。

 本当はがんを治療してもらった医師からの指導があると心強いのですが、私のように時間がたってからの発症になると、連携も難しくなります

 原さんは今年「リンパ管静脈吻合術」という手術を受けた。毛細血管とリンパ管をつなぎ合わせ、滞っているリンパ液を血液の流れに乗せる治療だ。

気温や湿度が上がると代謝が上がり、血液の流れが速くなります。でもリンパ管の流れがついていけなくて、むくみやすくなるんです。今年の夏は特にむくみがひどくて、それで手術を受けることにしました

休息がいちばんの薬

 ただ、この手術で100パーセント治るわけではなく、あくまでも補助的な治療だという。

最初は『治療すれば治るのでは』と期待していました。でも発症して2年たって、ようやく完治はしないんだと理解できました。年齢とともに血液やリンパの流れは悪くなります。今はいかにこれ以上悪化させずに維持していくかを目指しています

リンパ浮腫専用シューズ「シンデレラスリム」を履いて歩く。「足がむくんでいるため履ける靴がないと悩んでいる患者さんも多いもの。これはスッと履くことができ、かつ軽くて歩きやすいですね」(原千晶さん)

 人によっては、リンパ液が漏れて皮膚付近にたまった脂肪を取り除く脂肪吸引を受けるケースもある。放置すると「象皮症」という皮膚が硬く厚くなる状態になってしまうことも。がんの治療後、むくみの症状があれば、早期に専門医に診てもらうことが重要だ。

 また、日常生活では医療用弾性ストッキングを着用することが必須となる。医療用弾性ストッキングは厚生労働省の定める保険適用で、決められた本数を3割負担で購入できる。

朝起きたらストッキングをはいて圧を均一にかけて、むくみが1か所に集中しないように分散させます。もうブラジャーみたいなもので、これがないと出かけられません。リンパ浮腫の人を対象にした体操もあるそうで、今度教えてもらう予定です

 原さんはリンパ浮腫がセルフケアでラクになることも実感している。

やっぱり休息がいちばんの薬です。しっかり寝ると、朝はむくみがマシになっています。お風呂で石けんをつけて、リンパを流すように軽くなでるとむくみ軽減につながります。リンパ浮腫があると皮膚は傷つきやすくなります。

 傷から菌が入ると、蜂窩織炎という感染症を起こして高熱が出たり、入院が必要になるため、乾燥する季節は特に保湿を心がけています

 そして同じ病気の人が共感し合える場所があることで、心が軽くなることを原さんは経験してきた。

『よつばの会』を15年間主宰してきましたが、同じ病気を経験した者同士だからこそ『ここが痛かったよね』『これがつらかったね』と語り合える話があります。悩みを打ち明けたり、近況報告し合うだけで、気持ちがふわっと晴れるんです。会に参加した人同士がお友達になって、その後も仲良くされているのを見るとうれしいですね

 原さん自身、リンパ浮腫になったことを悲観的に思っているわけではない。

がん治療によって命も救っていただきましたが、どうしても痛めつけている部分があるのは否めないので、うまく付き合っていくしかありません。ほかの患者さんもそれぞれに工夫して向き合って受け入れているのが励みになっていて、今はあまり気にしていないというのが本音です

 現在は千葉にも家を借りて、東京と2拠点生活を行っている。

少し息抜きをするだけでも違う

コロナ禍を機に事務所を辞めて、のんびりできる千葉での生活を本格的にスタートさせました。今は釣りにハマっていて、新鮮な魚を釣って食べることが最高のリフレッシュになっています

患者会「よつばの会」を立ち上げて、もう15年になる 写真提供/原千晶

 ストレスをためないことは健康の基本だ。

癌という漢字は病垂れに口が3つに山と書きます。食べすぎたり、飲みすぎたり、悩みすぎたり、何かが『すぎる』ことは良くないよねと患者同士でも話すんです。

 ストレスをなくすことは簡単ではありませんが、少し息抜きをするだけでも違うと年を重ねれば重ねるほど実感します。若いころのように頑張り続けることができないからこそ、のんびりすることを意識しています

 最後に来年の抱負を語ってもらった。

30代で病気になって、人生が大きく変わりました。仕事に追われるモードはもう想像がつきません。私は住むところもコロコロ変えるし、興味があることも変わるタイプ。変わっていくことで、また次の面白いことに出合えます。

 自分がこの先どれだけ生きられるかわからないからこそ、やりたいと思うことが少しでも叶う1年になるといいですね

はら・ちあき 1974年、北海道帯広市生まれ。20歳のときにクラリオンガールのグランプリとなり芸能界デビュー。以降、テレビや雑誌などを中心にタレント・女優として活動。30歳のときに子宮頸がんと診断を受ける。35歳のときに子宮体がんが見つかり手術、抗がん剤治療を行う。2011年に自身のがんの経験をもとに婦人科がん患者会「よつばの会」設立。現在は各地でがん啓発の講演会などを積極的に行っている。


取材・文/紀和 静