「子育てしながら仕事をするだけでも大変なのに、そこに親の介護が加わったら、介護者の生活はほぼ、子どもと親のために埋め尽くされます。毎日平穏ならまだしも、子どもが幼いうちは急に熱を出したりケガをしたりしますし、突然親が倒れ、身体介護が必要になれば、まさに“詰んだ”状態に陥ります」
こう話すのは、自身もダブルケアの経験者である旦木瑞穂さん。なぜ今、ビジネス・ダブルケアラーが増えているのか。
必要なのは「社会の意識を変えていくこと」
「1947年から'49年の第一次ベビーブームに生まれた団塊の世代の人口が多いことと、長寿化。そしてその子どもたちである団塊ジュニア世代は晩婚・晩産化し、共働きも増えたため、仕事をしながら子育てだけでなく介護までしなくてはならない人が増えているということが考えられます」(旦木さん、以下同)
仕事はなかなか休めず、自分の時間がまったくない。近年、育児休業の取得率は男女ともに高まっているが、介護休業の利用者の割合は、たった0・1%だ(令和6年度雇用均等基本調査)。
2025年4月より育児・介護休業法改正が段階的に施行されて、育児や介護をしながら働きやすい環境は整いつつあるが、だからといってすぐに問題が解決するわけではない。「必要なのは、社会の意識を変えていくことではないか」と、旦木さんは指摘する。
「子どもが親の介護をして当たり前という考え方は、もう難しいと感じています。親であっても、子どもの人生を奪うことは許されず、自分の人生は自分を優先してもいい。その中で、優先順位を決めていく。
子育ては、子どもが成人するまで親が責任を持って行うべきだと思います。しかし、育ててもらった恩があるからといって、親の介護まで子どもが一人で背負い込むのは無理ですし、違うように感じます。そこは線引きして、割り切って考えないと共倒れしてしまいます」
いくら納得していても後悔は残るもの
「介護は先手必勝。ざっくりとした知識で構わないので身につけ、選択肢を増やしておき、それを納得した上で選択することが重要」
と旦木さんは話す。
「『親のため』『子どものため』と思って動くと、思ったとおりの効果が得られなかったときに腹が立つが、『自分のため』と納得した上で動いていれば腹が立つことも少ないはず。この“納得のプロセス”は、介護や子育てだけではなく、あらゆる場面で重要な考え方だと思います」
ただし、十分に選択肢を考慮し、納得して進めたとしても、「後悔することを防ぐことはできない」と旦木さん。
「例えば、親の認知症が進み、一人暮らしができなくなったため、親を施設に入れたが、親を亡くしたあとも『自分の選択は正しかったのか』と悔やみ続けている人もいる」という。
ダブルケアをうまく乗り越えた人たちには、次の共通点があるという。
・プロの手を借りている
・家族で協力し合えている
・子どもを優先する
・完璧を目指さない
・自分の時間を大切にする
「介護と仕事に追われて、子どもと向き合う時間を軽視してしまったために、不登校になってしまったケースもあります」
可能なら、会社にかけ合って時短やパート勤務にしてもらうというのも一つの手だ。
「介護は終わりが見えず、特に始まったばかりのころは、半ばパニック状態になって仕事を辞めてしまう人が少なくありません。でも、仕事は辞めないで、続ける方法を考えてほしいと思います。
介護休業を取る人はまだまだ少ないですが、声を上げなければ誰も気づいてくれません。特に介護は、特別な人だけに起こることではありません。“お互いさま”の気持ちで支え合おうとしなければ、会社や社会を変えることはできないと思います」
事前に情報収集を
いざダブルケアとなったときに慌てないためには、とにかく事前に備えておくことが大事。
「私の著書『しなくていい介護「引き算」と「手抜き」で乗り切る』にも書きましたが、介護は突然始まり、否応なく家族全員を巻き込んでいきます。
だから親がまだ元気なうちに、浅くてもいいので、介護の知識を身につけておくだけでも随分違います。予め選択肢が見えているのと見えていないのとでは、実際に対峙したときの精神状態が大きく違うと思います」
ダブルケアの情報は、自治体や役所、地域包括支援センターだけでなく、NPO団体などからも得ることができる。
「例えば、岐阜県ではダブルケアのハンドブックを作成し、相談窓口や支援制度、体験談などを紹介しています。また神戸市では、相談窓口から関係機関につなげる取り組みを行っています。
さらに一般社団法人ダブルケアサポートでは、ダブルケアに関する情報の普及や調査・研究、ダブルケアラーの支援や『ダブルケアカフェ』を全国に広める活動などを行っています」
子どもがいない人であっても、親は必ずいるはずだ。子どもがいてもいなくても、介護に備えておくことは、自分の人生や自分を守る上で必ず有益となる。備えあれば憂いなしだ。
