北海道日本ハムファイターズからFA権(フリーエージェント)を行使して、読売ジャイアンツに移籍した松本剛選手(31)。移籍に伴う「人的補償」の行方を固唾を飲んで見守った巨人ファン、そして選手だったが、日ハムの決断はやはりーー。
ピークを過ぎた生え抜きのベテランか、それとも将来有望な若手か、松本のFA移籍と引き換えに発生する人的補償をめぐって、野球評論家やファンは“身代わり”となる選手を予想しあったが、結果的にいずれも外れとなりそうだ。
12月9日配信の『日刊スポーツ』Web版によると、日ハムは巨人が提出した「プロテクト名簿」を受け取るも人的補償を選択せず、松本の今季年俸1億1000万円の60%にあたる金額を「金銭補償」として求めるとのこと。
FA権行使に伴う人的補償は、時に大物選手もプロテクトリストから漏れて他球団に移籍するなど、以前より球界内外でルールをめぐって物議を醸している。しかし主力選手を失うことによる戦力の偏りを埋めるために設けられたルールでもあり、特に自軍選手が他チームに移籍することも多い日ハムだけに、活用すべきルールでもある。
主力選手3人がチームを離れたばかり
今オフも松本のほか、伏見寅威捕手(35)がトレードで阪神タイガースに、FA権を行使した石井一成選手(31)が埼玉西武ライオンズに移籍と、主力級選手3人を失ったばかり。それだけに巨人から有望選手を獲得するものと思われたが……、
「それでも人的補償を選択しなかったのはファイターズ球団の編成・経営方針とも言いますか、特に巨人とは“持ちつ持たれつ”の関係を築いているだけに、ファンの心情も考慮した上で見送ったのが実情だと思いますね」
とはパ・リーグを中心に取材を重ねるスポーツライターの見解。何でも巨人と日ハムは「持ちつ持たれつ」の不思議な縁があるようだ。
これまで日ハムが人的補償で獲得した選手は、2023年1月に近藤健介選手(32、福岡ソフトバンクホークスに移籍)の補償で獲得した田中正義投手(31)。遡って2013年、同じくホークス入りした捕手・鶴岡慎也氏(44)の補償で獲得した投手・藤岡好明氏(40)。
さらに遡って1995年、巨人に移籍した河野博文氏(63、投手)の補償で獲得した投手・川邉忠義氏(57)の3人。なお川邉氏は、NPBにおける初の人的補償による移籍選手であり、松本選手を含めて計5人がFA移籍で巨人入りしたが、日ハムが見返りとして獲得した最初で最後の選手でもあった。
「FA移籍以外にも、2000年代に入ってファイターズと巨人間で成立したトレードは十数回。中には、かつて巨人の看板選手だった二岡智宏(49)や、ドラフト1位だった大田泰示(35)。逆に日ハムからもエース左腕の吉川光夫(37、現・栃木ゴールデンブレーブス)、4番打者の中田翔(36)ら大物の移籍もありました。
中には、やむなく放出に踏み切った“ワケアリ”選手もいますが(苦笑)、互いの選手の受け皿になるような“持ちつ持たれつ”の関係にあるのは間違いないところ。これも、かつて本拠地を分け合った縁ともいうべきか」(前出・スポーツライター、以下同)
16シーズンにわたって巨人と“同居”
オールドファンにとって承知の事実だろうが、2023年から北海道・北広島市のエスコンフィールドHOKKAIDOを本拠地とする日ハムが、2004年に札幌ドームを拠点とするまで、1988年から2003年の16シーズンにわたって使用したのが東京ドームだ。
「今でこそ、巨人が唯一のフランチャイズとする東京ドームですが、当時はファイターズとの共同使用で、時に試合の開催スケジュールをめぐって衝突もあったとも聞きます。そんな同じグラウンドを共にしたチーム同士だけに、当時の球団幹部から受け継がれた“戦友”意識も働いているのでしょう。
それに2011年、巨人入りを希望していた菅野智之(36、ボルチモア・オリオールズからFA)をドラフトで“強行”指名した経緯もあります。もちろんルール上、ファイターズに何ら落ち度はないのですが、そんな“引け目”も両球団の間にはあるのかなと」
同じ釜の飯を食った仲、というわけだ。
