櫻井夏子先生

 閉経後、「痛い」「乾く」「恥ずかしい」を理由に、性を遠ざけてしまう女性は少なくない。しかし専門医は、年齢とともに変わる身体を正しく知れば、快適さも快感も取り戻せると語る。乾燥・尿漏れ・性交痛……悩みを抱える50代以降の女性が、もう一度“自分らしさ”を取り戻せるヒント、参考に。

身体のせいであり“気持ちの問題”ではない

更年期あたりから、以前のようにセックスを楽しめなくなっている方が多いようです。性交痛、尿漏れ、乾きやすさなど誰にも打ち明けられない悩みが積み重なり、このままでいいのかなと落ち込む女性は少なくありません

 そう話すのは女性器のケアに詳しい櫻井夏子医師

「パートナーに合わせたいのに痛くてつらい」「触れ合いたい気持ちはあるのに身体がついてこない」といった悩みの背景には“更年期の身体で起きている変化を知らないまま我慢してしまう”状況があるという。

 更年期に入ると、ホルモンバランスが崩れ、乳がんのリスクや自律神経の乱れ、骨密度低下などが起きる。全身の不調が出やすくなるのと同時に、もっとも早く影響を受けるのがデリケートゾーン。

 膣はしぼんで粘膜は薄くなり、大陰唇のボリュームが落ちる。豊かだった膣のヒダはつるんと平らになり、乾燥しやすい。下着がこすれるだけで不快感が走り、タイツが「痛い」と感じる人もいる。

こうした変化は、セックスの場面で大きく影響します。少し触れられただけでヒリッと痛み、挿入時には裂けるような感覚が走ることも。こんなはずじゃない、年だから仕方ないなどと自分を責めてしまう方がいますが、それは身体のせいであり、決して“気持ちの問題”ではありません」(櫻井医師、以下同)

 一方、長年セックスから遠ざかっている場合、悩みはさらに気づきにくくなる。膣や骨盤底筋を動かす機会がなくなれば血流が落ち、萎縮が進む。運動習慣のない人や出産経験が複数ある人は骨盤底筋が弱りやすく、放置すれば子宮脱にまで至るケースもあるとか。

セックスの有無にかかわらず、スキンシップによって分泌されるホルモンの“オキシトシン”は心身を整える力を持つため、触れ合いを諦めることは生活の質そのものを下げてしまうとされています

 では、再び自分らしさや、快感を取り戻すにはどうすればいいのか。櫻井医師が最初のステップとして挙げるのは“視る”こと、つまり自分の状態を知ることだ。

ゲーム感覚で膣圧を上げていくのもおすすめ

 鏡で性器を観察し、乾燥やひび割れ、ボリュームの変化に気づく。それだけで「痛みの理由がわかった」と安心する人も多いという。

骨盤底筋は、骨盤の底でハンモックのように内臓(膀胱・子宮・直腸)を支える筋肉群。排尿・排便のコントロール、膣の締まり、姿勢の安定、呼吸との連動など多くの働きを担う。加齢、出産、運動不足などで衰えると、尿漏れ・臓器脱・性交痛・腰痛などの不調の原因に。鍛えることで血流が改善し、「下半身が軽い」「お腹まわりがスッキリする」などの体感につながる。

冬場は、小陰唇と大陰唇の境目が乾燥でひび割れてしまう方も多いんです。ホルモンバランスの変化で乾燥するのは仕方ないこと。デリケートゾーン用の保湿剤を使ったり、性交渉の際には潤滑剤などグッズに頼るのも良いでしょう。潤い不足の状態での性行為は出血や内壁が傷つく原因にもなるので、身体を守るためにもこれらは重要です

 10代や20代のころと比べて60代では毛細血管が40%減少するといわれ、血流が滞ると細胞や組織に栄養が行きわたらず、乾燥が進んでしまう。だからこそ血流を上げるマッサージやトレーニングは重要だ。

膣に入れるトレーニング用のボールや、携帯アプリと連動して膣圧を測れるものもあるので、ゲーム感覚で膣圧を上げていくのもおすすめです。グッズを買わなくても、ご自身の指に専用の保湿剤をつけて膣の内側を指圧するマッサージから始めるのも良いですね。最初は感覚がつかめないかもしれませんが、指を締めつけるような収縮感があるかチェックしてください。最終的には指を吸い上げるような吸引力や圧をかけられるように目指しましょう

 このほかにゲーゲル体操もおすすめだそう。

この体操ではどの筋肉に効いているかを意識することが肝心です。前ももに力を入れるのではなく、お尻を収縮させてギュッと持ち上げるイメージで行いましょう。その際、お腹はこれ以上平らにできないくらいへこませると効果が高まります

 膣のマッサージや筋力トレーニングの前に、呼吸を整えることが効果的。

「最近では深呼吸や正しい姿勢を保つことが、骨盤底筋に良い影響を与えるといわれています。例えば寝る前に3秒かけて鼻から息を吸い、3秒呼吸を止めて、10秒かけて口から息を吐く、深呼吸を習慣にするのも良いでしょう。

 息を吸うときは背中側に空気をため込むイメージで、肋骨は開かないように意識してください。そして息を吐くときには肋骨の下部を触り、肋骨をグッと内側にしまい込む感覚で行えば、横隔膜にも効いてそこから骨盤底筋も動きやすくなります。それができてから、膣トレを行うのが良いと思います

 そしてトレーニングだけではなく、食生活も影響が大きいそう。

タンパク質・脂質を適切にとることは、筋肉量やホルモンバランスの維持に欠かせません。バランスの取れた和食に、フルーツをプラスするのが良いですね。また年齢を重ねると消化酵素が不足しがちで、タンパク質をしっかりとってもアミノ酸やペプチドに分解しづらくなります。よく噛んで食べることで、消化吸収を促していきましょう

改善しなければクリニックの利用も

 悩みが改善しなければ、気軽にクリニックに相談してほしいと櫻井医師は言う。

電磁波によって筋肉の収縮を促し骨盤底筋を鍛える機械・エムセラや、膣ハイフという施術もあります。ハイフは膣に機械を挿入し熱を加えることで引き締めていきます。膣の壁が薄くなるのも潤い不足の原因なので、熱を加えることでふっくらさせて改善していきます

 そのほか、最近は再生医療も注目されている。

当院でも幹細胞培養上清液という成長因子を多く含んだものを膣壁に注入し、潤いを上げる方法も取り入れています

 自分らしく生きるためにも、フェムケアに目を向けるのは大切だ。

50~60代は自由な時間が増える世代です。だからこそ、女性特有の悩みで楽しめないのはとてももったいない。ご自身の人生を取り戻すためにも、気軽にご相談いただきたいですね

骨盤底筋を鍛えるゲーゲル体操

1・あおむけの状態で足を肩幅に開き、膝を立てる

2・息を吐きながらお尻を上げ、肩・背中・腰が一直線になるまで引き上げる。そのまま3秒キープし、息を吸いながら元の姿勢に戻る

骨盤底筋を鍛えるゲーゲル体操

取材・文/植田沙羅

櫻井夏子先生 サイトリ杉山美容クリニック院長。専門は美容皮膚科・整形外科。2017年に順天堂医学部付属順天堂医院・整形外科入局。2022年よりNEXUSクリニックでの勤務を経て、2024年より現職。フェムケアを広める医師としてメディア出演や著書多数。