卓球日本代表の張本智和

 12月14日まで香港で行われた、卓球の世界ランキング上位選手で争う『WTTファイナル』。男子シングルスで、日本の張本智和が4度目の決勝にして悲願の初優勝を果たした。

 試合後のインタビューで「喉から手が出るほど欲しかったタイトルだが、いざ優勝してみると現実感がない。信じられない」と語った張本。前身大会であるワールドツアー・グランドファイナルだった2018年以来の優勝に喜びを滲ませたが、直近の試合では不遇を受けたことが話題になっていた。

中国では「ブーイングの嵐」

「張本選手は、中国・成都で行われた卓球の混合団体ワールドカップ(W杯)にも日本代表として出場。12月5日に行われた韓国戦の試合前、日本の各選手が順に紹介される場面で、なぜか彼の名前が飛ばされたのです。少し時間を置いてようやく名前が呼ばれましたが、6日に行われたフランス戦では、張本選手がポイントを取ると大きなブーイングが。試合後に相手選手がX(旧・ツイッター)で《本当に気の毒だと思った。彼があんな状況になるのを見るのはつらかった》綴るほど、何度も繰り返されるブーイングに会場内は不穏な空気で包まれていました」(スポーツ紙記者)

 張本への“冷遇”はSNSを中心に伝えられ、各所で問題視される事態に。日本卓球協会はW杯の運営に対して「これでは試合ができない」と改善を要求し、12月13日には、協会の星野一朗副会長が、主催者側から代表チームや張本本人に対して「故意ではなかった」との釈明及び謝罪があったことを明らかにした。

 そんな紆余曲折を経て、見事“世界一”の座を手にした張本。勝利後のインタビューでは、冒頭に中国語で「まず初めにひとつ言わせてください。香港の皆さんにごあいさつします」と話し、今度は観客から大歓声が上がった。その後の取材でも「今回は応援の方が多かったし、相手の応援も試合らしい応援で、応援合戦というか、お互いの応援があったので気持ちのいい試合だった」と爽やかに振り返った通り、『WTTファイナル』では万全のパフォーマンスが披露できたようだ。

“強心臓”な引用コメント

 世界王者となった張本が大会中に発した言葉で、特に注目されているコメントがあるという。

2021年10月、JOC第32回オリンピック競技大会特別賞表彰式・イベントに参加した卓球日本代表の張本智和(中段、真ん中)

「ネット上で話題になっているのは、準決勝の勝利後インタビューで語った内容です。自身4回目となる同日の決勝に向けての意気込みを聞かれた張本選手は、“4度目の正直。相手がどれだけ強かろうが、高市さんの言葉を借りれば、絶対絶対絶対絶対絶対に優勝するんだという気持ちで戦いたいと思います”と力強くコメント。これは本人が語っているとおり、高市早苗首相が自民党総裁の就任時に発した“働いて働いて働いて働いて働いて、参ります”のオマージュでしょう。成都でのブーイングの記憶が新しい中、香港の大会で日本の首相の言葉を引用するとは、なんとも“強心臓”な(笑)」(スポーツ専門誌ライター)

 張本が受けたブーイングの背景には、両親が中国の卓球選手だった張本が「中国を倒す」とたびたび口にしてきたことに加えて、“高市構文”の本家である首相の「台湾有事発言」が悪影響を及ぼしてしまった可能性も指摘されている。

「高市首相の発言を受けて、日中関係はかなり緊迫した状況となっています。そんな中、ブーイングでつらい思いをした張本選手が首相の言葉を用いたことについて、日本の卓球ファンからは、“中国でこれを言うのはすごく勇気がいるし、もちろん中国の仕打ちに対しての怒りもあると思うけど、それ以上に日本に対しての誇りを感じる”“中国からすれば耳を塞ぎたくなるような賢いコメント。スマートな返し”“姑息な嫌がらせを受けていたのに、それをパワーに変換して実力を出し切りましたね。おめでとう!”など、絶賛の声が集まっています」(同・専門誌ライター)

 悔しさをバネに、頂点に立った張本。若干22歳の若武者が見せた活躍は、間違いなく日本国民を鼓舞するものだった。