第76回NHK紅白歌合戦ロゴ(公式インスタグラムより)

 今年も残すところあとわずか。大晦日の風物詩といえば、やはり『NHK紅白歌合戦』。2025年、第76回を迎える同番組だが、近年は「視聴率低迷」という言葉が枕詞のように定着してしまった。NHK側も手をこまねいているわけではなく、視聴時間に応じて投票数を増やすシステムを導入するなど、あの手この手で視聴率の確保に必死だ。

 改めて、過去75回の歴史を「視聴率」という指標から見ると、そこには生活習慣の変化や強大なライバルたちの存在が見えてくる。5つの最高&最低視聴率の年を振り返る。

驚異の81.4%!「誰もが同じ歌を聴いた」黄金時代

 紅白の歴史上、不動の第1位として君臨するのが、1963年(第14回)の81.4%という数字だ。前年の第13回も80.4%を記録しており、当時は「80%超え」が珍しくなかった。

「1963年は東京オリンピックのちょうど前年。開会式では、のちの『寅さん』こと渥美清さんが聖火ランナーに扮して登場する演出もあり、国全体が未来への希望に満ちていました。娯楽が少なくチャンネル数も限られていた当時、大晦日に家族全員で紅白を見るのは、もはや国民的行事でした」(テレビ誌ライター、以下同)

平成の頂点、安室奈美恵の“涙のカムバック”

 時代が下り、平成に入ってからの最高記録は1998年(第49回)の57.2%だ。この年、日本中の視線を釘付けにしたのは、出産・育児休業から1年ぶりにステージへ帰還した安室奈美恵だった。

「安室さんが『CAN YOU CELEBRATE?』を涙ながらに歌い上げた際、瞬間最高視聴率は64.9%を叩き出しました。舞台袖でMAXのメンバーが涙を流しながら支える姿は、今も語り継がれる名シーンです。当時はSPEEDやKiroro、DA PUMPといった沖縄出身アーティストが計5組も出場し、まさに『沖縄旋風』が吹き荒れた年。これ以降、平均視聴率が55%を超えたことはありません」

令和の希望を繋いだ「嵐」と「コロナ禍」

 右肩下がりが続く視聴率の中で、令和に入って唯一40%台をキープしたのが2020年(第71回)の40.3%だ。

「この年は、年内での活動休止を発表していた嵐のラストステージという大きな“引き”がありました。加えて、コロナ禍による外出自粛で、例年以上に在宅率が高かったことも要因でしょう。裏番組では日本テレビ系の『ガキ使』が17.6%と健闘していましたが、国民の関心は嵐の幕引きに集中しました」

暗雲が垂れ込めた「史上初の30%台」

 一方、紅白の“不敗神話”が崩れた象徴的な年がある。初めて平均視聴率が40%を下回った2004年(第55回)の39.3%だ。

 この年は氣志團や大塚愛が初登場し、松平健による『マツケンサンバII』が会場を熱狂の渦に巻き込んだ。当然、五木ひろしや小林幸子といった大物歌手も顔を揃えたが、お茶の間の視線は他局へと流れた。

「“裏番組”は、TBS系の格闘技イベント『K-1 PREMIUM 2004 Dynamite!!』です。前年のボブ・サップ対曙戦が瞬間視聴率で紅白を超えた勢いそのままに、この年も魔裟斗や山本“KID”徳郁といったスター選手が躍動し、20.1%という数字を記録。若年層を中心に『紅白よりも格闘技』という流れが決定づけられた瞬間でした」

ワースト記録の衝撃…旧ジャニーズ不在の影響

 そして現在、全75回の中でワースト記録となっているのが、2023年(第74回)の31.9%だ。前年の35.3%から大きく数字を落とした背景には、芸能界を揺るがした巨大なスキャンダルがあった。

2023年9月に開かれた旧ジャニーズ事務所の会見

「旧ジャニーズ事務所の問題を受け、同事務所のタレントの出場が44年ぶりにゼロとなりました。例年、複数のグループが出場し、若年層の視聴率を支えていただけに、その穴はあまりに大きかった。K-POP勢を増やすなど対策は講じましたが、長年の固定ファンを納得させるには至りませんでした」

 翌2024年(第75回)は32.7%とわずかに持ち直したものの、かつての勢いを取り戻すには至っていない。果たして、2025年はふたたび国民の関心を呼び戻すことができるだろうか。

※本記事の平均視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区、世帯視聴率を基に構成。