『ドラゴンクエスト』シリーズといえば、数えきれないほどの呪文が登場し、冒険の幅を大きく広げてきた。攻撃、回復、補助といった定番から、思わず「そんな効果あるの?」と首をかしげたくなるものまで、その種類は実に多彩だ。しかしその中には、設定や演出は面白いのに、実際にはほとんど出番がない呪文も存在する。
覚えた時点で役目を終えている呪文
歴代ドラクエの中で「残念」と言われがちな呪文の代表格が、ドラクエ3にのみ登場する呪文「レムオル」だ。
「効果はパーティ全員を透明にするという、聞いただけなら夢が広がる能力です。透明になれるなら敵に見つからず行動したり、色々なことができそうに思えますが、実際の使い道は、エジンベア城の門番の目を盗んで城に入る場面のみで、それ以外に活躍の機会はほとんどありません」(ゲームライター、以下同)
しかもこの効果はアイテム「きえさりそう」で代用可能であり、さらにレムオルを覚えるレベルは33と高い。普通に進めていれば、その頃にはすでにエジンベア城を攻略しているため、覚えた時点で役目を終えているという悲しい呪文なのだ。
続いては「フローミ」。
現在地の地名や階層を表示するという珍しい効果を持つ呪文で、ドラクエ6で初登場した。名前の由来も「フロアを見る」から来ていると考えられ、発想自体は分かりやすい。しかし問題は、それ以上の効果が一切ない点にある。
「宝箱の位置が分かるわけでも、マップが明らかになるわけでもなく、ただ文字情報が表示されるだけ。そのためゲーム攻略という観点ではほぼ意味がなく、使う理由が見当たらない残念な呪文と言えます」
意外な場所の正式名称を知ることができるため、世界観を楽しみたいプレイヤー向けの呪文と言えるが、利便性はきわめて低い。のちの作品では地図画面に地名や階層が表示されるようになり、完全に役目を失ってしまった。
強力な切り札になると期待していたが…
3つ目は、みんなで力を合わせて放つ呪文「ミナデイン」である。
ミナデインはドラクエ4で初登場し、ギガデインの進化系かつ仲間全員の力を集めて放つという演出から、多くのプレイヤーが強力な切り札になると期待していた。実際、当時としては300以上のダメージを与えることができたが、問題はその代償の大きさだ。
「パーティ全員が揃っていなければ使用できず、全員がMPを消費し、さらに詠唱者以外の仲間はそのターン一切行動できなくなります。その結果、普通に各キャラクターが攻撃や呪文を使った方が合計のダメージが高くなるケースも多かったです」
その後も根本的な制限は改善されないまま、ドラクエ7を最後に呪文としては姿を消してしまった――。
4つ目はドラクエ7の主人公専用呪文「マジャスティス」である。
「主人公専用で、長いイベントを経て習得する特別な呪文のため、強力な攻撃技を想像したプレイヤーも多かったと思います。しかし実際の効果は、敵一体の呪文効果を打ち消すというもの。さらに同じ作品には、敵全体の呪文効果を打ち消し、MPも消費しない『いてつくはどう』が存在するため、性能面で比べると下位互換に見えてしまい、使いどころは限られました」
結果として、印象に残りにくい残念な主人公専用呪文となってしまった。
5つ目は「リホイミ」だ。
リホイミは味方一人に自動回復効果を与える呪文で、ドラクエ11などに登場した。毎ターン回復する仕組み自体は優秀だが、回復量は1ターンあたり10前後と少なく、敵の攻撃力に追いつかない。進化系のリベホイムでも回復量は70程度で、習得時期を考えると物足りなさは否めない。
「通常の“回復呪文”を使った方が確実な場面が多く、自動回復という珍しい要素を活かしきれなかった惜しい呪文だと言えます」
使えなかったこれらの呪文の存在もまた、ドラクエシリーズの歴史と奥深さを作り上げてきた要素の一つなのだろう。
