「人はパニックになると判断力が低下します。大勢の人が右に走ると、自分も右に向かってしまう。冷静であれば、左のほうが安全だと気づく場合でも、いざというときの心構えがないと思考が停止してしまう」
と、防災スペシャリストとして活動する野村功次郎さんは説明する。
災害時の行動を予測して“自分ルール”を決める
でも、地震などの災害が突然降りかかると慌ててしまうものだろう。それでも、冷静に対処するにはどうしたらいいのだろうか。野村さんは、「災害を常に意識しておくことが大切」と指摘。
「晴天であっても、天気予報が降雨予測であれば、傘を持って出かけるでしょう。同じように、普段から災害が起きることを想定して行動してほしい」(野村さん、以下同)
例えば、旅館やホテルに泊まったとき、避難口を確認するのもそのひとつ。避難口が1か所しかなければ、そのほかの逃げ道も考えておく。
こうした確認行動は火災のときにも役立つ。むやみに逃げるのではなく、確かな情報に基づいて避難することが命を守る基本なのだ。
「いざというときの情報を集め、“自分ルール”を定めておきます。そして、それを常にアップデートすることが、災害時の冷静な行動につながるのです」
ローリングストックとフェーズフリーで備える
近年よく耳にする“ローリングストック(回転備蓄)”。
「これは日常的に使う消耗品や食品を多めに購入し、賞味期限が切れる前に食べて、また買い足すというもの。1か所に保管すると、倒壊物などで緊急時に利用できないこともあるので、自宅のあちこちに置いておくのがベスト」
水の1日分の必要量は1人2リットル。水道のインフラ復旧は時間がかかることが多いので、できれば7日分の用意が推奨されている。
「最近では、“フェーズフリー”という考えが広がっています。『平時と非常時の境界(フェーズ)』を『なくす(フリー)』という意味ですが、懐中電灯になるペンや、濡れても文字が消えない紙などは、被災したときに役立ちます」
こうしたグッズは、平時や災害時の区別なく使うことができるので、非常用に特別に用意しなくてもよい。
また、情報を収集できるスマホは、災害時には欠かせないアイテム。電池切れを防ぐためモバイルバッテリーは必携しておきたい。
地震が起きると、被災地周辺は電波障害が起きたり、大量アクセスにより通信ができなくなりがちだ。ただ、そのような場合でも遠距離通話は可能な場合が多いので、遠く離れた親戚や縁者を中継地点にすれば、互いの安否確認ができる。
避難所生活での心構えと生き延びるための法則
自宅が倒壊、浸水などで避難所を利用する際に、注意すべきことはあるのだろうか。
「避難所は非日常の場です。自宅や家族を失い、通常の精神状態ではなくなる。自暴自棄になって窃盗や盗撮、性的暴行事件が起こることもあります。女性は1人で行動しないようにしてください」
避難所に行く際は、救助されやすい派手な色の洋服を着たほうがよいが、避難所に着いたら反対に、地味な格好をして肌の露出は控えるようにするのが鉄則とのこと。
「避難所に自治体職員やボランティアが入るのは災害から数日後になるので、秩序が保たれていないことも多々あります。場所は早い者勝ちのため、寒い場所やトイレ近くしかスペースがないことも。親戚や知人宅に避難できるなら、そうしたほうがベターかもしれません」
災害時の生存時間を示すものに「333の法則」というものがある。人間は「3分間呼吸ができない」「3時間体温が維持できない」「3日間水を摂取できない」と命が尽きてしまう。
「冬の防災で大切なのは、寒さ対策。使い捨てカイロや寝袋などを、この時季は備えておきたいものです」
その地震対策と行動、間違っています!?
「地震が起きたら、テーブルの下に隠れる」
建物が倒壊したら、「テーブルの下に避難」では身は守れない。まずは出口の確保が優先。地震でドアがゆがんで開かなくなることがあるので、ドアを開けて、その近くで身をかがめて避難。
「避難所に行けば、安心・安全は確保できる」
家屋が傾いていたり、壁にヒビが入っている場合は、迷わず決められた避難所へ。ただし、避難所は盗難などプライバシーや安全面で不安があるというデメリットもある。冬場は感染症にも注意したい。車での一時避難も一つの方法だが、その際にはエコノミー症候群にならないよう、定期的なストレッチなどを行う。
「地震がおさまったら、電気・ガス・水道を使用しても大丈夫」
震度5弱以上(マグニチュード6以上)の場合、電気は使用せず、ガス・水道の元栓も閉めたままにする。ガスは火災を防ぐため。水道は、水道管の破裂やトイレの水が逆流しないようにするため。電気は、漏電や通電火災を防ぐため、ブレーカーの主電源を切る。復旧状況を確認して元栓や電源を入れる。
「車の走行中に地震が起こったら、道路脇に車を止めて避難」
消防車などの緊急車両が通れるように、車を止めたら鍵をかけずに避難することが推奨されているが、盗難に遭うことも。道路脇ではなく、近くの店舗などの駐車場に止めて避難するのがベター。紙に名前と連絡先など書いて残しておくと、何かあっても安心。車検証を携行することも忘れずに。
「地震中はしゃがみ込んで、頭を守る」
頭は頭でも後頭部や首の後ろ側を守ることが大切。また、両足をそろえてしゃがみ込むのはNG。何か物が落ちてきたときなど、とっさの動作がとれない。利き足を後ろに引いてひざを地面につけ、腰は落とさない「3点しゃがみ」の姿勢をとる。外にいた場合は、周囲(特に上方)に危険物がないか確認する。
地震・災害に備えて、普段から用意しておきたいもの
〈自宅での備蓄品〉
●非常用トイレ(1人/1日5個×7日分)
●食料品(缶詰、レトルト食品、パックご飯、フリーズドライ、災害用の非常食など)
●水(1日/1人2L×7日分)
●スマホ用モバイルバッテリー
●ポリ袋&新聞紙(非常用トイレが足りないときに使用)
●口腔ケア用ウエットティッシュ
●カセットコンロ&ガスボンベ
●ウエットタオル
など
〈避難所に持ち出し用〉
●マスク
●水(500mlのペットボトル×4本程度)
●非常食(アメ、シリアルバー、羊羹などを2、3日分)
●大判ハンカチ
●口腔ケア用ウエットティッシュ
●ポリ袋
●運転免許証、お薬手帳のコピー
●現金
など
わざわざ防災用セットを購入しなくても、日常的に使っているものを利用すればOK。備蓄品は「買う」→「使う」→「買い足す」のサイクルで、日常生活に取り入れる。
ペットを飼っている人はどう避難する?
自治体によって対応はまちまち。ペットと同行避難ができる避難所もあるが、まだ少ないのが現状。
平時に自治体に確認しておくとよい。車でペットと寝泊まりするか、広場などにテントを立てて避難場所にするか、自分なりの方法を考えて対応するしかない。自分たちは避難所、ペットは自宅で待機させ、定期的に世話をしに帰るなども検討しておく。
教えてくれたのは……野村功次郎さん●元消防士の防災スペシャリスト。広島県呉市消防局で警防、救助、救急各隊の隊長を歴任。阪神・淡路大震災、新潟県中越地震、東日本大震災で救助活動を体験後、現場を知る防災家・危機管理アドバイザーとして活動を開始。メディアや各地での講演を通じ、防災の重要性を伝えている。
取材・文/佐久間真弓
