正月に親族が集まると、先祖について、「〇〇という地域で農家をしていたらしい」「母方の先祖に武士がいたみたい」といった話題が出ることがある。あるいは、NHKの『ファミリーヒストリー』などの番組をきっかけに、先祖に思いをはせる人もいるだろう。
「こういう家族のルーツへの興味は海外の人にもあるんですよ。例えば移民の国アメリカでも、家系図のようなものを作ることはポピュラーな趣味とされています」
そう教えてくれたのは、これまで5000件以上の家系図を作成してきた行政書士の渡辺宗貴さん。
家系図作りのベースは戸籍
渡辺さんによると、家系図作成の依頼者は主に40代から60代で、うち4割は女性からとなる。
「依頼のきっかけは両親や祖父母の死、結婚で姓が変わったとき、出産など人生の節目で“自分の先祖について知りたい”と考え始めたケースが多いようですね」
ただ、これまでの経験上、始める前に注意すべき点も。
「独断で、いきなりあれこれ調べ始めるのはおすすめしません。両親や祖父母に、過去の結婚歴や幼くして亡くした子についてなど、知られたくない、思い出したくないことがあることも。
ご両親が存命なら、まずは“家系図を作ろうと思う”と相談を。そのうえで、亡くなった親族の名前や本籍地、菩提寺、家紋などわかる範囲で教えてもらいましょう」(渡辺さん、以下同)
家系図を作る場合、第一歩となるのが役所での戸籍収集だ。戸籍は、日本国民の出生、結婚、死亡、家族関係などを記録した公的な書類。
例えば自分の父方の先祖を知りたい場合は、父、祖父、曽祖父と、戸籍の筆頭者をたどって「戸籍謄本(全部事項証明書)」を集める。その他、
全員が死亡や結婚などで抜けた状態の戸籍「除籍謄本」、法改正で作り替えられる前の「改製原戸籍」もあると、より正確な家系図が作れる。
自分で戸籍謄本を集める場合は、マイナンバーカードや運転免許証など顔写真付き身分証を持参して、役所の窓口で手続きを行う。
「戸籍は、住民票に記載されている“本籍地”の役所に請求しなくてはなりません。本籍地が遠方にある場合、かつては郵送請求をして、ゆうちょ銀行の定額小為替などで手数料を納めるといった手間が必要でしたが、近年は『広域交付制度』により、親、祖父母など直系の親族の戸籍謄本は、最寄りの市区町村役場で、遠方の本籍地の戸籍も取得できるようになりました」
ただし、自治体によってその対応は異なるそう。
「相続などではなく、家系図作りが目的の請求については、一度に請求できる人数に制限をかけているケースもあり、その場合は何度か役所に行くことになります。また、即日での発行ができないことも多いので、気長に待つことも大切です」
“菩提寺”で先祖を調べる方法も
現在、各役所で保管されている戸籍は、明治19年(1886年)以降のものだ。
明治19年当時に存命だった江戸末期生まれの先祖が記載されており、その親世代、場合によっては、さらにその親世代まで記載されていることもある。そのため、200年近く前の先祖まで判明する場合もある。
戸籍制度がない時代の先祖についても調べる方法はある。菩提寺、つまり先祖代々のお墓があるお寺がわかっている場合は、そこを訪ねてみよう。過去帳で先祖の名前や戒名、死亡年月日などがわかることもある。
「なお、お寺で過去帳を見せていただく際は、突然訪問したりせず、目的と事情を丁寧に記したお願いの手紙を出し、お布施を五千~一万円程度を目安に用意しておくのがおすすめです」
菩提寺がわからない場合は、さらに手間がかかる。まずはいちばん古い戸籍に記載された本籍地を地名辞典などで確認し、先祖が農村に住んでいたか城下町に住んでいたかを判断する。
城下町に住んでいて、武士だった可能性が高い場合は、郷土資料館などで藩の資料を調べると、藩に提出された家系図が見つかることも。そうした資料のない農村出身の場合は、先祖の住んでいた本籍地で、自分の先祖を知る人がいないか探すことになる。
「私自身も戸籍の調査で遠く離れた場所に先祖の本籍地があることを知り驚きました。そのころまだあった電話帳を頼りに、そこに住む同姓の30人に手紙を送り、“私はこういう者で、同じ姓の先祖の〇〇がそちらに住んでいたようなのですが、菩提寺も家紋もわかりません。
何かご存じないですか”と手紙を送りました。すると一人だけ、返事をくださって。それがきっかけで菩提寺がわかり、さらに先祖を遡(さかのぼ)ることができたのです」
より昔の情報を調べるなら“今”
古い戸籍や過去帳は、書き手の癖などもあり、読み解くのが難解な場合もある。しかし、状況次第でかなり昔まで遡れることもあるという。
「ただ、家系図作りに興味があるなら、急いだほうがいいかもしれません」
渡辺さんがそう言うには理由がある。戸籍は保存期間が決められていて、150年を過ぎると廃棄される可能性がある。つまり今、取得できる明治19年の戸籍も、順次廃棄の時期を迎えるということだ。
「また、保存期間であっても、個人情報保護の観点から、将来は取得や閲覧が制限される可能性もあります」
時間がたてばたつほど、ご先祖さまの名前や本籍地がわかりにくくなるということ。そして、昔を知る高齢の方々の記憶が、年々失われていくことも忘れてはならない。
「私の先祖のことを手紙で教えてくれた唯一の方も、その時点で90代でした」
家系図作りは手間がかかるが、だからこそおもしろい。調べるうちに先祖から脈々と受け継がれてきた血縁を実感し、「自分自身はもちろん、他の人を大事にしようと思うようになる」と渡辺さん。
老後のライフワークとしてもおすすめだ。まずは家族で、ご先祖さまについて話してみる、そんなことから始めてみてもよさそう!
家系図を自分で作る!5ステップ
(1)両親などに相談
事情があって戸籍を調べてほしくない場合もあるので、両親などに家系を調べたい旨を相談して。
(2)知っていることを整理
先祖の名前、住んでいた場所、菩提寺、家紋などの基本情報を両親などに聞いて整理。
(3)戸籍を調べる
親、祖父母と遡りながら本籍地の役所に、戸籍謄本を請求する。
(4)戸籍より前も遡る
菩提寺の過去帳や郷土資料などを基にさらに先祖を調べる。
(5)情報をまとめ、書き出す
集めた情報を家系図などの形にしてまとめる。
教えてくれたのは……渡辺宗貴さん●家系図作成代行センター(株)代表。行政書士。戸籍や古い文献を基に家系図を作成する業務を専門とし、これまで全国で5000件以上を手がけてきた実績を持つ。著書に『千年たどる家系図物語』(時事通信社)など。
取材・文/吉田きんぎょ

