高齢の親が、障害のある子どもを介護し続ける「老障介護」。国は障害者の地域移行を進め、施設依存を減らす方針を掲げているが、重度障害者を受け入れる体制はまだ十分ではない。頼れる先が限られ、老いた親が自宅で支えるしかない家庭が増加。親が生きているうちはまだなんとか。しかしその後はーー。
知られていない“老障”介護
「老障介護とは、高齢の親が障害のある子どもを介護する状態のこと。超高齢社会を迎えた日本ではこうした家庭が少なくないはずですが、国による実態調査は十分ではなく、世間の認知もまだ高くはありません」
そう話すのは、社会保険労務士として活動する傍ら、兵庫県の相談支援専門員でもある太山敬さん。障害者と彼らに必要な障害福祉サービスおよび社会支援機関をつなぐ活動を行っている。
年老いた親が家庭内で、障害のある子どもの介護を続ける過酷さは想像に難くない。ならば障害者支援施設を頼ればいいと考えるが、そうはいかないのが現状だ。
政府は2026年度末までに、障害者支援施設の入所者や精神科病院の長期入院患者を、5%以上削減することを目標にしている。施設や病院ではなく、可能な限り自立または共同生活をする、すなわち“地域移行”を促すものだ。
「障害者権利条約に基づいて“障害のある人の意思や選択を尊重する”という理念を掲げています。例えば、強制入所や入院は廃止されたり、従来からある入所施設ではなく、障害者が少人数で共同生活を行うグループホームへの移行が推奨されています。
しかしグループホームは重い障害のある方の受け入れ態勢が整っていなかったり、設備が十分でないことがほとんどで、入所を拒否されてしまうことも多々あります。それに加え、政府の政策により障害者支援施設の定員が減っているため、入所を希望する待機人数は増加し、結果的に高齢の親御さんが自宅で介護せざるを得ない状況になっています」(太山さん、以下同)
特に強度の行動障害のある人などは、受け入れはさらに難しくなる。
「普段は穏やかに過ごしているのに、何かのきっかけでパニックを起こしてしまい、壁に頭を打ちつけたり引っかくなどの自傷行為、誰かに噛みついたり叩くなどの他害行為、物を壊したり、何時間も多動や号泣を続けてしまうというケースなど。パニックの原因や対処法が明確でないと周囲の負担も大きいため、受け入れを拒否されるのです」
老障介護において最も悩ましいのが、親が亡くなった後の障害のある子どもの生活だ。太山さんに実情を伺った。
両親が亡くなれば一人で送ることは厳しい
「私が相談を受けるのは就労訓練が可能な、重度ではない障害の方が多く、就労支援事業所などにつないで、障害者が働くサポートをしています。それでも日常生活を親御さんに頼っている方がほとんどで、ご両親が亡くなれば、現状どおりの生活を一人で送ることは厳しいでしょう。
私が携わったケースに、働き盛りだった娘さん(30代半ば)がある日突然脳卒中で障害者となったケースがあります。現在は70代後半の父親と二人暮らしで、家事や外出時の移動介助は父親に頼っています。
本人は事業所に通うことでわずかな工賃を得ているものの、親亡き後を想定したとき、自立に十分な収入とはいえません。そのため、お父さまは現状の介護負担や近い将来訪れる自分の亡き後を憂い、不安を吐露されています」
親が死んだ後の準備を事前にしておくべきだと思っていても、そう簡単ではない。
「本人は家族との暮らしが心地よく、自ら積極的に生活スタイルを変えようとはしません。そして親御さんもわが子が心配なあまり、死ぬまで同居を続けたいと願うことがほとんど。
ですが強い意志を持って、存命の間に子どもをグループホームへ入居させるなど、自立のために準備することを提案しています。親の死後では時間もなく、本人に合う施設をじっくり探すことができず、後々問題になることも多いのです」
精神疾患などで長らくひきこもりを続ける子どもがいるケースなどを含めると、将来的に老障介護のような状態になり得る家庭はかなり多く、潜在的な危機を抱えている。
子どもが自身で生計を立てられなければ、ほとんどの家庭で起こり得る問題だと指摘する。
「40代後半の男性は、学生時代のいじめをきっかけにうつ病を発症し、高校卒業後からずっと家にひきこもっています。ご両親は経済的に余裕があるせいか将来のことはあまり深く考えていません。しかし親の死後、彼一人では掃除すらできませんし、本人が家事代行の契約をすることも難しい。親御さんが存命のうちに手続きを行うべきだとお伝えしていますが、ご家族や本人に危機感がないのでなかなか進みません」
親亡き後への備えも考慮し、早い段階からいろいろな窓口を活用して情報収集・準備を始めておくことが重要。事前に解決すべき問題は大きく分けて、住まい、身の回りの世話や相談先、成年後見制度、収入源、就労、社会参画などが挙げられる。
状況を率直に伝えることが大事
「お住まいの市区町村の障害福祉課に行けば、相談支援専門員の利用案内をしてくれます。専門員は相談内容によって、必要な専門家につなげてくれます。例えば、就労に向けた訓練や福祉的就労を希望するのであれば就労系サービスを行う事業所に、健康面や生活上での困りごとがあれば介護サービスにつなぐといった具合に、各種公的サービス利用のためのコーディネートを行います」
上記の表にあるサービスは相談支援専門員がプランを立てるが、その他制度も各種専門家に頼るべきだという。
「相談先に関しては市区町村により異なりますが、地域における相談支援の中核的な役割を担う機関として、基幹相談支援センターという施設がある場合が多いです。ほかにも、市区町村の役所は無料で相談を受け付けてくれるので、訪ねてみましょう」
何より、お金の問題を解消するのが重要だと太山さん。
「成年後見制度については、金銭を管理するという意味合いが強く、半分以上は司法書士が選任されています。また、障害年金・傷病手当金・失業手当など社会保険については社労士、生活保護・医療費軽減などは役所の専門窓口を紹介するなど、使える社会資源はすべて利用できるよう、金銭面についての説明・提案をしています」
制度を知らないが故に親子ともども行き詰まるのは避けたい。
「現行の制度では、老障介護の問題を根本的に解決するのは非常に難しい。老障介護は家庭という閉鎖された空間で起きていることが多く、見えづらい問題です。ですが、具体的な状況を率直に伝えることが、的確なサポートを受ける第一歩。各窓口や支援専門職へ早めに相談しましょう」
取材・文/植田沙羅
太山敬さん エンカウンター社会保険労務士法人・えんカウンター株式会社の代表を務める。社会保険労務士のほか相談支援専門員、精神保健福祉士、キャリアコンサルタントの資格を持ち、障害者支援や企業の人事支援事業など幅広い活動を行う。
