1月11日、東京・両国国技館で大相撲初場所が初日を迎える。
今場所の注目はなんと言っても、昨年11月の九州場所で初優勝を果たし、新大関へと昇進したウクライナ出身の安青錦(あおにしき)関だ。
そのひたむきな取り口もあってか、昨年12月には皇后雅子さまが誕生日文書の中で安青錦の活躍に触れ、「祖国ウクライナの戦乱を逃れて日本にやってきた高校生が、一心に稽古を重ね、日本の伝統である大相撲で大関まで昇進したことに感銘を受けました」との言葉を寄せられた。
親方衆らが大相撲の観戦マナーに言及
皇室からも温かい眼差しを注がれる新大関の快進撃に、今場所のチケットも争奪戦の様相を呈したようだ。空前の相撲ブーム再燃の予感が漂う中、日本相撲協会が観戦マナーについて「お願い」をYouTube上で発信し話題になっている。
公式YouTube『親方ちゃんねる【日本相撲協会公式】』に元幕内・栃栄の三保ヶ関親方、元幕内・北太樹の小野川親方、元幕内・玉飛鳥の大嶽親方が出演。普段は解説席などで見せる厳しい表情とは一変、和やかな雰囲気で進行する「親方会議」だが、その内容は極めて切実なものだった。
まず、親方たちが苦言を呈したのは力士が館内入りする際の「入り待ち」でのマナーだ。
多くのファンが贔屓の力士をひと目見ようと通用口や花道やに集まるが、「会場入りする際の力士は、取組に集中してどうやって立ち合いに行こうかなとか…どういう相撲取ろうかなって… 考えながら.歩いてる」と説明。続けて「写真を撮ってください、サインをしてくださいという声はかけないようにしようというのは、昔からファンの間でできたルール」とコメント。
協会として明文化された禁止事項ではないものの、取り組み前の力士の集中力を削がないための「暗黙の了解」として定着していた文化が、近年揺らぎつつあるのだ。
大嶽親方も現役時代を振り返り、「これから相撲を取るという時だったので、サインを書いたり写真を一緒に撮るというのは、力士目線で言うとできたら控えていただきたい」と本音を明かす。一方で、取組後の出待ちについては「勝って出てきた時などは力士も気持ちよく応じられる」と、そのタイミングについて語っていた。
相撲の立ち合いの瞬間は静かに
力士と力士が土俵上で向き合い“いざ勝負”という立ち合い直前、館内が静まり返る光景は大相撲の特徴だ。
三保ヶ関親方は「立ち合いの瞬間、力士たちは一瞬で決まってしまう勝負にすごく集中している。その集中している瞬間、声をかけずに集中できる環境を作ってあげようとしてくれているのがファンの方々だと思う」と語る。
「あえてあそこって静かになるから声出すと聞こえる。だから静かになった瞬間に声を出すとテレビが拾ったりする。立ち合いの瞬間のシーンとなる状態は、大昔からファンの人たちの間で作り上げていただいた文化。それを文化として守っていっていただけると嬉しい」と、長年培われてきた観戦スタイルの継承を願った。
地元出身力士などに対する手拍子での応援についてはどうなのだろうか─。
親方たちの個人的な意見としては「ルールとしては載ってないが、やってほしくはない」と明言。さらに、相撲の精神性にも触れつつ、相撲が単なるスポーツではなく武道である所以として、「土俵下に落ちそうになった力士に手を差し伸べたりする力士が多い。相手がいて自分があるという思いでいるので、極端な応援はできればやめてほしい」と訴えた。
座布団投げは「絶対にやめて」
かつて、結びの一番などで横綱が格下相手に敗れると客席の座布団が館内に舞い、ある種の“風物詩”となっていたが、これについて親方たちは口を揃えて危険性を訴える。
三保ヶ関親方は「前の方に当たると、昔は鞭打ち症になってそのまま病院に運ばれた方もいる。遠くに飛ばしたいから皆さん上手に回転させて投げるので、回ってくると目なんかに当たると失明する危険もある」と具体的な事例を挙げた。
大嶽親方も「目なんかに当たると失明の危険もあるし、罪に問われる可能性もある」と警告する。そのため九州場所の会場では2人用の座布団を連結させ、投げられないような工夫がなされているという。
動画内では触れられなかったが、観戦マナーを巡っては、チケットの不正転売問題も深刻化している。昨年の秋場所、多くの人が押し寄せた両国国技館に転売を行っている不審な男性がいたという。
「この男性は1月の初場所と5月の夏場所にも現れては数十枚のチケットを転売していたそうです。しかも“溜席”と呼ばれる土俵に最も近い座布団の席も販売していたそうでX上では純粋な相撲ファンから批判の声が上がっていました」(相撲ライター)
「相撲人気はありがたいのだが、チケット転売ヤーが相撲界にまで浸透侵入してるのはマジで勘弁」「日本相撲協会さん、チケット流通センターに転売ヤーがわんさかいるぜ」など、転売屋の動きもあってか一般発売開始から4〜5分で完売という報告もあがっている。
日本相撲協会はこれまでも転売行為に対してファンクラブ会員の強制退会処分など厳しい措置を講じてきたが、会場内外での「個人間の怪しい取引」は後を絶たない。今回の親方衆による動画発信は、こうしたモラル低下に対する協会側の危機感の表れとも取れるだろう。
伝統ある大相撲の文化を次世代に継承していくためにも、一人ひとりの観戦マナーが問われている─。
