仲野太賀

 '24年は朝ドラ『虎に翼』に出演し、とうとう今年は大河の主役に! しかし、仕事に恵まれず、くすぶっていた時期もあった。今や“カメレオン俳優”と称されるが、周囲が語る一番の“武器”とはー。

「大河ドラマに出演してほしい」との願いを込めて太賀と命名

1月4日、仲野太賀さんが主演を務めるNHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』がスタートしました。ドラマは戦国乱世を舞台に、豊臣兄弟の絆と奇跡を描く物語。仲野さんは“天下一の補佐役”豊臣秀長を演じ、兄である豊臣秀吉役は池松壮亮さんが務めます。

 子どもでも楽しめて、歴史初心者にもわかりやすい、家族みんなで楽しめる“大型娯楽時代劇”というスローガンを掲げたプロジェクトがこの作品なんです」(NHK関係者)

 初回は同時・見逃し配信サービス「NHK ONE」の再生回数が、105.8万回を記録。'25年10月のサービス開始以降、昨年末の『NHK紅白歌合戦』を除き、初の100万回超えを達成した。

 仲野といえば、13歳で俳優デビューするも、なかなか芽が出なかった過去が……。

仕事に恵まれなかった時期は、たくさんの映画作品に触れるようにしていたそうです。自分の進むべき道を模索し、どこへ行こうとしているのか、自覚することが大事だと考えていたんだとか」(スポーツ紙記者)

 仲野の父は、ビデオシネマなどで知られる中野英雄。父の中野は息子に「大河ドラマに出演してほしい」との願いを込めて、「太賀」と命名した。

 仲野は'24年は6本の映画と、3本の連続ドラマに出演し、彼はとうとう大河ドラマの主演に抜擢された。

 テレビプロデューサーの鎮目博道氏に、仲野へのオファーが絶えない理由について話を聞いてみると、

自分を出しすぎず、ほかの俳優や作品の世界観を壊さない貴重な俳優だといえるでしょう。イケメン売りや個性が強すぎる俳優とは異なり、難しいとされる普通の人の役からどんな役でも演じきることができる。まさに“カメレオン”タイプだと思います。監督らが思ったように動いてくれるのも求められる理由のひとつでしょう

 '24年12月には『Midnight Pizza Club 1st BLAZE Langtang Valley』という書籍を発売。仲野と、テレビディレクターの上出遼平、写真家の阿部裕介の3人で手がけた“前代未聞”の旅本だ。

3人は世界で最も美しい谷の一つといわれ、標高3840メートルに位置するネパールの秘境ランタン谷の最奥にある集落キャンジン・ゴンパを目指して歩きます。そこからさらに標高4773メートルを誇る『キャンジン・リー』を登頂する旅の様子を収録した1冊です。

 仲野さんは被写体としてだけでなく、自らもカメラを持ち撮影に挑んでいます。実は写真家としての一面をもっている仲野さん。年に1度は写真家としての仕事が舞い込むんだとか」(前出・スポーツ紙記者)

 '10年、仲野はNHK BS2で放送された短編ドラマ『太宰治短編小説集/駈込み訴え』に出演。映画監督の西川美和氏が演出を務めた。西川氏に当時の彼を振り返ってもらった。

“映る側”ではなく、“作る側”の意図を察してくれる

撮影したとき、彼は10代。役名もない役を演じてもらいました。広い海岸の撮影で、助監督が喉を痛め声が通らなかったとき、カメラから離れたところで、エキストラに対し芝居をつけてくれていました。

 “映る側”ではなく、“作る側”の意図を察し、共に作ることができる俳優だと思いました。そのとき、将来必ずまた一緒にやりたいと感じたんです

西川美和監督

 西川監督の願いが叶ったのは、'21年公開の映画『すばらしき世界』。カッとなりやすい荒くれ者の主人公、三上を演じたのは役所広司。殺人で服役し刑期を終えた三上を追う、若手テレビマン津乃田を演じたのが仲野だった。

 彼はこの作品で助演としての存在感が高く評価され、日本アカデミー賞優秀助演男優賞や、ブルーリボン賞助演男優賞を受賞している。

主演の役所広司さんは、何も質問しないし、私からあえて役柄について話すこともしなかったんです。一方、太賀くんに対しては“あなたの役はこうだから”と語るのを神妙に聞いてくれました。彼は大人なんですよね」(西川監督、以下同)

 撮影ならではの危機も、仲野が加わると、魔法がかかる。

映画の後半では、子どもたちと大人がサッカーをするシーンがあったんです。小学校3年生の小柄な男の子がシュートを決めなければいけなかったんですが、なかなかシュートが入りませんでした。時間は日没直前。みんなハラハラしながら何度もトライし、山の端に太陽がかかるころ、ようやくゴールが決まったんです。

 太賀くんはゴールキーパーの役目だったんですが、ボールがコロコロ転がってネットを揺らした瞬間、少し遅れて派手に飛び込み地面に倒れ込んだんです

 鋭いシュートが決まったとは決して言えなかった……。

でも太賀くんのその動きがあるおかげで、鋭いシュートが決まったように見える。どこまで計算しているのかわかりませんが、そのように全体が救われる工夫をさりげなくしてくれる人です

 西川監督に、仲野をひと言で例えてもらうと、“妖怪・人たらし”だと語る。

大きな事務所で、キャリアを重ねて成功しても、いつもどこにでも顔を出してくれ、スタッフ含め誰とでも仲よくなるのはすごいなと思います。人を大切にしますし、謙虚な姿勢も信用できます

 仲野は役所をリスペクトし、共演することを夢見ていたが、その願いが叶ったのが同作だった。よほどうれしかったのか、撮影がない日でも現場に来て、役所の芝居を見て学んでいたという。

彼は役所さんを見ていて、役との深い対話をしているんじゃないかと感じたそうです。実際に撮影では、何度も胸が震える瞬間があったし、制御が利かなくなるくらい感動することもあったそうなんです。自分と役がシンクロしていくのがわかる。今までにない経験だったと吐露していました」(芸能プロ関係者)

 下積み時代に研鑽したからこそ、“天下取り”を成し遂げることができたようだ。

しずめ・ひろみち テレビプロデューサー。報道番組プロデューサーなどを経て、「ABEMA」立ち上げに参画し、2019年に独立

にしかわ・みわ 1974年、広島県生まれ。映画監督。主な作品に『ゆれる』(2006年)、『ディア・ドクター』(2009年)、『すばらしき世界』(2021年)など。著書に小説『永い言い訳』、エッセイ『映画にまつわるXについて』『遠きにありて』などがある