新旧『写ルンです』

 今年で誕生40周年を迎える富士フイルムの「写ルンです」。デジタル全盛の今、そのアナログな魅力がZ世代を中心に再燃し「エモい」と絶大な支持を集めている。

 かつて家族や友達とお出かけする際に、ポケットやカバンには常に「写ルンです」が入っていたという人も多いだろう。当時、「外出時の必需品」だったこのカメラは、いかにして生まれ、そしてなぜ再びブームを巻き起こしているのか。

 そんな同商品の歴史と進化について、学生時代から「写ルンです」を愛用し、現在はその魅力を伝える企画担当・植松美里さん(富士フイルム イメージングソリューション事業部)と、富士フイルム広報に、知られざる話を聞いた。

「フィルムにレンズ」常識を覆す発案!

「写ルンです」が産声を上げたのは、1986年7月1日のこと。その時代のカメラといえば高価で重く、フィルム装填も難しい機械だった。

「当時、写真は『ハレの日』に記念として撮るものでした。しかし、もっと多くの人に写真を楽しんでほしいという思いから、『いつでも、どこでも、誰でも、簡単に』というコンセプトで開発が始まりました」(富士フイルム広報、以下同)

 そこで生まれた発想が「フィルムにレンズを付けてしまう」という、常識を覆すアイデアだった。しかし、開発は平坦な道のりではなかったという。

「ある社員が『本当に写るのか?』と疑問を呈した際、開発メンバーが『写るんです!』と即答し、それが、商品名のもとになりました」

 さらに当時の流行語だった「ルンルン気分」から「ルン」を取り入れ「写ルンです」が誕生した。

 ちなみに、最終候補には「ぱっとりくん」「フィルマー」「カメルム」、そしてなぜか「西麻布」という名前まで残っていたという。もし「西麻布」だったら……今のブームの風景も少し違ったものになっていたかもしれない。

 発売当初、世間では「使い捨てカメラ」と呼ばれることもあったが、富士フイルムは一貫して「レンズ付フィルム」という名称にこだわっている。そこには、環境への深い配慮があった。

「『写ルンです』は、最初からリサイクルを前提に設計されています。富士フイルムは創業以来、フィルム生産に必要な水や空気を守る活動を重視しており、1990年には早々にリサイクルセンターを開設しました」

 使用済みの本体は工場で分解され、部品は再利用(リユース)や再資源化(リサイクル)される。その循環システムは、SDGsが叫ばれる現代をはるかに先取りしていたのだ。

110を超えた! ユニークな種類

 最盛期には、年間9000万本以上が販売されたという「写ルンです」。

「初年度の販売目標は100万本でしたが、発売からわずか半年で達成。1年間で300万本を売り上げる大ヒットとなりました」

 その功績は、数字以上に「写真文化」を変えた点にある。それまで「記念日」のものだった写真が、友達との登下校や飲み会、何げない日常のひとコマを記録するものへと変化したのだ。

「一家に1台だったカメラが、一人1台になり、『撮る』という行為そのものがイベント化しました。これは、後の携帯電話やスマートフォンでの撮影文化の下地になったと考えています」

 また、そのブームを支えていたのが、写ルンです・富士フイルム(フジカラー)のCMの数々だ。「美しい人はより美しく、そうでない方はそれなりに」でおなじみの故・樹木希林さんと岸本加世子コンビに始まり、デーモン小暮や沢口靖子、「長瀬店長」などなど……ある程度のお年頃の読者なら、記憶に残るCMがきっとあるはず。

写ルンです(初代・1986年発売)発売から1年で約300万本が売れたとか

 30年以上の歴史の中で、発売されたバリエーションはなんと110種類以上。その進化の歴史は、ユーザーの声に応え続けた歴史でもあった。

「初代機はシンプルさを優先していましたが、『室内や夜間でも撮りたい』という声を受け、翌年にはフラッシュ内蔵タイプを発売しました」

 これにより、撮影シーンは劇的に拡大。中でもターゲットを絞って人気があったのがゴルフフォーム確認用の8連写「写ルンです Golf Hi」だ。他にも、水辺や雪山でも使える「写ルンです 防水」、夜景と人物がきれいに写る「写ルンです Night&Day」など、ユーザーの「撮りたい」という熱意に寄り添ったユニークな機種が次々と登場した。

 現在、フリマサイトなどでは、そういった過去の未使用品が高額で取引されていることもあるが……。

「フィルムには使用期限があるため、きれいに写らなかったり、そもそも撮影ができない可能性もあります。公式オンラインショップや、正規販売代理店などの利用を推奨しております」

アプリで進化した「写ルンです」体験

 ここからは、現在「写ルンです」の企画を担当している植松さんに話を聞く。

 現在同商品に熱狂しているのは、当時のブームを知らないZ世代だ。なぜ、高画質なスマホを持つ彼らが、あえてアナログなフィルムを選ぶのか。その背景には、インフルエンサーや著名人が「写ルンです」を愛用していることもある。渡辺直美やSnow Man、浜辺美波などなど……多数の著名人が使用し話題になってきた。

「著名な皆さんが楽しんでくださる様子をメディアで拝見することも増えています。それをきっかけに『写ルンです』を知り、体験いただいた方もいらっしゃると思います」(植松さん、以下同)

 撮ったその場では確認できず、現像に出して初めて写真に対面する。その「待つ時間」さえも、ワクワクする体験として受け入れられていると植松さんは話す。

「写ルンです+」のアプリ画面。本体を発送すると約1週間で画像データが届く。画像データを使ったフォトムービーも作れる

「スマホは『記録』、『写ルンです』は『記憶』に近い感覚があるのではないでしょうか。『写ルンです』は27枚という限られた枚数しか撮れません。だからこそ、その一枚一枚を大切に撮る。現像の待ち時間も含めて、特別な体験になっているのでしょう」

 ちなみに現在の「写ルンです」は原材料価格や輸送コストの高騰を受け、2860円(税込み)。販売当時を知る人は驚くかもしれないが、そんな面からもプレミアムな体験だといえるだろう。

「アナログの良さは残しつつ、現代のライフスタイルに合わせた進化もしています」

 と植松さんが語るのが、スマートフォン専用アプリ「写ルンです+(プラス)」だ。

「『写ルンです+』で現像を注文し、撮影済みの『写ルンです』をコンビニから送るだけで、画像データをスマホで直接、簡単に受け取れます」

 画像データを受け取ると、まるで写真プリントを1枚1枚めくって見るような演出や、撮影した27枚を1本の「マイフィルム」として管理できる機能など、デジタルの便利さとアナログの世界観を融合させている。

「飾らない瞬間、なのに特別。TM」。これは現在の「写ルンです」のキャッチコピーだ。

「時代が変わっても、思い出を形に残したいという人の思いは変わりません。『写ルンです』は、これからもアナログならではの温かみと、時代に合わせた利便性を融合させながら、皆さんの大切な瞬間に寄り添い続けていきたいです」

 世界70か国以上で愛され、累計販売本数は17億本を突破。日本の技術遺産(未来技術遺産)にも登録された、この小さな“レンズ付フィルム”は、40周年を迎える今もなお、色あせることなく私たちの日常を切り取り続けている。

富士フイルムイメージングソリューション事業部コンシューマーイメージンググループ植松美里さん 学生時代から常に「写ルンです」を携帯していたという植松さん。スマホアプリ「写ルンです+」の開発や、楽しい使い方の提案にも携わっている。撮影/伊藤和幸
答えてくれたのは……富士フイルム イメージングソリューション事業部コンシューマーイメージンググループ 植松美里さん 学生時代から常に「写ルンです」を携帯していたという植松さん。スマホアプリ「写ルンです+」の開発や、楽しい使い方の提案にも携わっている。

取材・文/高松孟晋