2025年の大晦日に放送された『第76回NHK紅白歌合戦』の視聴率が発表され、平均世帯視聴率は第2部で35.2%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)。前年比で2.5%増だった。瞬間世帯最高視聴率は40.7%で、5年ぶりに40%の大台に乗った。放送前には、「嵐に断られ目玉がなくなった」と視聴率を心配する声も上がったが、どうやら杞憂だったようだ。
『紅白』出場歌手と演出の妙
紅白の視聴率といえば、第14回(1963年)では81.4%という、日本国民8000万人が見たことになる驚異的な数字を叩き出したことがある。まさに、国民的な歌番組だった。
少し下落しても70%台をキープしていたころもあったが、1980年代後半から一気に落ち始め、2部制となった1989年からは30~40%台が続いている。時代とともに生活習慣も大きく変わり、大晦日に家族そろってテレビの前に陣取り、紅白を見る家庭も減ってきている。さらに、録画や配信で遅れて番組を見ることが可能になり、視聴率だけで番組の人気度を測れることはできなくなってきている。
そんな中、これだけの視聴率を獲得しているのは立派といっていいのではないだろうか。いろいろ批判的な声も聞かれるが、視聴者からの評判は概ね良く、NHK内部でも「見ごたえがあった」「例年と比較して、いい出来だったと思う」という声が聞かれたという。
それは、出場歌手と演出の妙に尽きる。郷ひろみを始め、松任谷由美、玉置浩二、福山雅治×稲葉浩志、米津玄師、そして松田聖子。さらに布施明や岩崎宏美、久保田利伸、高橋真梨子、TUBE。演歌勢では石川さゆりに坂本冬美、天童よしみ、氷川きよし……と、なんとも豪華なラインナップ。それだけでなく、人気グループではKing & Prince、SixTONES、Number_iら“旧ジャニーズ”に、RADWIMPS、Mrs. GREEN APPLE、AKB48まで。押さえるところを押さえた、幅広い年齢層の視聴者に響くラインナップでもあったことがわかる。
また、応援合戦などのにぎやかしの演出を省き、朝ドラのショートドラマを入れるなど、視聴者が落ち着いて番組を楽しめる演出となっていた。
「若い視聴者を獲得しようと、出場歌手の顔触れが偏った時期がありましたが、紅白に限ってはそれは上手くいきませんでしたね。その反省を生かした結果ではないでしょうか。そもそも若い人はテレビを見なくなってきてますからね。それぞれの年齢層の視聴者が見たい、聞きたい歌手がまんべんなく出そろった感があり、オンタイムで見ている人が皆楽しめたということでしょう」(テレビ誌ライター)
テレビ朝日まで「敵に塩」
結果オーライということだが、嵐やSnow Manに出場を断られたことがいい方向に向かった、と語るのはNHK関係者。
「制作サイドは“目玉”を用意しなければ、と焦りはあったようですが、内部では逆に“旧ジャニーズ”に依存するのはどうなのかという意見もありました。とはいえ、人気があるグループの出場は願うところでもあったので、結果的にバランスが取れましたし、特定の事務所に忖度していると思われることもなく、いいラインナップになったと思います。放送前から内部では“今年は行けるんじゃないか”という声も出ていましたし、ケガの功名というわけじゃないですがね」
そして、紅白といえば、視聴率を少しでも奪おうと他局が対抗番組を放送することが習わしとなっていた。年末になると紅白にぶつける裏番組の番宣が盛んになるのだが、ここ数年、静かになった感がある。
「たしかに、紅白をそれほど意識しなくなりました。以前は紅白に少しでも肉薄できるように視聴率が獲れそうな企画を考えろ、なんて言われました。視聴率のことを考慮しないわけではありませんが、番組を録画や配信で見るようになり、視聴率そのもの意味合いも薄くなったように感じます。最近は年末特番といっても特に紅白を意識することはせず、作りたい番組をつくるようになったと思います」(民放プロデューサー)
さらに驚いたのは、1月1日に放送された『羽鳥慎一モーニングショー新春特大スペシャル』(テレビ朝日系)だった。
「特番ということもあり、またこれといったニュースもなかったからとはいえ、紅白の名場面をおよそ35分に渡ってダイジェストで放送したのには驚きました。しかも、歌唱シーンだけでなく、取材に来ている記者たちがNHKホールの廊下で出演者に声を掛けている場面もあって、紅白の“裏”を見ることができて面白かったですね」(同・民放プロデューサー)
それだけではなく、元テレビ朝日社員で同番組のコメンテーターを務める玉川徹氏は、ダイジェスト映像を見て「力の入りようが違うよね、この番組は他と比べて。すごいね。すごい番組だと思う」と絶賛していた。
前出の民放プロデューサーは、「前代未聞です。長い間、紅白は民放にとって、なんとしても落城させたい難攻不落の城であったわけですから。敵に塩を送るみたいな話で、テレ朝の懐の深さに皆感心していますよ」と話す。
“古くて新しい”紅白の誕生となったわけだが、不要論や打ち切り説も出なくなり、他局からも称えられほどになったいま、名実ともに“国民的番組”となったと言えるのでは――。
