BTS

 メンバー全員の兵役期間を経て、およそ4年ぶりに活動を再開するBTS。SNSなどの反響を見ても、その熱狂ぶりはまったく衰えていないように思える。変わらぬ人気の理由をひもといていくと、これまでのK-POPアーティストとは一線を画す綿密な戦略が見えてきて―。

韓国世論を二分するほどの事態に

 '22年6月からの活動休止を終えて、ついに本格始動したBTS。今年1月5日に、所属事務所HYBEが運営するグローバルファンプラットフォーム「Weverse」を通して、5枚目となるニューアルバム『'ARIRANG'』の発売と、34都市全81公演のワールドツアーの開催を発表した。

BTSは、'13年6月にデビューした、韓国の7人組ボーイズグループ。'20年8月にYouTubeに公開されたヒット曲『Dynamite』のミュージックビデオは、再生回数が20億回を突破するなど大記録を達成しています。ひたむきにキャリアを積み続け、韓国を代表するグループに成長。K-POP界を牽引する存在となりました」(音楽誌ライター)

 '18年、'20年、'21年には、国連総会でもスピーチを行った。

「'18年はメンバーのRMさんが、世界の若者に向けて英語でスピーチ。自分の生い立ちを振り返り、まずは自分を愛し、声を上げることへの重要性を訴えたんです。

 '21年は、“楽しい”“踊ろう”“平和”を意味する国際手話を活用した振り付けで『Permission to Dance』をパフォーマンスしました。新型コロナウイルスで苦しむ世界中の人たちに向けてエールを送ったんです」(スポーツ紙記者、以下同)

 人気絶頂のさなか、グループは活動休止を発表する。

「デビュー9周年を記念した配信動画『真・防弾会食』で、全メンバーの兵役入隊とグループ活動の一時的な休止を公表したんです。韓国には徴兵制があり、原則として19歳から28歳までの健康な男性に、兵役義務が課されます。これは北朝鮮との緊張関係など安全保障上の背景があるからで、陸軍や海軍、空軍でおよそ2年間服務することになっています。

 一方で、兵役が免除される事例もあります。身体的な問題を抱えていたり、国の名誉をかけて競う世界大会などのスポーツ競技で優秀な成績を収め、貢献した人々が該当します。BTSの兵役免除に関しては、韓国世論を二分するほどの事態になりました

 エンタメ社会学者の中山淳雄氏は、メンバー全員が兵役につくことになり、「BTSでさえ兵役が免除にならないということで、韓国国民も動揺していたと思います」と語る。

後輩グループたちにとっても追い風か

 こうした背景をもとに、およそ4年間の活動休止期間があったにもかかわらず、なぜ彼らは高い人気を保ち続けることができたのか。ジャーナリストの松谷創一郎氏に聞くと、

BTSは従来の、つくられたアイドルの枠組みを超え、自分の言葉でメッセージを発信する主体性が人気の根源といえます。時に葛藤や悩みをさらけ出す率直な姿勢が、世界中のファンの共感を生んでいきました

多くのファンに迎えられ、'25年6月10日に除隊した(左から)RMとV

 最大の要因は、綿密に計算された空白期間を感じさせないスケジュールにあるという。

メンバーの入隊時期を少しずつずらし、入隊中であっても事前に準備されたソロ曲やアルバムなどのコンテンツを段階的に発表するように準備されていました。グループ活動は止まっていても、ある程度は誰かの新しい動きがある状態が維持されていたわけです」(松谷氏、以下同)

 BTSのカムバックがK-POPシーンに与える影響については、

BLACKPINKやTWICEなど、グローバルに活躍するベテラン勢に加え、BTSが復帰することは、K-POPの成熟を象徴する出来事といえるでしょう。特にBTSは、K-POPをグローバルな存在へと押し上げたといえます。彼らがふたたび動き出すことで、現在、世界的に活躍しているLE SSERAFIMやIVE、またHYBEの後輩グループたちにとって、さらなる追い風や相乗効果をもたらす可能性があります

 かつては“BTS一強”と言われた時代もあったが、

不在期間にほかのグループが育った今の状況下で、BTSがどれほど勢いを回復し、ふたたびK-POPシーンを牽引して業界を活性化させられるかどうかに注目しています

 ワールドツアーは、韓国の高陽総合運動場メインスタジアムを皮切りにスタートする。

1月22日に実施されたファンクラブ先行予約では、全3公演のチケットが即完売しました。待望の日本公演も4月に2日間行われますが、プラチナチケットとなることは間違いないでしょう。全国からの申し込みだけでなく、日本近郊の国からも申し込みが殺到することが予想されます」(前出・スポーツ紙記者)

 ライブは東京ドームで開催されることになっているが、なぜ日本一の収容人数を誇る国立競技場ではないのか。

BTSの芸術的哲学と通じている

アジア最大の音楽市場だった日本の東京ドームは“アジアの星”ともいえる場所です。一方で彼らは、地固めで東京ドームを選んだのではないでしょうか。アジアのアーティストが日本で成功した証といえば、『NHK紅白歌合戦』への出場や、東京ドーム、武道館でのライブが挙げられると思います」(中山氏)

韓国伝統民謡の名を冠した新作は、予約開始1週間で400万枚を突破

 松谷氏は、今後のグループの展望について、このように語る。

3月に発売予定のアルバム『'ARIRANG'』が、彼らの今後を占う試金石となるでしょう。韓国の伝統的な民謡をタイトルに冠することは、当然、民族的なアイデンティティーを意味し、それが欧米などでどう受け止められるかが、カギとなります

 ARIRANGは、朝鮮半島で最も愛されている民謡のこと。韓国では、第二の国歌のように、世代を超えて共感を呼ぶ歌といわれている。

彼らは楽曲『IDOL』で、韓国の伝統衣装である韓服を着たことも。歌詞で母国の社会問題を扱うなど、韓国的なルーツを一貫して守ってきたんです。ARIRANGに込められた人間の創造性、共感、表現の自由などがBTSの芸術的哲学と通じているとも期待されています」(前出・音楽誌ライター)

 兵役という避けられない空白を経て、再び7人が世界の前に立つ─。

なかやま・あつお エンタメ社会学者。Re entertainment代表。日本コンテンツの海外展開をライフワークに、研究・教育や行政アドバイザーなども務める。著書に『推しエコノミー』など

まつたに・そういちろう ジャーナリスト。専門は文化社会学・社会情報学。映画、音楽、テレビなど文化やメディアを幅広く取材・執筆。著書に『SMAPはなぜ解散したのか』など