これまで旅行作家やタレント、グラビアモデルとして活動してきた歩りえこさん。昨年9月、大腸がんを患っていることを公表し、手術後の困難な生活をユーモアを交えながら前向きに語っていることが話題だ。
早期発見ができれば生存率は高い大腸がん
大腸がんは女性のがん死亡率1位(国立がん研究センター「がん統計」より)だが、早期発見ができれば生存率は高いことが知られている。歩さんの場合、わずかな自覚症状と家族歴が検診に行くことにつながったという。
「ちょっと便が緩くなっているなあという自覚がありましたが、重大な病気という感じではなく……。でも、うちは父と兄がふたりとも大腸がんステージ3を患っていたので、念のため内視鏡クリニックを受診することにしたんです」
と歩さんは話す。
大腸内視鏡検査を受けたところ6個のポリープが見つかったが、1つが2センチを超える大きさだと判明。ポリープは2センチ以上だと悪性の可能性が高くなる。不安を抱えて検査結果を病院へ聞きに行くと、がんが確定したという。
「病名を告げられたときは呆然として涙がこぼれてきました。でも父も兄も今は元気なので、“大腸がんツアー”“人生という旅のちょっとした寄り道”なんだと気持ちを切り替えました」(歩さん、以下同)
歩さんの場合、リンパ節への転移の疑いもあり、一刻も早い手術が必要で、医師からは3つの病院を紹介された。
「本当は自宅から近い病院がよかったのですが、最短で予約が取れた(東京・江東区の)がん研有明病院を選びました。『あなたは女性で、まだ若いから、傷痕が小さいロボット手術にしましょう』と提案され、3週間後に手術が決まったんです」
結婚、離婚を経て2人の子を育てるシングルマザーだった歩さんだが、最近になって2024年に未婚で第3子を出産していたことを公表した。入院し手術することを、10歳の長女と9歳の長男にはどのように伝えたのだろうか。
「『ママはがんで、がんは死ぬ人も多い病気なんだよ』と説明しましたが、子どもは『嘘でしょ』と信じてくれません。見た目は元気だったからでしょう。病院の写真を見せたり、入院中はビデオ通話を続けましたが、病気の深刻さを子どもは理解できておらず、かえってよかったのかなと思います。入院中は両親が子どもたちの世話をしてくれたので助かりました」
お腹に傷があると仕事に支障が……
手術までの3週間は検査で忙しかったが、がんにまつわる書籍を片っ端から図書館で借り、インターネットで体験談を読み、ほかに治療の選択肢はないのかどうかも探っていた。
「グラビアモデルの仕事もしていますから、お腹に目立つ傷ができることに抵抗がありましたし、術後の後遺症も不安でした。でも転移の可能性もあるので、早く手術をしないと取り返しのつかない状況になってしまいます。標準治療で悪いところを切るしかないと、腹をくくったんです」
歩さんは医療保険に入っておらず、入院ではいちばん料金が安い大部屋を選んだ。
「実はコロナ禍まで3つの保険に入っていたんですが、生活のためにすべて解約しちゃったんです。入っていれば保険金が下りたんですけどね。
手術後は今までのように旅行に行けず、お腹を見せるグラビアの仕事も難しくなります。経済的に苦しくなることがわかっていたので、病室は大部屋一択でした」
手術は5時間に及んだが、その後の様子をインスタグラムで「管フェス開催中」と表現したことも話題に。尿道の管、お尻の穴の管、点滴の管、お腹のドレーン……と管につながれ動けない状況をユーモラスに綴っているが、実際のところは「生き地獄だった」という。
「水を一滴も飲んではダメで、口と口がくっつくぐらいカラカラに……。起き上がることも、寝返りを打つこともできず、とんでもなく苦痛でした」
2日目には歩行訓練が始まり、少しずつ回復していったが、傷の痛みと排便障害は続いていた。
「ずっと便を出している状態なので、お尻がずっと痛いんです。痛み止めは1日に飲める量を全部飲んでいました。起きていると痛みでつらいので、睡眠薬を点滴から流してもらい、眠るようにしていました」
大腸がんは手術をすれば大丈夫というわけではなく、退院後も通院は続く。
「ここから2〜3年は再発しやすいので、再発の兆候が見えたらすぐに対処していかねばなりません。3か月に1回はCT、内視鏡の検査は1年に1回。排便障害の薬を処方してもらうため、3週間に1回ぐらいのペースで通院が必要です。医療費もばかになりません」
排便障害についても赤裸々に告白
食事も今までどおりにはいかない。消化のよいもの、腸によいものを意識しないと腸が“大フィーバー”してしまうことに。
「今はうどんとおかゆが中心です。冷たいものを食べると便が止まらなくなるので、大好きなガリガリ君は我慢しています。腸にいいといわれるヨーグルトは食べる1時間前ぐらいに冷蔵庫から出して常温に。納豆など発酵食品もとるようにしています。
外出前は断食しないと、トイレを探して大変なことになるので、排便を抑える薬を飲みながら、子どもたちとのお出かけも楽しむようにしています」
排便障害の大変さを赤裸々にインスタグラムで発信しているが、発信を続けるのには理由があった。
「私はまだ44歳で、がんになるはずはないと思っていたのに、ある日突然がんになって、人生がガラリと変わりました。皆さんも若いからと過信せず、早期発見のために検査に行ってほしいという思いがあります」
これまではグラビアによる男性ファンが多かった歩さんだが、がんを公表したことで同じ病気の人たちからのアクセスが増えた。
「がんの方がコメントをくださったり、DMが入るようになりました。励ましのお言葉もたくさんいただき、ありがたいですね」
がんになったことで人生観も大きく変わった。
「人生は終わりが来るんだ、ある日突然病気になって亡くなる可能性もあるのだと、身をもって気づきました。今までは忙しいから、疲れているからと後回しにしていたことを『今この瞬間にやらないでいつやるんだ』と思うようになり、排便障害があっても子どもたちをいろんなところに連れていっています。
いつ自分が死んでしまうかわからないから、今日できることは今日やらないといけない。後悔しないよう、やりたいことを全部やってから死にたいと思うようになりました」
排便障害は2年ほど続くといわれ、まだ不自由な生活だが、症状が改善したら、また旅に出たいという歩さん。
「私の代表作である『ブラを捨て旅に出よう 貧乏乙女の“世界一周”旅行記』の続編を書いていましたが、病気で中断している状況です。後遺症が落ち着いたらもう一回旅に出て、本の続きを書くことが今の目標です。
ただ、排便障害がずっと治らない可能性もあり、そうなると旅先で常にトイレを探さなければなりません。世界のトイレ情報をリポートする『トイレを探して旅に出よう』という本もいいかもしれませんね」
がんになっても前を向いてたくましく生きている歩さんの姿に勇気をもらっている人は多いはずだ。病気を克服した後の、旅行記の続編を楽しみに待ちたい。
<取材・文/紀和 静>
