日常を共に過ごしている3代目わんこのハルちゃんと海にお散歩する折原みとさん 撮影/砂原文(写真はすべて『60代バツなしおひとりさま、毎日ごきげん暮らし』から転載)

「このままずっとひとりだったら……」年齢を重ねるほど、ふと胸をよぎる不安。けれど、ひとりだからこそ手に入る自由や心地よさもある。住まいも、趣味も、人づきあいも“自分基準”。誰かと比べず、無理をせず、「ま、いっか」で生きていく。そんな折原さんの姿は、これからの人生を考える私たちに勇気をくれる―。

独身であることや年齢に不安を感じている人に伝えたかった

 “おひとりさま”という言葉に、あなたはどんなイメージを抱くだろうか。

 かつては“さみしい”“孤独”といった印象を重ねる人も少なくなかったが、いまやそれは過去のものになりつつある。“おひとりさま”は、ひとりの人間として自立し、自分らしい人生を選び取る生き方を表す言葉へ。

 そんな“おひとりさま”のイメージを大きく変えたひとりが漫画家・小説家の折原みとさんだ。1964年生まれ、現在62歳。

 自らを“60代バツなしおひとりさま”と名乗り、“おひとりさま”ライフを楽しむ姿をSNSや書籍で発信。その明るくポジティブな生き方や言葉は、同世代に限らず、多くの人の共感を集めている。

結婚や家族を持つことを否定しているわけじゃないんですよ。仕事や出逢いのタイミングでたまたま“おひとりさま”なだけ。でも、ひとりでもごきげんに暮らしている人がいる。その姿を、独身であることや年齢に不安を感じている人に伝えたかったんです。“おひとりさま”も、悪くないよって」(折原さん、以下同)

 折原さんの充実した“おひとりさま”ライフを支えているのが「住まい」だ。21歳で漫画家としてデビューし、2年後には小説にも挑戦。100万部を超えるヒット作を生み出すなど、仕事一筋の道を走り続けてきた。

当時は東京のマンション住まいで、昼夜逆転の生活。恋人ができても仕事を優先してしまい、デートをキャンセルすることも多くて、なかなか長続きしませんでした

 仕事は好きだし、充実はしていたが、締め切りに追われ、仕事漬けの日々。

30代に入ったころから不安を感じるようになりました。自分の中にあるものをアウトプットする職業だけに、締め切りに追われる日々では、書きたいものがなくなってしまうのではと。そんなとき、たまたま取材で小笠原諸島を訪れたんです

 果てしなく広がる海と豊かな自然、そして島の人々が刻む穏やかな時間の流れ。その体験が、折原さんにとって大きな転機となった。33歳のとき、海に近い湘南に思い切って移住した。

海から富士山まで見渡せる高台で、景色の良さがいちばんの決め手でした。リラックスできる住まいにしたくて、自分で間取り図を描きながら一軒家を建て、ひとつずつ好みのインテリアをそろえていきました。そして、ゴールデンレトリバーを飼い、子どものころから憧れていた“犬と暮らす”という夢もかなえました

 海の近くでの暮らしを選んだことで、仕事一色だった折原さんの日常は、大きく様変わりする。

神経質になりすぎるほうが、かえってストレスに

愛犬はいまの子で3代目です。犬の散歩もあるので、自然と朝型の規則正しい生活になりました。散歩の途中で草花に目を向けるようになり、四季が身近に。梅干しなどを手作りしたり、野草を摘んで食べたり、アウトドアを楽しんだりするようにもなりました

折原みとさん 撮影/砂原文(写真はすべて『60代バツなしおひとりさま、毎日ごきげん暮らし』から転載)

 さらに、八ヶ岳に別荘を持ち、茨城の古民家を手に入れ、近年は横須賀にアトリエを置くなど、多拠点生活へと暮らしに広がりを見せている。

「それぞれの場所に季節ごとの良さがあって、拠点が変わると気分も自然と切り替わります。新しい出会いも生まれ、人間関係も広がっていきました

 仕事関係に限らない、こうした“ご近所づきあい”の人間関係が、折原さんの“おひとりさま”ライフを、より豊かなものにしている。

散歩をしていれば犬友達に会いますし、家に集まってホームパーティーを開くこともよくあります。一緒に蛍を見たり、焚き火をしたり、スポーツを楽しんだり。そこから、また新しい趣味が広がっていきました

 折原さんの趣味は実に幅広い。シュノーケリングやバドミントンに加え、茶道、書道、華道、日本舞踊、さらには弓道など、和の習い事にも積極的に挑戦してきた。そうした場で出会う人々や新しい世界は、物語の舞台となり、創作にも生かされている。

人間関係で大切なのは“親しき仲にも礼儀あり”ということでしょうか。ずけずけと聞かない、踏み込まない、よい距離感を保つことだと思います。でも、職業柄でしょうか、『えっ』と思うような言動の人に出会っても、『どうしてこんな言い方をするんだろう?』と興味が湧いてきて、だんだん面白くなってしまうんです。

 人間関係は鏡のようなもの。こちらが不信感を抱けば、それは相手にも伝わってしまう気がします。だから見栄を張らないことも大事。背伸びして自分をよく見せようとすると疲れてしまうし、長続きしません。

 できないことはできない、わからないことは正直に言ったほうがラク。本当の自分をわかってくれる人とつきあうほうが、心地いいですよね」

 健康の秘訣として折原さんが挙げるのは、“ストレスをためないこと”。

暴飲暴食はしませんが、好きなものを食べて、お酒も楽しみます。おいしくいただくことがいちばん。健康に気を使うあまり、栄養や素材、バランス、量などに神経質になりすぎるほうが、かえってストレスになりますから

 また、“おひとりさま”を心地よく生きる極意として、豊かさや幸せの“自分なりの基準”を持つことの大切さを語る。

遅すぎるということはない

何が“正解”で、何が“間違い”なんてありません。何に幸せを感じるかは自分次第。何かを始めるのに年齢は関係ないし、遅すぎるということもありません

 折原さん自身、いまもやりたいことは尽きないという。

インテリアコーディネーターの資格を取ることや、動物に関わるコミュニティーをつくりたいですね。あとは、SNSだけでなく、より多くの方に自分の文章を届けたく、日々の日記やエッセイのようなことを投稿するプラットフォームの『note』で発信しようと企画中です

 思い立ったら、まず始めてみる。その行動力が、折原さんの世界を広げてきた。

もちろん失敗もありますよ。八ヶ岳でカフェを開いたこともありますが、投資額がかさんで結局は閉店しました。でも“ま、いいか”が私の口癖であり、ポジティブマインドの原点。命に関わるようなことでなければ、たいていは何とかなります。“ま、いっか”と、口にするだけで気持ちが軽くなって、深刻になりすぎずに前へ進む力をくれるんです

 “おひとりさま”はひとりの人間として「どう生きたいかを大切にする姿勢を指す言葉とも言えますね」と折原さん。毎日の暮らしを楽しむ生き方からは、そんな力強いメッセージが伝わってくる。

折原みと著『60代バツなしおひとりさま、毎日ごきげん暮らし』(KADOKAWA)漫画家・折原みとさんによる、誰にも縛られず、自分を大切にしながら毎日を機嫌よく過ごすための知恵と前向きな気づきを綴った一冊

取材・文/小林賢恵 

おりはら・みと 1985年に少女漫画家デビュー後、小説家としてもデビュー。『時の輝き』などのミリオンセラーを生み出した人気作家。エッセイ、料理本、ドッグカフェ経営など、多彩なジャンルで幅広く活躍。