消費税ゼロを掲げる高市早苗首相、中道・野田佳彦氏

 1月23日の午後1時、衆議院本会議の冒頭で高市早苗首相が衆院の解散に踏み切った。

「解散した理由について“連立政権の枠組みが変わったこと、衆参両議院で過半数を得ていないこと”を挙げて、改めて国民の信を問いたいと述べました。たしかに自民党は日本維新の会と連立を組み、政権運営が変わりましたが、やはり根底には高市首相の支持率が高いうちに議席を増やし、政権基盤を盤石にしたいという思惑があるといわれています」(全国紙政治部記者)

 政治ジャーナリストの青山和弘氏は、今回の解散は“掟破り”だと指摘する。

「首相就任からたった3か月での解散は、戦後でも3番目という異例の早さ。しかも不信任案可決などの外的要因ではなく、総理の判断で踏み切るという、かなり無理のある解散です。このままでは新年度が始まる4月1日までに予算案は成立せず、政策の遅れも生じるでしょう」

 無理があるのは“早さ”だけではない。

「1月は通常国会が始まる時期。それに受験シーズンと重なるため、この時期の選挙は“やむにやまれぬ状況”で行われたケースがほとんど。加えて、前回の衆議院の選挙からまだ1年3か月と、4年ある任期の折り返しにも届いていませんから、決断の是非について問われるべきだと思います」(青山氏)

各党が「消費税ゼロ」を公約に

 昨年12月時点で“経済対策を優先する”と語るなど、解散に否定的だった高市首相の方針転換。政策でも大きな転換を図っている。

自民党は今回の衆院選に臨むにあたって、アルコールなどを除いた軽減税率が適用されて8%となっている飲食料品の消費税を“2年間0%”を公約として掲げました。立憲民主党と公明党による『中道改革連合』は、2年間限定ではなく“飲食料品の消費税を恒久0%”を公約にするなど、ほとんどの野党が消費税減税を訴えていますが、それに追従する形になりました」(前出・全国紙政治部記者、以下同)

次期衆院選の公約“目玉”、各政党が掲げる消費税政策

 これまでの自民党は減税策に消極的だった。

「石破茂前首相も、2025年5月に国会で物価高対策として消費税率の引き下げが論じられた際“税率を変更すると小売店のレジやシステム改修などで実施まで時間やコストがかかる”と否定的でした」

 とはいえ、国内の物価高は深刻な社会問題となっている。

「長年、1ドル100円前後で安定していましたが、2022年以降は円安が一気に進行し、今では1ドルあたり150円から160円と価値が下落。加えて世界的に石油や天然ガスなど燃料価格の高騰も重なって輸入品の価格が上昇。その結果、米や野菜、菓子などの食品や製造品、輸入品に至るまでありとあらゆるものの価格が上がっています」 

 自民が減税策を出したことで、ほぼすべての政党が消費税減税を公約として打ち出すこととなったが、これらの政策には効果があるのか。経済ジャーナリストの荻原博子さんに話を聞いてみた。

私は消費税減税に賛成です。総務省によると2025年は1年間で食料品などの物価が約3%上がったというデータもありますし、食品の値上がりによる食べ盛りの子どもたちや、貧困層への影響は甚大です。8%が0%になるということは単純にスーパーやコンビニで買う食品が約1割安くなるので、庶民の生活への恩恵は大きいと思います」

「公約は守られない」ともいわれるが

 緊急時の減税は、自然な政策の一つという。

「コロナ禍で世界経済が停滞していた2020年、イギリスもドイツも消費税を下げるなどして景気刺激策を打ち出しました。一方の日本は2019年10月に消費税を8%から標準税率10%に増税して、そのまま。国民が疲弊しているときに上げっぱなしはおかしい。また、消費税を上げた6年間で約20兆円も税収は増えています。食料品の税を0%にした場合、年間約5兆円の税収が減るといわれていますが、2年間実施しても10兆円。多く徴収したぶん、国民に還元すべきです」(荻原さん、以下同)

 選挙公約は往々にして守られないともいわれるが、今回はそうでもないようだ。

「ほぼすべての政党が消費税減税を訴えていますし、高市首相は就任して3か月の間で予定どおりガソリン税の暫定税率を廃止して、所得税の非課税ラインを178万円まで引き上げるなど、公言したことは一応、実施しています。消費税0%に2年間という期限を設けたのも、物価高を落ち着かせるのに必要な期間であると同時に、具体的な税収減を見込んで打ち出したのでしょう」

2025年10月、「消費税負担軽減対策チーム」の立ち上げを発表した立憲民主党の野田佳彦代表(本人のXより)

 消費税減税策に期待を寄せる荻原さんだが、同時に不安も抱いている。

「自民党はリベラル寄りの公明党と離れてから、強硬的になりつつある印象を受けます。“台湾有事発言”以降、日中間もギスギスするなど外交面に不安を覚えます。一方、恒久0%を打ち出している中道改革連合にしても、代表の野田佳彦さんは首相を務めていた2012年、当時5%だった消費税率を段階的に引き上げるという法案を承認した張本人。どの口で減税を訴えているんだと思う人は多いのではないでしょうか」

 消費税以外にも着手する問題はたくさんある。

国民の生活をいちばん圧迫しているのは、健康保険料や年金などの社会保障費ですから、それらに着手しない限り国民の生活は改善しないかもしれません。減税も大事ですが、若い人たちが稼げるようにしなくては日本の将来は不安定なままかもしれません」

消費税減税を理由に他で「増税」も

 青山氏も、消費税減税に伴うリスクを警戒している。

「結局、物価高の大きな要因は円安なのですから、いくら消費税率を下げても物価が上がることもあります。ほかにも、税収減を理由に、医療費や年金など社会保険料をさらに上げてくる可能性も否めません。消費税減税が必ずよい結果を招くというわけではないと思います」

 今回の選挙では、消費税以外の視点も持つことが大切なようだ。

「消費税減税は恒久的か2年か、軽減税率だけなのか全体なのかの違いはあれど、どの党も似た公約を掲げていますから、争点としては薄まっています。やはり問われるのは高市さんの掲げる“積極財政”を支持するか否かだと思います」(青山氏、以下同)

 積極財政とは、政府が景気の下支えや成長投資を目的に、大きく財政出動するという政策姿勢。需要を生み出す一方、政府支出の拡大により財政悪化や赤字国債が増えることで、さらなる円安を招く危険性もある。

国民民主党や参政党に流れた票を取り戻せば、自民党は次の衆院選で議席を伸ばす可能性は十分にあります。このような状況だからこそ、有権者それぞれが、自分の思いを託せる政治家を見極めることが大事だと思います」

 大きな関心を呼ぶ消費税減税策だが、その裏では政局を巡るさまざまな思惑が交錯している─。